第二章 初めての小さな冒険 作者:アナザー
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<旅立ちの試練>
そうした妖精体験が少年に驚きをもたらした。見慣れたはずの故郷が、初めて訪れた場所のように見える。それは新鮮な感動と発見に満ちた時間を少年に与えた。
以前、好奇心からデクの実を食べたときに感じた、パチンと弾けるような衝撃体験にも似た感動だった。見るもの聞くものの全てが驚きに満ちていた。サリアの家の屋根に登り、自分の家を見下ろす。根元の落書きが見えた。練習場。物知り兄弟の家。遠くに森の入り口。足の届かない深い川。お店。デクの樹へ通じる入り口。双子の家。そして、波立つように辺りを飛び交う妖精達。見回すだけで楽しかった。歩き回るだけで発見があった。小さな少年にとって、コキリの森は十分過ぎる程広い遊び場だった。
妖精を閃かせながら少年が走る。目の前を通り過ぎる少年を、コキリの仲間達が見つめた。ようやく妖精が来たと喜ぶ少年は、一人前のコキリになったことを
知らせるように、一人ひとりに挨拶して回る。だがミドはそれでも少年を認めようとはしなかった。
ミドにも劣等感があった。少年が自分を皆と違うと感じてたように、ミドも少年を特別な存在と感じていた。少年の風変わりなところに、ミドは憧れていた。
正しくは、風変わりなところを評価されている少年が羨ましかったのだ。少年が感じている疎外感に気づかず、特別な存在に憧れ、嫉妬した。ミドは自分の平凡さを嫌っていた。本当の自分はもっと特別な存在のはずなのに、どうして皆それを分からないのか。どうして「妖精なし」の半人前が、サリアやデクの樹サマに特別扱いされるのか。その嫉妬が、ミドを意固地にさせていた。だがミドにもそれはよくわかっていた。だからこそ”コキリの剣”と”デクの盾”を持ってきた少年に道を開けたのだった。 |
第二章 初めての小さな冒険
2005年6月5日 作者:アナザー |
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