- ゼルダの伝説 オリジナル小説 -
第一章 妖精ナビィ 作者:アナザー


<旅立ちの試練>

 コキリの森は”デクの樹サマ”に守られた、無数の
妖精が舞う、人の立ち入らぬ幻想の森。そこに、一人
ひとりが自分の妖精を持つ、陽気なコキリ族が住む。
その中に、たったひとりだけ、妖精を持たない少年が
いた。少年は妖精が欲しかった。どうして自分だけ妖
精がいないのか。仲間と遊んでいても、どこか皆と違
うような気がしてならなかった。誰も見たことがない
ような怪物の落書きをする変わり者の少年は、物知り
兄弟とは仲がよかったが、ガキ大将の”ミド”にはい
つも意地悪をされていた。彼は決して表には出さなか
ったが、ミドの言う「妖精なし」という言葉に、小さ
な胸を傷めていた。少年には、”サリア”という心優
しい友達がいた。劣等感からくる疎外感を癒してくれ
るような、彼女のオカリナの奏でるメロディーが少年
は好きだった。

 いつもと変わらぬ朝、少年の元に、”妖精ナビィ”
がやって来た。妙な夢にうなされる彼をたたき起こし
た妖精が、するりと帽子の中に入り込み、両者が結び
つく。生まれて初めての妖精体験だった。少年は知っ
た。彼が妖精が欲しかったように、ナビィもまた誰か
とカップリングしたかったことを。妖精は、誰かと結
びつく時、初めて羽が生える。ナビィは、その日デク
の樹サマに命ぜられるまで羽がなかった。少年の元へ
急ぐナビィが上手に飛べなかったのは、初めて手に入
れた羽の扱いに慣れていなかったからだ。だからこそ
カップリングの相手がいない、森に舞う妖精達には羽
がない。また、妖精の声は、カップリングした相手に
しか聞こえない。つまり、自分の妖精の声は、自分し
か聞こえないのである。妖精は帽子の中に入っている
のではなく、実は頭の中に入り込む。必要な時にいつ
でも飛び出てくる妖精は、カップリングした相手の頭
の中に入り込み、内なる声として導く。それが、妖精
の役割。頭の中に響く内なる声だからこそ、カップリ
ングした相手にしか聞こえないのである。さらに、妖
精が入り込んだ頭は、常に心地良いゆるやかな興奮状
態となる。この妖精効果があるからこそ、コキリ族は
いつまでも子供の心を失うことなく生きていけるのだろう。


第一章 再び迫る闇
 2005年5月22日 作者:アナザー