- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第5章 運命と宿命の出逢い 作者:アナザー

<精霊石>

 ハイラル城の手前でケポラ・ゲボラが待っていた。デクの樹サマを失った少年には、この怪鳥こそが未来に誘ってくれる存在に思えた。だが、未来は簡単には到来しない。「姫」と出会うことが運命だとしても、その運命が城門を開けてくれることはなかった。運命は、少年が自らの手でたどり着くまで、その流れを停滞させていた。城壁にある水門からこっそりと侵入した少年は、巡回する兵士の目をかいくぐり、たどり着いた中庭で”ゼルダ姫”と出会った。それは、時によって定められた出会いだった。彼女は、夢に現れた少女の姿だった。

 神の声を夢で聞くと噂されるゼルダは、夢によって未来を知ることができた。だが、国王である父はそれを信じてくれなかった。これまでもそうだった。彼女は、過去にも、何度か小さな事件を夢のお告げにより知ることがあった。そんな時、夢のお告げが現実のものとならぬように、乳母の”インパ”と協力し、自分の力で事件を未然に防ぐ努力を怠らなかった。その甲斐あって、いつも事件は回避された。だが、事件を未然に防ぎ、未来を変えることで、ゼルダの夢のお告げは外れたことになる。そのために、国王はゼルダの夢のお告げを信じなくなったのである。危機を事前に察知し、それを回避していくことで、ゼルダの未来予知の信ぴょう性が認められなくなっていく。未来を見抜くがゆえに、現在のみを生きる者には永遠に理解されない孤独。だが、ゼルダは気丈にもその孤独に耐え、常に未来を見つめ続けてきた。 

 そのゼルダの元に、夢で見た通り、妖精をつれた緑の服の少年がやってきたのである。自分の未来が現実になった喜びと、まだ未来を変えられていない不安が混ざり合う。時の流れを止めることは誰にもできないが、流れを変えていくことは誰にでもできる。彼女は、少年に未来を語り、王と会っている”ガノンドロフ”の姿を見せた。デクの樹が語った”黒き姿”がそこにあった。驚く少年に、彼女は続けた。3つの精霊石を集め、王家に伝わる”時のオカリナ”で聖地の扉を開き、ガノンドロフを倒そう、と。彼女は”ゼルダの手紙”と共に少年に未来を託した。

 少年を城外まで連れ出したゼルダの乳母インパは、ハイラル王家に忠誠を誓い、王族の身辺を守り、王家を影で支えてきたシーカー族だった。永きに渡り王家に仕えてきた一族の誇りは、ハイラルの未来を憂える心を育んだ。それゆえ、彼女はゼルダの予知夢に従い、ハイラルの平和のために影となり行動する。それは、彼女にとって当然のことであった。平穏な時代は、利己的な欲望の追求を「幸福」と呼ぶ者を増やす。だが、平穏な時代だからこそ、来たるべき時の変革に対し無防備であってはならない。それは、未来に対する臆病さではなく、極めて現実的な姿勢。彼女はそう考えていた。その彼女が、少年にひとつのメロディを託す。それは少年が初めて覚える曲、王家に伝わる”ゼルダの子守歌”だった。彼女は言う。美しきハイラルを守らねばならない、と。そして、次なる目的地を指し示す。”炎の精霊石”があるゴロン族の山、デスマウンテンを。


第5章 運命と宿命の出逢い
 2005年6月19日  作者:アナザー