- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第9章 ジャブジャブ様とプリンセス 作者:アナザー


 ゾーラ川では、またしてもケポラ・ゲボラが待っていた。”ゾーラ族”はハイラル王家に仕え、水源を守る一族。それゆえ、王家と関わりのある者にしか扉を開かぬという。少年は、ゾーラ川上流の滝の前で”ゼルダの子守歌”を吹いた。水を守る一族が閉ざす扉といえば、水の扉、水の壁、すなわち滝であるに違いないと思ったからだ。ゾーラの里へ入った少年は、強引だったナビィに感謝した。そこには、新たな出会いが待っていたからだ。入り口を入ってすぐに目にした巨大な滝はあまりにも美しかった。里の上部にある王の王座の脇から流れ落ちる滝は、巨大な湖を形成し、その湖底にある地下水脈はハイラル湖に直接流れ込んでいる。ここに住むゾーラ族は、その地下水脈を使い、里とハイリア湖を行き来しているという。この滝の高
さは、ただ眺めるだけではなく、実際に滝つぼまで飛び降りることで身をもって知ることができる。また、この滝ではルピー拾いの素潜りゲームを楽しめる。時間制限があるのは、時間経過とともにルピーが地下水脈に吸い込まれてしまうからだ。これも、飛び降りた者を優しく受け止めてくれる程の豊かな水量を誇るゾーラの里ならではの遊びであろう。少年は、その素潜りゲームが気に入った。涼しくも息苦しい水中が気持ち良いのではない。ゲーム開始時の飛び込みで得られる浮遊感がたまらなく気持ち良かったのだ。

 見事規定のルピーを取り”銀のウロコ”を手に入れた少年は、地下水脈でつながるハイリア湖で泳いでみた。いままでより深くまで潜れるようになった少年は、湖底で素潜りゲームで誰かが取りそこねたルピーを集めていた。気持ちよく泳いでいた少年に、ナビィが突然話しかけた。湖底になにか落ちている、と。少年はその何かを目指し、深く潜ってみた。それはビンだった。その中に入っていた”ルトの手紙”を読んだ少年は、内容を無視し、キングゾーラに見せた。そし
て、キングゾーラから行方不明の”ルト姫”検索を頼まれ、”ゾーラの泉”への道が開かれた。少年は、ジャブジャブ様に魚を供え、吸い込まれるように内部に入った。

 そこはまるで巨大な生ける洞窟だった。清らかな泉に住むジャブジャブ様の体内は、少々生臭い。巨大な守り神は、食べた者をすぐに消化したり、異物として排除しようとする攻撃的な性質は持っておらず、来るものを拒む穏やかな体質を持つがゆえに、ガノンドロフの手によって持ち込まれた寄生生物が体内に繁殖してしまっている。清らかな環境で生きる者にとって、異物の侵入という外界からの刺激には弱かったということだろう。そこは驚く程広く、複雑に入り組んでおり、さながら迷宮のようだが、あくまでも生物の体内である。壁も床も天井も、全てがジャブジャブ様の内臓の内壁であることを忘れてはならない。剣やブーメランなどの武器が壁に当たると、その痛みのために内臓が細かく震える。少年は、そのことを忘れずに、不用意に傷つけることのないように、注意しなければならなかった。ただし、あえて刺激を与えなければ開かない粘膜があったが、ナビィがヒントを探してくれて、謎が解けた。その体内での最大の重荷は、ルトの存在だった。一人で冒険してきた少年にとって、誰かを気にかけながらの行動は初めての体験だった。だが、その状況は、ハイラルの未来という、自分だけではなく他人の人生をも背負った行動の責任の重さを感じさせるきっかけとなった。

 そして奥に進んだところにルト姫がいた。こんな生臭いところに姫がいるのは、どうも不釣合いだった。だが救出にやってきた少年を振り払うように、ルトは強気な姿勢を崩さなかった。ようやく少年はルトを担いで、ひとつの大きな場所にでた。そこにはルトが探していた”もの”があった。だが少年は嫌な予感がして、探し物に近づくルトを止めようとしたが、間に合わなかった。ルトの足場がぐーっと上がり、見えなくなってしまった。少年はしまったと、急いで追いかけるが、その足場が戻ってきたとき、少年は反射的に剣を構えた。そこにいたのはルトではなく、巨大な”ダイオクタ”だった。

 ナビィがアドバイスをしてくれ、少年はダイオクタの弱点を切りつけた。だいぶ戦いになれてきた少年は、自然に勇気が出てきた。戦いに勝利した少年は、急いではぐれてしまったルトを探しに行った。そして、奥のフロアへと足を進めた先に、ジャブジャブ様に巣くった”バリネード”と出会った。少年は剣とブーメランを使い分け、触手、”バリ”、本体の順に攻撃していった。だんだんと強くなっていく敵を前に、一度弱気にってしまったが、いつもナビィが飛び回り、弱点となる箇所をアドバイスをしてくれた。そうした心強い相棒のおかげで、少年はここまで戦ってこれたのだった。

 ジャブジャブ様に巣くっていたバリネードを倒し、少年は無事に戦いが終わったと思った。だがひとつ問題があった。ルト姫にとって自分の意思は絶対であった。例えば、それは「結婚してやる」という言葉。自分は万人に求められる存在であり、取捨選択の権利は自分のみが有すると思うからこそ口にできるセリフ。相手にも選ぶ権利があるなどとは、夢にも思わない。その勘違いは、幼い頃からの周囲の者の態度によって培われてきた。その彼女の態度は、ワガママという言葉で受け止められることが多い。こうした押しの強い相手に、少年は弱かった。笑ってさらりとかわすような社交性などなく、あっけにとられるだけだった。だが、このルトの押しの強さゆえに、少年は無事に、ルトが探していたもの”ゾーラのサファイア”すなわち”水の精霊石”をてに入れることができたのである。

第9章 ジャブジャブ様とプリンセス
 2005年8月16日  作者:アナザー