- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第4章 本当の旅立ち 作者:アナザー


 旅立つ少年の背後に、ふいに少女が現れる。少年が 自分たちコキリとは違うと気づきつつも、共に故郷の思い出を育んできた少女、サリア。彼女は、変わらぬ友情の印として、少年に”妖精のオカリナ”を贈った。物は記憶する。この時を。少年は、オカリナを見つめるたびに、そこに少女のほほ笑みを見出すだろう。オカリナを吹くたびに、そこに少女の声を聞くだろう。この記憶が、少年を支えていくことになる。旅立ちは、ふたりの日常を変える。少女の日常からは少年が失われ、少年の日常は見知らぬ世界のものになる。時はあらゆる物事を変えていく。だが、時が流れても、変わらぬものがある。そう訴えるような少女の目が、振り返ることなく旅立つ少年を、いつまでも見つめ続けていた。

 怪鳥”ケポラ・ゲボラ”がいう。「これから多くの苦難に出会うことも定められた運命」であると。少年の目前には、広大な、余りにも広大なハイラル平原が広がっていた。遊び場としては充分に広く感じられた故郷の森も、未来を担う冒険の舞台と比べれば、小さな世界に過ぎなかったことを少年は知った。森とは違い、樹木の少なさと開けた土地の広さに圧倒される。 何もない。それが第一印象だった。初めて目にした樹木以外の巨大な赤い塊に近づいた時、それが空に舞い上がった。ピーハット! 回転しながら襲いかかるものを目のあたりにし、少年は世界の大きさと己の小ささを知り、迫り来る運命というものの巨大さを肌で感じた。それを避けるように彼方の城影を目指す。自分の一歩がどれだけ小さかろうとも、歩み続ければ必ず目的地にたどり着ける。当たり前の出来事すら、感動だった。

 活気に満ちた城下町。故郷では、自分を知らぬ者はなく、自分が知らない者は誰一人としていなかった。だが、ここでは誰も自分を知らず、自分が知っている者もいない。活気と喧騒の中で、少年は孤独と見知らぬ世界に接する興奮を感じていた。知らない場所に訪れることがこれほど楽しいこととは、想像すらできなかった。誰と話しても、それが新たな出会いとなる。それは、小さな森の中で仲間達の間でくり返される会話とは全く違うものだった。何をしても、全てが未知なるものとの出会いだった。


第4章 本当の旅立ち
 2005年6月11日  作者:アナザー