| 一人の君の悲しみに |
一人の女と一人の男が結ばれて 一人の女のお腹に宿った一つの命が君だった 一人の君はそうとは知らず女の腹ではぐくまれ やがてこの世に生まれ出た 一人の君が宿った母は、戸惑い恐れ不安に慄き 宿った君と宿した男を呪ったことを 一人の君が生まれ出るのを待つことなく、父になるのを 拒んだ男は君と母から去ったことを そうとは知らず生まれ出た 一人の君が生まれたことで、女の暮らしは変わったのに 男は暮らしを変えなかったことを 一人の君が生まれたことを、女も男も祝福したが どうしようもなく別れたことを そうとは知らず生きてきた 一人の君は生まれてすぐから今日までずっと 母に怒鳴られ罵られ叩かれ続けてきたことを 一人の君は愛されたくて、父の顔色ばかりを見ているうちに 愛されるべき自分を見失ったことを そうと知りつつ黙っていた 一人で居るのが寂しくて、だれかとおしゃべりしたかった 君は愛されることを知らないままに、ヤサシイ言葉に乗せられて ヤサシイ腕にいだかれた 一人で居るのが恐くって、だれかに守ってほしかった 君は人を愛する仕方も知らず、愛と欲との見分けもつかず 一つの命をお腹に宿した 一人の君は戸惑い恐れ、不安に慄き泣き暮れた 二人で一緒にいたかったのに 一人の君のお腹に宿った一つの命はそうとも知らず…… 2004.06.09 |
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| 消え行くまでのきらめく時 |
一九四八年三月一二日の法廷で 「一人の生命は全地球の重さより重い」と言いつつ 死刑を認めた裁判官の手帳には 地球の重さが何トンと記してあったのか。 地球にへばりついたまま 地球の重さは測れない。 地球を丸ごと抱えなければ 地球の重さはわからない。 地球の重ささえも知らぬまま いのちの重さは測れない。 あなたのいのちの重さを知らない わたしは あなたを丸ごと抱えなければならない わたしは 地球より重いあなたを丸ごと抱えられない わたしは あなたのいのちの重さを知ることができない わたしを 丸ごと抱えられない わたしは わたしのいのちの重さも知らない。 ひとを丸ごと抱えられない ひとには いのちの重さなど測れはしない いのちには ひとが測れる重さなどない。 それでもなぜか知っている。 傾げたあなたの 首の重みと 寄り掛る 頭の重さを 差し出した 小指の重みと 重ねた 掌の重さを 目に宿る 光りの重みと 交わされた 言葉の重さを それでもわたしは 知っている。 無方無辺の宇宙から ふつりとこの世に湧いて出た いのちに重さの別はない 善悪美醜の別もない いのちにあるのはただ長短。 何年何日何時間……否 何秒とも数えられない一瞬の きらめく時がいのちの姿 消え行くまでのあなたと向かい合う時。 2004.05.26 |
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| 生きることは足掻くこと |
生きることは足掻（あが）くこと。 昼の明るい教室の机の下の一掻きも 夜の静寂（しじま）の一掻きも わたしの生きる 命の営み。 足掻く姿は美しい。 2004.05.15 |
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| 今日のこんにちは |
義務でそこにいるのでも、 規則でそこにいるのでもない。 そこにわたしがいたいから、 そこであなたといたいから こそ、そこにいる。 そこに一人の人として、 一つの命のあらわれとして、 わたしとあなたがいられる ことに、ありがとう。 2004.04.21 |
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| ポケットの器 |
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| ただそれだけの手 | ||||
2004.04.10 |
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| ちゃんと |
ちゃんと見つめれば 見えなかったものが 見えてくる ちゃんと聞けば 聞こえなかったものが 聞こえてくる ちゃんと話しさえすれば つかえていたものが 溶けてゆく もう一つのつながりに気付いたとき 自分が誰だったのかを思い出す 2004.04.09 |
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