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夜おそく

つとめ先よりかへり来て

今死にしてふ児を抱けるかな




真白なる大根の根の肥ゆる頃

うまれて

やがて死にし児のあり




おそ秋の空気を

三尺四方ばかり

吸ひてわが児の死にゆきしかな




死にし児の

胸に注射の針を刺す

医者の手もとにあつまる心




底知れぬなぞに対(むか)ひてあるごとし

死児のひたひに

またも手をやる




かなしみの強くいたらぬ

さびしさよ

わが児のからだ冷えてゆけども




かなしくも

夜明くるまでは残りゐぬ

息きれし児の肌のぬくもり




  「日本詩人全集8 石川啄木/『一握の砂』」新潮社より


1910年10月4日、長男真一誕生するも、同月27日死亡。啄木25歳。

同年12月処女歌集『一握の砂』刊行。

翌1911年2月、慢性腹膜炎と診断され肺結核を併発。

翌1912年3月7日母かつ死去。

同年4月13日、友人若山牧水らに見取られつつ、啄木肺結核で永眠。27歳。

同年6月14日次女房江誕生。

同年9月二人の遺児を遺し、妻節子肺結核で永眠。



    
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