- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第三章 巨大な使命 作者:アナザー

 
 森の守り神たるデクの樹サマの内部は、呪いのためかクモの巣が至る所に張られ、危険と謎に満ちていた。かつては、そこに訪れた者もいるのだろう。デクの樹 サマの要請により松明や通路がコキリ達の手により設置されていた。かつては自由に出入りできたために、ここに”パチンコ”を隠しておいたコキリもいたようが、呪われた後は危険を考慮しデクの樹サマが口を閉 じ、出入りを禁じてしまっていた。侵入したガノンドロフの手により危険な罠が数多く仕掛けられたデクの樹サマの中を、少年は奥へと進んでいった。そして少年は出会った―奥底に巣くった、呪いの根源である巨大な生物と。彼は、無我夢中で戦った―自分の命を守るために。その結果として、デクの樹サマにかけられた呪いが解かれ、定められた”時”が動き始めたのだった。

 ところで、少年は巨大なものに対する驚きを感じていた。これまで自分よりも大きな生き物といえば、デクの樹サマのような森の木々だけだった。それが、練習場の奥で転がる岩や、”ゴーマ”のような巨大な存在を目の当たりにし、初めての驚きを知った。それは、「恐怖」ではなく「驚愕」だった。子供は恐怖を覚える前に、驚きを知る。自分の知らなかった世界に触れるたびに、自分の知らない世界の見方に気づくたびに、少ない経験と知識に基づく予想を越えた現象に出会うたびに、驚く。その驚きは、気持ちがいいものだ。恐怖は人をしり込みさせるが、驚きは人を活発にする。少年の心は、コキリの森の外に向けられ始めていた。

 概に手の施しようのない程に呪いによって命を触まれたデクの樹サマが、少年に語る。過去から未来へとつながる時の伝説を。 砂漠の黒き民によってかけられた呪い。炎の中を疾走する、邪悪な魔力を操る黒き姿は、ハイラルのいずこかにある聖地を探している。神の力を秘めた伝説の聖三角”トライフォース”を手にするために。その黒き姿は、少年がうなされ続けていた悪夢に登場した者を彷彿させた。豪雨の夜。開く城門。閃く稲妻。疾風の馬。見つめあう少年と馬上の少女。そして、黒き姿の男。雷鳴。その悪夢を。

 永遠に森を守り続けると思われていたデクの樹サマが、過去と未来を語り終え、逝く。森の精霊ですら、時の流れがもたらす変化の力にはさからえなかった。抱えきれない驚きと共に仲間の元へと戻る。昨日までの少年とは違っていた。コキリ族は近づかなければ姿が見えず、幻のようにふいに姿を現す。彼らもまた、神秘なる森の妖精なのだ。コキリ族は、森以外では生きられない。だが、少年は感じた、自分が本当のコキリではないと。彼は、デクの樹サマから託された”コキリのヒスイ”を手に、故郷を離れる決意を固めていた。目指すは、ナビィが導く「神に選ばれし姫」が待つという”ハイラル城”。


第三章 巨大な使命
 2005年6月5日  作者:アナザー