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2005年の修羅の行列  挽歌集 U

星降る地上で


凍った坂道の先に狩人を見つけた君は

「オリオン」って、得意げに指差して振りかえった。

目尻に笑い皺を浮かばせて

君は今、どの星座を巡っているのか。

南の空に目を凝らしても

どうにも君は見つからないのだ。



ホォッと吐いた息の先に王妃を見つけた君は

「カシオペアの逆立ち」って、可笑しそうにMの字をたどった。

天の巡りでMとWは入れ替わり

二人はいつも一緒に居られない。

北の空のWを仰いで

僕は独りくしゃみする。



君と一緒にいる時は

いま一緒にいる君だけを想う。

別れて一人でいる時は

いま此処にいない誰かを想う。

想う相手が誰であるかは

僕にも君にも、何処の誰にも決められない。



星降る夜の瞬きは

見えない君の囁きか。

天のモールス信号を解けない僕が

「何言ってるんだか」って呟けば

「何してるんだか」って声が聞こえて

恥ずかしいんだか、淋しいんだか。


2005.12.06
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一粒のメール


 君が一人で引越しして

 ちょうど一年経った朝

 君が残していった携帯を解約するように

 上の息子に頼みました。

 自分でそれをしに行くのは

 やっぱり今日も嫌だったから



 君の小さな家に向かう道

 信号待ちの車から

 君の病室に通っていたあの頃のように

 短いメールを打ちました。

 解約された携帯には

 着信しないと知っていたから


ゆきこ
2005/10/24  8:12
おはもん
一年たちました。
みんな元気にしています。
安心して待っていてください。


 君の小さな石の家に着くと

 露に濡れた石畳に

 君がむかし教材にしたような

 ドングリ一粒光っていました。

 君ならきっとそうするように

 そっとつまんでくちづけしました。


2005.10.29
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季節を越えて


去年の春風光る朝

君はベッドの上にいて

窓を見上げて歌ってた

去年の夏の昼下がり

君は柩の中にいて

目を閉じたまま黙ってた

私に季節が巡っても

君に巡る季節はない



今年の桜散る道で

私が振り向く一年に

二人の春は残ってた

今年の紫陽花咲く庭で

私が振り向く一年に

二人の夏は探せない

私が季節を重ねたら

二人の季節は遠ざかる



きょう暮れなずむ夕闇に

金木犀が香っても

君に巡る秋はない

あした霜置く石肌の

銀の化粧を直すたび

二人の冬は遠ざかる

君と重なることのない

一人の季節は軽すぎる

私は季節を飛び越えて

二人の空に舞い降りる


2005.10.01
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闇の見送り



雨上がりの街の夜道に満ちているのは

昼日中陽を吸い込んだ躑躅の吐息



願いをすぐに叶えられないのなら

せめて希まないことだけはしないように

生きる助けになれないのなら

ただ静かに見送って



雨上がりの街の夜道を歩いているのは

闇に溶け込む夜明けの亡霊


2005.05.13
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春の歌三首



風に舞い天に昇れる

花びらの後追えぬ

身の重さうらめし


        2005.4.13




散り果てて名も無き樹々に戻りたり

芽吹く桜の若葉

いじらし


        2005.4.14




古寺の竹を黄ばませ

楠の落ち葉積もらせ

暮れて行く春


        2005.04.23


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