- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第7章 キョーダイ 作者:アナザー


 再びダルニアの前に立ち、サリアの歌を奏でた。その緑香る旋律が、ダルニアに忘れていた笑顔を取り戻させた。どんな状況であっても、笑顔を忘れてはいけない。思い詰めてはいけない。呑気さを失ってはいけない。ゴロン族の常識である、のんびりとした気風を思い起こさせてくれた少年を、ダルニアは快く迎え”ゴロンの腕輪”を託した。その腕輪は、少年の細い腕と小さな拳にゴロン族の力を与えるものだった。持ち上げることのできなかったバクダン花を抜いてみる。簡単に抜けた。頭の上まで軽々と持ち上げて歩いてみる。驚く程、軽い。その新しい力の獲得に興奮し、手に持ったまま走り回っていると、バクダン花が次第に熱くなってきた。見てみると、赤く点滅している。少年は驚き、投げ捨てた。目の前で炸裂するバクダン
花。少年は想像した。色々な物を吹き飛ばすことを。そして、少年はまず、ドドンゴの洞窟の入り口を封じていた岩を吹き飛ばした。

 洞窟内では、巨大な怪獣の頭骸骨が少年を待っていた。これほど大きな生き物が、この世界にはいるのか。カカリコ村で人々の多様性に世界の広さを感じた少年だったが、やはり圧倒的な存在感を持つ触ることのできる巨大な物理的存在には、言葉にならない驚異
と迫力があった。その頭蓋骨の両目にバクダンを落とし、更に奥へと進んだところで、少年は生きているキングドドンゴを目の当たりにした。巨大な口から吐き出される炎と巨体が少年を襲う。少年は気を落ち着かせ、相手をじっくり観察した。ナビィからアドバイスを受け、キングドドンゴは炎を吐く前、口を大きく開けて息を吸い、炎を吐く。このパターンを知った少年は思い切って、キングドドンゴの前に出た。剣は刺さらない。この隙で相手の口にバクダンを放り込んでみようと考えたのだ。一瞬の差で黒焦げになる自分を想像しないように、震える足を前に出す。勇気を振り絞りその一瞬を待った。今だ!少年は大きく開けられたキングドドンゴの口にバクダンを放り込んだ。少年の手から離れたバクダンは弧を描きながら、キングドドンゴの口に見事命中した。ドンッとキングドドンゴの腹は爆発し、少年は戦いに勝利したのだ。ダルニアはドドンゴの洞窟の前で待っていた。そして、少年は友情の印として”ゴロンのルピー”すなわち”炎の精霊石”を譲り受け、ゴロン族の仲間から「キョーダイ」として祝福を受けた。

 デスマウンテンの頂上には大妖精がいる。ダルニアに教えられた少年は、噴火を続ける山頂を目指し、そこで大妖精から”回転切り”と”魔法力”を授かった。大妖精は、ハイラルに宿る力の象徴だった。コキリの森の妖精効果は、カップリングした相手にゆるやかな興奮状態をもたらした。その興奮作用は、妖精特有のものだった。それは、妖精の力に応じて大きくなる。それゆえ、大妖精は異常なまでにハイテンションなのである。もし、大妖精が誰かとカップリングしてしまったら、その人の頭の中は大変な騒ぎとなり、全く眠れないようのなるだろう。実は、多くの人とカップリングをくり返し、永きに渡り生き続けた妖精が大妖精となる。つまり、大妖精も、元々はデクの樹から生まれたものなのだ。

 ところで、頂上にいたケポラ・ゲポラにカカリコ村まで運んでもらった少年は、初めて体験した空を飛ぶという感覚に魅せられていた。人は浮遊感のある夢を見ることがあるが、空を飛んでいると感じる者と、水中を泳いでいると感じる者とがいるらしい。少年は、空派だった。それゆえに、初めて味わう空の旅に魅せられたのだった。もし、彼が水中派だったとしたら、この後に訪れる”ゾーラの里”に何か因縁めいたものを感じたことだろう。


第7章 キョーダイ
 2005年7月17日  作者:アナザー