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はじまりは詩と共に

生きるとは足掻くこと……中間考査10日前

2004年度 9枚目 2004/05/15

入学式、本山参拝、球技大会、避難訓練、遠足、花祭り、読書会……と、この一ヶ月間行事が続き、今日は高校総体で五人が公欠、体調不良で一人が欠席一人が遅刻。その上来週金曜21日は親鸞さんのバースデイ・パーティで授業がないかと思えば、再来週火曜25日からは待ちに待った高校生活初の定期考査で嗚呼あわただしい!

変化に富んだ刺激的な日々はステキですけど、世の中に振りまわされて自分がホントニシタイコトを見失いたくない。

英語や古典の小テストで努力不足と認定された人やら、課題未提出で励ましの声を掛けられた人やら、繰り返し追試のお誘いを受けた人やら嗚呼たいへん!

それでもこれまで何とかなった経験」を生かせる人は幸いですが、昔は良かったなどと年寄り染みたつぶやきを溜め息交じりに吐くぐらいなら、「精一杯今を生き切る勇気」がほしい。

優雅に泳ぐ水鳥が水に沈まず浮かんでいられるのは、生まれながらのフカフカの羽毛のおかげだけではなく、休むことなく水掻きを自ら掻き続けているからで、のんびり泳ぐジンベイザメやマンタと呼ばれるエイ達も、酸素を含んだ水を得るために寝ている間も泳ぎ続けているんだそうな。

     生きることは足掻(あが)くこと。
     昼の明るい教室の机の下の一掻きも
     夜の静寂(しじま)の一掻きも
     わたしの生きる
     命の営み。
     足掻く姿は美しい。

       くるあさごとに
                 岸田衿子

    くるあさごとに
    くるくるしごと
    くるまはぐるま
    くるわばくるえ

   
          詩集 『あかるい日の歌』 所収

茨木のりこ著 岩波ジュニア新書『詩のこころを読む』の中の
「生きるじたばた」で紹介されている詩です。
気ガ向いたら読んでみて。
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はじまりは詩と共に

働くことば

2004年度 8枚目 2004/05/11

明日はHR読書会  『TUGUMI』を囲んでどんな話ができるか楽しみです

みんなは球技大会を何かしら楽しみにしてたんじゃない?体を動かすのが苦手な人や日に焼けるのが厭な人もいたでしょうけど、勝っても負けても爽やかに汗をかいて良い一日でしたよね。

みんなは遠足を何かしら楽しみにしてたんじゃない?歩くのが面倒な人や虫が嫌いな人もいたでしょけど、輪になってお弁当食べて河原で石投げして心もゆったりのんびりしたよね。

みんなは読書会を楽しみにしているでしょうか?本を読むのが大変で、感想言うのは恥ずかしいと思っている人もいるでしょう。でも、一つの本を囲んで43人が思いや考えを伝え合うってちょっと緊張するけど、とってもトキメクことですよね。

僕は『TUGUMI』の次の部分が印象的でした。

P91つぐみは言った。「あたしは、最期の一葉をいらいらしてむしりとっちまうような奴だけど、その美しさはおぼえてるよ、そういうことかい」
私はすこしびっくりして、
「つぐみ、最近、なんだか人間らしく喋るようになったんじゃない?」
と言った。
「死期が近いのかな」
つぐみは笑った。
ちがう、この夜のせいだ。こんな空気の澄んだ夜の中では、人は胸のうちを語ってしまう。思わず心を開いて、となりの人に向かって遠くに光る星々に語りかけるように。私の頭の中の「夏の夜」のファイルには、こんな夜のネガが何枚もある。幼い日に3人で歩きつづけた夜にとても近いところに、今夜もいっしょに閉じられるだろう。生きている限りまたいつかこういう夜を感じることができると思うと、未来にも希望が持てる。

それともう一つ

P154 つぐみが本気で怒った時、彼女はすうっと冷えて行くように見える。……心の底から対象を憎しみの目で見据えた時、彼女は別人になる。すべてを忘れて怒りの青白い光りに全身を染めたその様子は、いつも私に「高温の星ほど赤ではなく青白く光る」という言葉を思い起こさせる。

「日常」の中では隠れているもの、「日常」にまぎれてしまって見落としているもの。小石の陰や心のひだに潜んでいる何か。そうしたものに光を当てて目を凝らし、耳をすましてみたときに、同じ世界が違ったものに見えてくるかもしれません。

そんな特別な一時を、図書委員さんのお世話で持つことができたら、と思うだけで楽しくなります。

でもね。そうしたことではなかなか『TUGUMI』の世界と接しにくいという人もいるでしょう。そこでそういう人のために、『TUGUMI』を題材に出題された「大学入試センター試験』の問題を裏に印刷しました。気が向いた人はやってみてください。解答例がほしければあげます。

明日の読書会で交わされることばが、人と人との新たな絆を結び、自分が何者であるかを知るきっかけになってくれれば幸いです。それをねがって、教科書会社の三省堂にもらった小さな冊子『こころといのちへのメッセージ  ことば・こころ・いのち』の中の二人のメッセージを紹介します。

人に思いを伝える
のはムズカシイ。
でも、なんとかして
ことばで伝える
努力をしなければ…。

      妹尾河童
     

言葉は、まず自分が
正しく感じるためにある。
もしひとに伝わらなくても
気に病むことはない。

      江國香織

つづく

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はじまりは詩と共に

柔らかだから、切っても切れない空気の絆

2004年度 7枚目 2004/05/01

十二の月の一つが終り、また新しい一からの始まり
ですが、先の月の一日は桜吹雪の降りしきり、
この一日はフジとツツジにアブの羽音。

巡る季節が人々の
新たな絆を紡いでゆく。

顔も名前も知らなかった赤の他人同士の43人が、何の偶然でか苦楽を共にし始めた四月。

不思議な出会いのこれからが楽しみです。そんな新たな月の始まりに、まど・みちおさんの詩のもう一つの『空気』を紹介します。

        空気
                  まど・みちお

ぼくの  胸の中に
いま  入ってきたのは
いままで  ママの胸の中にいた空気
そしてぼくが  いま吐いた空気は
もう  パパの胸の中に入っていく
同じ家に  住んでおれば
いや  同じ国に住んでおれば
いやいや  同じ地球に住んでおれば
いつかは
同じ空気が  入れかわるのだ
ありとあらゆる  生き物の胸の中を

きのう  庭のアリの胸の中にいた空気が
いま  妹の胸の中に  入っていく
空気はびっくりぎょうてんしているか?
なんの  同じ空気が  ついこの間は
南氷洋の
鯨の胸の中に  いたのだ

5月
ぼくの心が  いま
すきとおりそうに  清々しいのは
見わたす青葉たちの  吐く空気が
ぼくらに入り
ぼくらの内側から
緑にそめあげてくれているのだ

一つの体をめぐる
血の  せせらぎのように
胸から  胸へ
一つの地球をめぐる  空気のせせらぎ!
それは  うたっているのか
忘れないで  忘れないで…と
すべての生き物が兄弟であることを…と

                  『まどさんの詩の本  地球ばんざい』理論社刊より

連休明けの学級読書会にむけて

1年6組のみんなで読む『TUGUMI』は1989年3月、みんなが生まれたのと同じ頃に24歳の吉本ばななが産み落とした作品です。繊細な思春期の少女の成長を描いた作品は、そのみずみずしさを今でも失っていません。

人生は出会いと別れの連続です。昨日と同じように今日があり、今日と同じように明日があるというのは錯覚、あるいは思い込みです。新しい高校生活が始まったばかりの今だからこそ、『TUGUMI』を通して人と人との関わりの「不思議」をみんなで共有することはとても意味のあることだと思います。そのためにも、作品をじっくり読み込み、丁寧な感想文を持ち寄ってほしいものです。

四月雑感 …全員と面談を終えて

1年6組が始まって、今日で23日経ちましたが、その間にウキウキする出会いや楽しい行事の思い出を共にできた一方、いくつか“事件”も起きました。登校途中の電車で痴漢の被害にあって、すごく厭な思いをした人がいました。登校途中の道路で交通事故にあって、すごく痛い思いをした人がいました。そして、昨日は下校前に教室のカバンの中に入れてあった財布の中のお札が誰かに連れ去られてしまって、すごく切なく腹立たしい思いをした人がいました。そうした人の辛さを代わってあげられないからこそ、その辛さを共感できる想像力と受容できる包容力を育てたい。


もう忘れかけていませんか?入学式のあとのHRでドキドキしたこと。どんな人と一緒に過ごすことになるのか、ちゃんとやっていけるのか?友達できるのか??そんな不安も球技大会や遠足を通して少しずつぬぐわれてきたのと入れ替わりに、こんどは授業の進み方が早かったり、予習復習宿題に追われたりして勉強についていけるか心配で……という声もちらほら聞こえてきます。

大事なことは自分を見失わないこと。馬鹿みたいだと思うかも知れませんが、「ここはどこ?わたしは誰?」と時々つぶやいてみましょう。そうすることで変な無理をしている自分に気付いたり、自分が今本当にすべきことを思い出せるかもしれません。

困った時に『助けて』と声を出せば、きっと誰かが応えてくれます。なぜなら、誰もが何かしら人知れず悩みを抱え、迷いや苦しさや悲しみの中で生きてきたからです。僕らは一度も同じ釜の飯は食っていませんが、生まれたその日からもう十何年も同じ空気を吸って生きてきたのです。

つづく

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はじまりは詩と共に

エネルギーの器

2004年度 6枚目 2004/04/24

高校生活二週間目が終りました。木曜日の球技大会では、それぞれの持ち味が出て健闘し、バスケットボールでは準優勝の喜びまで得ることができました。何より、みんなで大きな声を出して、お互いに声援し合えたことが大きな収穫です。

僕らは時に、傲慢にも自分の力だけで生きていけると思い込んでしまいます。でも自分の今日の一日を自分でちょっと振り返れば一人きりで生きていけないことなんてすぐにわかります。僕らはいろんな人にエネルギーを分けてもらって生きている。

また僕らは時に、一人ポっちで生きているような錯覚に陥ります。そういう思い込みから抜け出すことは、自分一人の力では難しい。おまけにそんな時に限って、誰かがそっと分けてくれるエネルギーを受け留める器が壊れていたり、見失ってしまったり。

明るい陽射しに照らされてグイグイ成長できる人もいれば、緑の陰でためらいがちにソッと茎や葉を伸ばす人もいて、硬くて暗い地の底でジワジワ根を張り力をためている人もいる。それぞれの成長の仕方をお互いに認め合い、大切に支えあっていきたいものです。

そんな思いを込めて、まど・みちおさんの詩を紹介します。

    空気
                 まど・みちお

花のまわりで  花の形
ボールのまわりで  ボールの形
ゆびのまわりで  ゆびの形

そこに  ある物を
どんな物でも  そこにあらせて
自分は  よけて
その物をそのままそっと包んでいる
自分の形は  なくして
その物の形に  なって…


まるでこの世のありとあらゆる物が
いとおしくてならず
その  ひとつひとつに
自分でなってしまいたいかのように

                  『まどさんの詩の本 地球ばんざい』 理論社刊より
つづく
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はじまりは詩と共に

命のあらわれとして

2004年度 5枚目 2004/04/21

今日は高校生活初めての朝の礼拝、仏参でしたが、
6組は三人も遅刻者がいて少しつらかった。
何がつらいといって、そこにいるべき人がいない事ほど つらいことはない。

義務でそこにいるのでも、
規則でそこにいるのでもない。
そこにわたしがいたいから、
そこであなたといたいから
こそ、そこにいる。

そこに一人の人として、
一つの命のあらわれとして、
わたしとあなたがいられる
ことに、ありがとう。

今日の仏参のお話を聞いていて、僕は一つの詩を思い出しました。下にそれを紹介します。
明日の球技大会を、みんなで楽しめますように

      ぼくがここに
まど・みちお
  ぼくが  ここに  いるとき
  ほかの  どんなものも
  ここに  いることは  できない

  もしも  ゾウが  ここに  いるならば
  そのゾウだけ
  マメが  いるならば
  その一つぶの  マメだけ
  しか  ここに  いることは  できない

  ああ  このちきゅうの  うえでは
  こんなに  だいじに
  まもられているのだ
  どんなものが  どんなところに
  いるときにも

  その「いること」こそが
  なににも  まして
  すばらしいこと  として

『ぼくが ここに』 童話屋刊より

つづく
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はじまりは詩と共に

温かな視線の注ぎ方と柔らかな知性に学びたい

2004年度 4枚目 2004/04/16

昨日の学級日誌の『備考』欄に、二人の日直さんの興味深い一言ずつが書かれていました。

「健康診断でみんな一人一人がスッスッと動いてスムーズに終ることができた。さすがやなぁと思った。」

「身体測定とかの検査のとき、喋ってて怒られたりした。でも、それだけ仲良くなれたってことで、それはある意味スバラしいと思う」

とてもあったかな視線でクラスの様子を見ていることが伝わります。人の行ないに素直に感動し表現できる感性と、自分なりに状況を整理し分析できる知性がステキです。

入学式からの一週間で少しずつ打ち解けていくクラスの様子は見ているだけでも気持ちが良いです。6組はどっちか言うとホノボノ系の人の割合が多いのかもしれませんが、一人一人がノビヤカに自分の持ち味を出してくれることを楽しみにしています。

これから本格的に始まる授業でも、お互いに励まし合い、補い合えるといいですね。

    祝婚歌      吉野 弘

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり  ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で  風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと  胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

     現代詩文庫 新編吉野弘詩集  思潮社刊より
つづく
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はじまりは詩と共に

支えてこそ仲間、支えられてこそリーダー

2004年度 3枚目 2004/04/13

信じる者は救われる。

なぜならそこに希望があるから

待つことは一番の手助け。

なぜなら人の生きるペースはちがうから

あせりは大切なことを忘れていることのしるし。

自分がしているのではなく、誰かにさせられているから

目の前にいる人の心より、いない誰かの機嫌を気にしているから

一つひとつのその一瞬、一人ひとりのその眼差しを受け止める

器をいつもポケットに

つづく

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はじまりは詩と共に

あなたといる喜びをこそ

2004年度 2枚目 2004/04/10

なにかを「してあげるん」じゃない  それは傲慢というもの

誰かに「させられる」のでもない  それは主体性の放棄

自分のわずかな力が生かされたときの喜び

自分に差し伸べられた手を握り返したときの喜び

いまここであなたとこうしていられる喜びを  大切にしたいだけ

比喩の太陽     吉野弘

彼が私に言いました。
――この写真が一番良い
      これを一席にしよう
      あかるくてひとに希望を与える
      それに……
      ひとに希望を与えたいと
      僕は常々思っている

彼が希望を持っていようとは!
私はほんとに驚いて
彼にたずねました
――それは素晴らしい
      そして……
      どんな希望があなたの中に?

おや  めぐりの悪い
という顔をして
彼は私に言いました
――それはもうお答えずみです
       ぼくはひとに希望を与えたい
       それがぼくの希望
       ひとに希望を与えたいという希望が
       ぼくの希望

でも……
と私が言いました
――ひとに与えたいと仰言る希望の中身が
      どんなか知りたいんです
      つまりあなたの思想が

――中身ですって?思想ですって?
      希望はすなわち思想でしょう
      太陽には  すべてを照らしたいという
      希望がある  それが太陽の思想です
      おかげでわれわれは生き  月や星は
      輝く  そして  太陽はいくつあっても
      いいのです

ああ  比喩の太陽よ

彼が
10ワットの太陽
懐中電燈のような太陽でも
他人は
月や星のように
寒々と輝く義務がある

            現代詩文庫 吉野弘詩集 詩集〈10ワットの太陽〉全編  思潮社刊より

つづく
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はじまりは詩と共に

ここから始める。いまから始める。新しい世界

2004年度 1枚目 2004/04/09

ちゃんと見つめれば    見えなかったものが 見えてくる

ちゃんと聞けば    聞こえなかったものが 聞こえてくる

ちゃんと話しさえすれば    つかえていたものが 溶けてゆく

もう一つのつながりに気付いたとき

自分が誰だったのかを思い出す

   生命は   吉野 弘

生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている

私も  あるとき
誰かのための虻だったろう
あなたも  あるとき
私のための風だったかもしれない

      現代詩文庫 新編吉野弘詩集  思潮社刊より
つづく
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