正午の出会い |
ぶら下げられたニンジンに釣られ、振り下ろされる鞭に脅されて 思い荷車を引く馬になりたいか? 「私は馬なんかじゃない」と言うのなら 上手い話で人の欲に付け込み、人を力でねじ伏せる人になりたいか? 降りしきる雨を厭(いと)わず、吹き付ける風に向かって 草原の起伏を駆け抜ける馬になりたいか? 「私は馬なんかじゃない」と言うのなら 確かな目で時代の本流を見極め、社会の矛盾を変革する人になりたいか? 馬を慈(いつく)しめば、馬は君を載せて天をも駆ける 人を愛せば、人は君を信じて命さえ賭ける 命を愛(いと)おしめば、命は君を独りにしない。 何ものをも支配するな。何ものにも媚びるな。 向き合う者に敬意を払い、尊厳を守り合えば 君はすべての命の相棒(パートナー)になる。 |
2013年12月20日 |
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斬られたものは |
暑さの夏に西日の盾になってくれた樹が 寒さの冬に北風をなだめてくれた樹が 若葉の枝に鳥の囀りを響かせくれた樹が いま伐られていく チェーンソーの唸りが止むと 黒煙を吐くキャタピラのエンジンは 巨大な鉄の鋏で枝に噛み付き幹を引きずり倒し 幾十重もの年輪を冬空にさらしていく 「どうして樹を伐るの?」 「ここに立っていられると邪魔なんだよ。」 邪魔になったら私も斬られるのかしら…… 罪一つ犯さず静かに花を咲かせ実を付けてきた樹が 幾世代もの少女達を無心に守り続けた樹々が 邪魔者にされ斬られていく |
2013年11月12日 |
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ウメェウメェ仔山羊 |
仔山羊がとぼとぼ坂を上がってくる 繋がれた縄を上目づかいで確かめながら 縄がびぃんと張って首が閉まることではなく 縄がぱらりと切れてしまうことを気に掛けて 仔山羊がちょんちょん牧場を跳ねている 囲われた柵を時折横目でうかがいながら 柵をひょいと飛び越そうとするのではなく 柵をがたりと壊してしまうことを気に掛けて 繋いだ縄と囲んだ柵は 仔山羊の何を守っているのか 仔山羊は明日売られていくのに 家畜の山羊と野生の山羊と 二つの山羊がいることを仔山羊が知ったら それでも仔山羊は言いつけ守るでしょうか |
2013年11月8日 |
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君の糸 |
何処に行っても居場所が見つからないのは 君がいつも周りばかり見ているから 君が眼を閉じて自分を見つめた時 其処が君の居場所だったことに気付く 何時まで経っても居場所が見つからないのは 君がいつも自分ばかり見ているから 君が眼を開いてあの黒い瞳を見つめた時 其処が君の居場所だったことに気付く 縺れた金の糸を解けば 切れた銀の糸を結べば 未知の赤い糸を手繰れば其処にある 暗闇の真ん中に独りでいても 何処かで同じ星を仰いでいる人を想う時 其処も確かな君の居場所 |
2013年11月7日 |
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涙を分けて下さい |
涙があふれて伝うのは そこに悲しみがあるからでも 喜びがあるからでもなく 脈打つ愛がそこにあるから あの人を愛しているから あの人のために涙が流れる 私自身を愛しているから 私のために涙を流す 泣きたくても泣けない夜は あの人を愛せない夜 私を愛せない夜 泣き真似するのは辛いから 誰か涙を分けてください 私のために泣いてください |
2013年10月17日 |
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涙をすくえる? |
ねぇ どうして どうしてそうなっちゃうんだろうって言われても そうしかできない私だから黙るしかない 分かってもらえない悲しさばかりがあふれてくる あゝ どうして どうしてこうなっちゃうんだろうってつぶやいても 答えを出せない私だからまたそうしてしまう どうにもできないもどかしさばかりがこみあげる ネタンじゃいないしヒガンじゃいないし イジケてなんかいるわけがない それじゃ私がかわいそすぎる もっと素直になれって言うけど そしたらきっと涙が止まらない それじゃあなたが困るでしょ |
2013年10月2日 |
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Maybe true |
空を駆ける夢を見た フカフカのうろこ雲でケンケンして 茜に染まる筋雲にぶら下がり 月に照らされた綿雲に寝そべった 海に沈む夢を見た 揺らめく水銀の天井が遠ざかり 暮れ行く藍にマリンスノーが昇る 闇に溶けた私はもはや海だった 覚めない夢だなと思っていたら 私はもうあの世から 離れていたんだ プラットホームに立つを夢を見た 風が立ったその刹那 コスモスがサヨウナラって首振った |
2013年10月1日 |
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カッコーワルサ |
峠を一つ越えようとするたびに 自分の小ささばかりを思い知る 登り切った山の頂に立つたびに 世界の大きさばかりを思い知る 海が見たくて渚に立つたびに その先に進めない自分を思い知る 揺らめく川面の光を見るたびに 取り残されていく自分を思い知る やろうと思って始めたはずなのに どうしていいかわからず 立ちすくんだままの私 横断歩道が青になっても渡れない 私の頭上ではまた カッコウが鳴き始めている |
2013年10月1日 |
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応援歌 2013 What wonderful girls over the rainbow |
1 orange かけちゃいけない命と茶碗 かけていいのは運動会 燃えよドラゴンいななけキリン 巡る星座のライオンクィーン みんな見ていて私の背中 私見ているあなたの背中 2 green 思い出の森でうずくまる 私を救う王子はいない 私は私の足で立つ 何があっても屁の河童 みんな見ていて私の背中 私見ているあなたの背中 3 yellow たとえ願いがかなわなくっても 諦めないし死なないわ うつむかないで夜空を仰げば 私を導く星がある みんな見ていて私の背中 私見ているあなたの背中 4 red 金も欲しいが愛さえあれば 私は元気にやってける 赤いルージュをキュインと引いて 銀のピアスで風を切る みんな見ていて私の背中 私見ているあなたの背中 5 blue 不安の波に呑まれても 孤独の淵に沈んでも 私はけっして溺れない 涙こらえるマーメイド みんな見ていて私の背中 私見ているあなたの背中 6 white 路に迷った羊にも たった一つの武器がある 見えない未来を見る力 夢を語れるコトバ みんな見ていて私の背中 私見ているあなたの背中 7 rainbow 黙っていても分からない 叫んでいても伝わらない 生きてる喜び確かめ合おうよ ハグしてキスして踊り出せ みんな見ていて私のステップ 私見ているあなたのジャンプ |
2013年10月1日 |
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チンチロリン |
オケラもボクラも変わりなく オロオロ餌を探しては 夜な夜な伴侶を探り合う 命の望みは個体の維持と種の保存 ヘビの足よりクジャクの羽より 奇怪なボクラの脳味噌は 個体に個性とやらを風味付け 種を民族だのへとみじん切り クラゲが聞けば呆れるだろうが ヒトによっては食を絶ち孤独に闇を見つめつつ 己の存在の意味とやらまで探している 明るい月夜のマツムシは 今宵も変わらずチンチロリン 探求こそが命の営み |
2013年9月25日 |
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日めくりの夢 |
見失ったものを見付けることはできても 失ったものは二度と手に入らないのです 見失った自分を見付けても 見付けたのは過去ではなく今の自分 五つの春に欲しかった人形を十五の秋にもらっても 素直に喜べないことを君は知っている 十五の秋に欲しくてたまらないそれを 君は五十の冬まで求め続けることができるだろうか 移ろい易い十五の君が 生涯を貫き通す夢を見付けたと思っても それは誰かの誂えものかもしれない 移ろい易い十五の君よ 日めくりの如き切れ切れの夢を追いつつ 果てしなく広い知の世界をさ迷え |
2013年9月25日 |
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自ら求めよ |
上手くいかないことを アンタのせいだと娘が喚き散らしたら 親は喜ばなければなりません 娘はまだあなたの腕の内にあるのですから 上手くいかなかった時 アタシのせいだと娘が唇を噛み締めたら 親は喜ばなければなりません 娘はもうあなたと共に歩んでいるのですから 壁があることを 壁を乗り越えられないことを他人のせいにした瞬間 人生は自分のものではなくなってしまう 越えたい壁に黙って向き合う 向き合う自分に問い掛ける おまえには今、どんな助けがいるのかと |
2013年9月11日 |
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金の糸・銀の糸・赤い糸 |
金で結んだ縁だから 金が細ると縁も細る 真昼の影の黒い不安は 縁の切れ目か金の切れ目か 血が結んだ縁であれ 血は重なり合って混じり合う 紅い木の実の葉影のさやぎ 縁を紡いだ光の網目 血の池地獄のカンダタに 垂らした銀の蜘蛛の糸 釈迦は見捨てて断ち切った 浮世の風に吹かれて揺れて ぶら下がり頼るばかりの縁の危うさ 紡ぎつつ紡がれていく縁の確かさ |
2013年9月11日 |
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60兆個のあなたと私 |
振りむいて高く弾かれた白球をずっと目で追う少年は 昨日も今日も一億匹の精子を一生涯に一兆五千万匹 あの日からその日が来るまで作り続ける まぶしげに入道雲を見上げた水玉のワンピースの少女は 内に宿した三十万個の卵母細胞から卵子を月に一個 あの日からその日が来るまで産み続ける 私たちの始まりは 欠けた染色体を激しく求め合う その二つの生殖細胞の出会いだった そんな私たちの気付かぬ間に 昨日あなたの体細胞は15兆個死に 今日また15兆個再生した そんな私たちの意思とは無関係に あの日に140億個あった脳細胞が 今日また10万個死滅して縮んでゆく この宇宙に1000億ある銀河の一つ この銀河に2000億ある太陽の一つを巡る この惑星の70億の人類の一人としてのあなたと私 そんな私たちの願いは 「せめて5kgやせたい」 「何とか偏差値70以上取りたい」 いじましくも掛け替えのない 60兆個の体細胞がつながり合った 巨大な生命体の私たち |
2013年7月19日 |
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モデル募集中 |
よい子っていうのは大人にとって都合の良い子? 聞き分けがよく言いつけ守って手がかからない 家を離れて、家族を持ったら 私は誰の言い付けを聞くんだろうか? よい人っていうのは誰かにとって都合の良い人? 身を粉にしてまで働いて骨を砕いて家族を守る 会社を去って、家族が去ったら 独りで野良猫の世話をするんだろうか? いい奥さんやいいお母さんのモデルなら 一緒に暮らして知っているけど 「いい女」ってどんなだろ? 登りたい山を自分で見付けて登り 登り切った山のてっぺんで 「サイコー」って叫んでいるのがいい女かな? |
2013年6月12日 |
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世界の中心で |
頬張ったタコ焼きの方が 地球を照らす太陽より熱い 死んだ爺ちゃんの手の方が 南極のつららより冷たい 地雷で吹き飛ばされた少女の足より 地下鉄で踏まれた私の足の方が痛い キリストが背負った十字架より 私が背負う子どもの方が重い 私に比べりゃたいしたことない 私もあいつもどっこいどっこい それはどこから見てるから? 遠くの星はとってもちっちゃい 近くの山は結構おっきい 私が世界の中心だから |
2013年5月29日 |
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とりあえずの勇気 |
とりあえず生まれてきたわけじゃないのに ママは「とりあえず洗濯物干さなくっちゃ」 パパは「とりあえずビール」 私はとりあえず宿題片付けよ とりあえずを繋いで行くしかない時もあって 先生は「とりあえず覚えなさい」 先輩は「とりあえずちゃんと挨拶して!」 私はとりあえずメールを返そ とりあえずでもやってる内に気付くことがある とりあえずを繰り返してる内に見失うことがある とりあえず始めるべきか「とりあえず」を止めるべきか とりあえず生まれてきたわけじゃないから とりあえずのまま死にたくないから とりあえず勇気を出してとりあえずを止めてみようか |
2013年5月29日 |
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夏よ来い |
いじいじいじけ ぐちぐちぐずり べこべこへこむ わたしがいたい くねくねすねて ねとねとねたみ うだうだうらむ わたしがきらい 五月の風 街路樹を揺らせ 六月の雨 山に滝を作れ 七月の光 海と空を焦がせ 覚悟してろよへたれの私 夏でお前をごしごし磨き 一皮二皮むいてやる |
2013年5月23日 |
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おっきくなあれ |
ちっちゃな私だから ちっちゃな小石にけつまずく ちっちゃな私だから ちっちゃな渦でもみくちゃになる ちっちゃな私だから ちっちゃなコトを気に病んで ちっちゃな私だから ちっちゃなヤツに腹立てる 「ちっちゃな私 おっきくなあれ!」 おっきな夢見て闘えば おっきくおっきくなれるはず おっきくなった私なら ちっちゃなトゲなど気にならない ……それでもズキズキ痛むかな? |
2013年5月23日 |
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親でも教師でも最上級生でもなく |
人生の先輩になりませんか アレコレ指図をするのではなく チクチク過ち正すのでもなく ゆっくりじっくり耳傾ける 人生の先輩になりませんか あの時掛けてもらったあの励ましを 独り静かにつぶやけば 掛ける言葉は付いてくる 彼女がそれに気付くよう 彼女がそれと向き合えるよう 彼女が自分と闘えるよう あなたを支えたあの人のように 彼女もやがてそうなるように 人生の先輩になりませんか |
2013年5月23日 |
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優しい沈黙 |
あなたにとって「私たち」とは誰ですか? ポチも加えた四人家族 クラスの仲良し三人組 一つの秘密を共有しているあの子と私 あなたにとって「私たち」とは誰ですか? 同じ島の上で暮らす日本人 同じ球に乗っている地球人 この世に形を変えて存在する全ての命 静かに見つめているだけで まぶたを閉じてみるだけで 優しい沈黙の言葉が「私たち」を繋いでいく 初夏の陽射しに輝くバラのため息が聞こえます 狐色に揚ったトンカツのつぶやきが聞こえます 青空を渡る綿雲が私を誘う呼び声が聞こえます |
2013年5月12日 |
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せつない花 |
ねぇママ お宮の桜 散っちゃったねぇ ホント アットイウマネ きれいなんだから 散らなきゃいいのに チラナカッタラ ミガナラナイノヨ 桜の実って どんなんだっけ? サクラノアカンボウダカラ サクランボウ スーパーで売ってるのとおんなじの? いつ産まれるんだろ 明日かなぁ マダマダヨ アナタダッテママノオナカニ 10カゲツモイタンダモノ 楽しみだなぁ 桜の赤ちゃん ねぇパパ お宮の桜 実がならないねぇ ナラナイサクラモ アルノサ 実がならないなら 花を咲かせる意味ないねぇ キレイナハナヲサカセルカラ セワスルヒトガイルッテワケ 花咲かなくなったら世話してもらえないの? サカナクナルトキハ モウカレルトキナンダヨ お宮の桜も枯れちゃうの? いつ枯れちゃうんだろう 明日かなぁ キハ ナガイキダカラ オマエガオバアチャンニナッテモ サイテルサ 大変だねぇ桜って 死ぬまで花を咲かせるなんて |
2013年4月21日 |
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エリアメール |
明け方の緊急地震速報に目を覚まされて 付けたテレビに写っていた 淡路島と四国と紀伊半島 その隙間の播磨灘と大阪湾と紀伊水道 なあんだ 水たまりから顔を覗かした 地球の上っ面の皺だったんだ ヒトが暮らしている大地って どの局でも同じニュースが流れ どの駅にも会社員と学生があふれ ただ夕暮れて赤い眉月 危ないオモチャをちらつかせては そっちの皺は俺のもんだとやり合っている人間に むず痒かった地球の身震い |
2013年4月13日 |
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風をつかめ |
同じ風に乗っていても 違う世界を生きている カモメとツバメが すれ違うことの当然至極 同じ風に吹かれていても 違う受け止め方をする 樫と柳が 競い合うことの無益無用 昨日の常識は今日の非常識 今日の非常識は明日の常識 あたりまえは変わり続ける どんな風に吹かれても 流されることなく帆につかみ 願った場所に辿り着け |
2013年4月13日 |
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花鳥風月 |
菜の花はスミレの花がちょっとうらやましい スミレはスミレ色って言ってもらえるのに 菜の花は黄色ってしか言われない 私の名前で私の色を呼んでほしいな お月さんは太陽のことがちょっとにくらしい 陽子って名前をつける人はいても 月子って付ける人はめったにいない 私をきれいだって言ってくれる人もいるのにな 東の海から春の風が吹き寄せて 松の枝からふわりと飛んだ トンビがくるりとぴーひょろろ やきもち焼きは欲張りの証拠 すねてみたっていじけてみたって だあれも同情なんてしてくれないよ |
2013年4月13日 |
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風に吹かれて |
なんで地球は回っているのか 昨日の晩の桜吹雪で分かったよ 宇宙の風に吹かれてコロコロ 転がっていたんだ なのにお月さんもお日さんも ずっと僕らと離れず一緒にいるのは 同じ風に吹かれてコロコロ 転がっているからさ 太陽系もアンドロメダも 惹かれて弾けて絡まり合って 十方無辺の闇をコロコロ そんな光の粒の上で 僕らは今日も連れ立って 命って奴を回しているのさ |
2013年4月7日 |
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グレーに酔え |
人それぞれの色を大切にって言いながら 珊瑚の赤や菜の花の黄 ピンクの小花と緑の葉 梅雨明けの空の青さを愛でる人々がいる 人それぞれの色を大切にって言いながら 全ての色を吸い込む黒と 全ての色を撥ね返す白を 生と死の境界で崇める人々がいる そうしてグレーは疎まれる ドブネズミだのと蔑まれ 白黒はっきりせよとなじられる 色味を持たず割り切りもせず 純粋な境界としての存在 曖昧なるグレーの愛おしさに酔い痴れ |
2013年3月25日 |
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踏切 |
なんで踏切なんて名前を付けたんだろう 線路の前で何を踏み切れっていうんだろう ためらわず何処に進めというのか 線路の向こうか線路の中か 踏切の前のためらいは 見える線路の向こうじゃなくて 見えない線路の果てにある この世の向こうに渡ること 同じ地平にいる限り 何処にも戻ることは叶わず 何処に進んだところで何も変わらず 遮断機も下りなきゃ警報機も鳴らない 踏切の前で私は 何を立ち止まっているんだろう |
2013年3月18日 |
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風を読め |
桝目に澱んだ空気を読むな 閉ざした窓の小部屋は 可能性を異物として弾く 生ぬるい日常の保管庫 遥かに唸る風を読め 開けた扉の敷居は 弛んだ重力を振り捨て 未知へと飛び立つ踏切 樹々のざわめきに怯えるな 湖面のさざなみに惑わされるな 行く先を見ぬ風見鶏になるな 逆風を孕んで上昇せよ 順風を背に加速せよ 見えぬものが見えぬ未来に誘う |
2013年3月18日 |
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ソンナコトナイワヨ |
ねえ、おかあさん ナニ? ねえ、おとうさんのおかあさんは今宮のおばあちゃんだよねぇ ソウヨ、オバアチャンドウシテルカシラネェ なんだか変だなぁ おとうさんがおかあさんのことおかあさんって呼ぶの おかあさんはわたしのおかあさんなのに ソウネェ おかあさんは、おかあさんになる前は何だったの? オトウサンノオクサンョ その前は? オジイチャンノムスメ その前は? ソレガハジマリ それじゃぁわたしも だれかのオクサンになって だれかのオアカアサンになって さいごはひとりぼっちのオバアチャンになって それでおわりなんかなぁ? ねえ、おかあさん …… なんかおこってるの? ソンナコトナイワヨ |
2013年3月12日 |
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見えないいのち |
カフェのテラスを吹き抜けた風が スマホをつつくキミの前髪を揺らしたから 思わず聞いてしまったんだ いのちがあるってどういうことだろって イキテルッテコト……ってそっけないから 生きるってどういうことだろって重ねると メシクッテカネカセイデアソンデネルコト……って こっちも見ないで早口言葉 いのちは心臓じゃなくって胸のときめき いのちは開いた眼じゃなく瞳のかがやき いのちは握ったら握り返す手のちから キミは確かにそこにいて せわしくスマホを弾いているけど ぼくにはキミのいのちが見えない |
2013年3月8日 |
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歩くしかない |
未来なんか見えない方がいい 小さな自分に見える未来なんて どうせたかが知れてる 今日の闇を駆け抜けろ ホントの私なんて探さなくていい いまここに立ってる私以外 私はどこにもいない 奥歯で孤独を噛み締めろ 惨めさを恐れて逃げる臆病者にはなりたくない 惨めさを人のせいにする卑怯者にはなりたくない 惨めさを引き受けられない甘ったれからさよならしたい できてた昨日は飾り立てた幻 できない今日に挫けてうずくまるな できない明日に怯えて立ちすくむな |
2013年2月17日 |
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ハンバーグ人間 あるファミリーレストランでのカップルの会話 |
「あんな奴、死刑で当然よ」という若い女の声。 死刑という言葉に反応して、斜め前の座席に眼が走った。 「命を奪った奴は命を奪われたって文句は言えないよね」と怒ったように言う。 背中の細身の若者はいじっていた携帯の手を止めずに 「そう?キミが今食べてるハンバーグだけど、ウシの命を奪ってるキミの命をウシに奪われても文句ないんだ」 若い女はハンバーグにフォークを突き刺して 「何それ、牛と人間を一緒にしないでよ」 「ヒトじゃなければ殺してもいいんだ」 「人間と動物は違うし、人殺しも人間じゃない。ヒトデナシ。だから殺されたって文句は言えないの」 「ウシもヒトもヒトデナシも命にかわりはないでしょ」 「仲間同士はだめってこと。人殺しは仲間じゃない」 「それじゃヒトでも、仲間じゃなければ殺していいんだ」 「そうよ、戦争になったら誰でも敵を殺すでしょ」 「ヒトでもテキだったら殺していいんだ」 「当り前でしょ。殺さなければ殺されちゃうわ。やるかやられるか、先手必勝よ」 細身の若者は携帯の手を止めて 「てことは、テキにとってキミはテキだから、殺されたって文句はないんだ」 「馬鹿言わないでよ。殺されかけたら文句を言うにきまってるじゃない」 「でも、殺されちゃったら文句の一つも言えないね。やっぱりキミもハンバーグのウシと同じさ」 「もう!」 |
2013年2月16日 |
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同じ分だけ |
アナタの背が毎日少しずつ伸びた分 アタシは毎日身を少しずつたるませた アナタの脳の皺が昨日より少し増えた分 アタシは昨日より顔の皺を少し増やした アナタが星に明日への願いを掛ける夜 アタシはやがて星屑になる夜更けを想う アナタが遠い昔の思い出に浸る時 アタシはアナタの思い出になっている 今日ここにいたアナタとアタシ 残された持ち時間は違っても 同じ分だけ一分一秒命の時間を削って生きた アタシの時間がなくなった時 アタシはアタシでなくなるけれど アタシのすべてはすべてのものに還っていく |
2013年2月14日 |
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不可思議の手 |
気付いても それを名付けるな その名を呼ぼうとするな 不可思議な力に名はいらない 名付けることができる者は それが何かを知っている者 名付けられるものは 人の手の中のもの 三次元に浮かぶ水玉の 染みにはびこる人の手の中に それが入ろうはずもない 見えぬことを知れ 触れられぬことを知れ ただそれはここにある |
2013年2月11日 |
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確かな手触り 石垣りんの詩『挨拶』によせて |
見えてるそれすら見えない人に 見えないものを見ろなんて 所詮無理な話よねと 鼻で笑う人がいる 見えないからこそ見えないものを 微かな音と手触りで 朧ながらもくっきりと 思い描く人がいる 見えないそれを知った時 絶望に慄えて泣き出す人もいる 希望に勇気沸き立つ人もいる 見えないままの安心 見えないままの不安 眼でなく肌で知る事実 |
2013年2月2日 |
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回転イス |
谷間の水車は偉い ゴットンゴットンつぶやきながら 休むことなく粉をひく 川に水の流れる限り 畑の風車は偉い ギーリギーリと身をよじらせながら 飽きることなく水をくむ 空に風の吹く限り 机に向かった椅子の上 私はカラカラ空回り 世界は眩暈で回るだけ 休みたくてしかたのない 飽き飽きしててたまらない 私を動かすものは何 |
2013年2月1日 |
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できない自分 |
他人の落としたゴミに気付いても 自分の落としたゴミに気付かない人がいる ゴミが落ちていることに気付かない人はいても 黙って落ちているゴミを拾う人は少ない 面倒な他人をバッサリ切り捨てられても 切り捨てられた身内をすくい取れない人がいる 自分の面倒さえみられない人はいても 笑顔で他人の面倒をみる人は少ない できないことを責めることは誰にもできても できないことができるよう手を貸すことは 誰でもできることじゃない できない自分を知った時 ようやく気付く罪の意味 初めて気付く愛の意味 |
2013年1月29日 |
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正義の銃 石垣りんの詩『挨拶』によせて |
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2013年1月28日 |
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月の裏 |
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2013年1月27日 |
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