■ 別れは 未知との出会いの始まり
卒業する君へ
送
辞
君の子供の世代が学ぶ歴史の教科書には、君が卒業式を迎えた年の二つの大事件が記されます。その一つは、独裁的政権からの自由を求めて立ち上がったチュニジアの民衆から始まり、インターネットの力で瞬く間にアラブ諸国に広がったジャスミン革命。もう一つは、今なお犠牲者の数すら不明のまま、数十万人以上が避難生活を強いられている東北・関東大震災の津波被害と原発事故です。
君たちの多くが生まれたのは阪神淡路大震災の年でした。それ以降、日本のリーダーは9人も変わり、長引く不況の中、15年前には2万2千人ほどだった自殺者は13年連続で3万人を超え、82%だった冬の大卒就職内定率は68%へと低下しました。日本の社会は今、行き詰まっています。その責任は子供であった君たちにはなく、大人である私たちにあります。
しかし君は今、人類の知恵の結晶である科学技術が、世界の変革を生み出す一方、人間の手に負えない暴走の危機を招くものとなる現実を目の当たりにしています。その君が今、義務教育を終えてなお、自らの意志によって高校で学び続けることを選択したのです。君にとって、学びの意味は何か。どんな力を身に付けようというのか。識ることの感動を味わい、分かることの苦悩に耐えられるのか。
ここで過ごした三年間で、君はすでに学んでいます。授業で得た知識は暗記のためのものではなく、新たな世界を創造する糧であることを。君はすでに知っています。クラスの中でクラブの中で、文化祭や体育祭、研究旅行や語学研修の中で、小さな人の輪の中のささやかな楽しみや幸せを守るためには、耐える強さと受け容れる優しさ、そして闘う勇気が必要だということを。
君にはこれからも因習に囚われず、流行に踊らされることなく、未来を切り開く力をつけてほしい。誰かに与えられた問題を解き、用意された答えにたどり着くのではなく、自ら問題の本質を見極め、不可能を可能にする力を育ててほしい。
君はもう、子どもの時代を終わりつつあります。社会に対して責任を持つ大人になりつつあるのです。子供じみた大人にではなく、すれっからしの大人にでもなく、自ら抱いた夢や理想を追い求め続ける大人になってほしい。君が批判する人間にならぬよう、君が望む人間に一歩ずつ近付いてほしい。
遠く離れても、同じ地球に住む一人として君と共に学び続け、支え合っていければ幸いです。
学年主任 成田文広
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