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山羊の詩集

山羊の詩集の部屋

詩はいいものです。
時には慰められ、時には励まされ、
ヒトとして生きる切なさと尊さを、その時々に思い出させてくれます。
ここではそうした山羊さんにまつわる詩を紹介していきます。


石川啄木の山羊の歌
金子みすゞの山羊の詩
井伏鱒二の山羊の詩
まど・みちおの山羊の詩
山本純子の山羊の詩
山村暮鳥の山羊の詩
立原道造の山羊の詩
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ヤギさんコーナーの玄関へ
 

寒い夜の自画像


きらびやかでもないけれど

この一本の手綱をはなさず

この陰暗の地域を過ぎる!

その志明らかなれば

冬の夜を我は嘆かず

人々の焦燥のみの愁
(かな)しみや

憧れに引廻される女等の鼻唄を

わが瑣細
(ささい)なる罰と感じ

そが、我が皮膚を刺すにまかす。


蹌踉
(よろ)めくままに静もりを保ち、

(いささ)かは儀文めいた心地をもつて

われはわが怠惰を諌
(いさ)める

寒月の下を往きながら。


陽気で、坦々として、而
(しか)

(おのれ)を売らないことをと、

わが魂の願ふことであつた!




  「日本詩人全集22 中原中也/『山羊の歌』」新潮社より




2


恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、

おまへの魂がいらいらするので、

そんな歌をうたひだすのだ。

しかもおまへはわがままに

親しい人だと歌つてきかせる。


ああ、それは不可(いけ)ないことだ!

降りくる悲しみを少しもうけとめないで、

安易で架空な有頂天を幸福と感じ做(な)

自分を売る店を探して走り廻るとは、

なんと悲しく悲しいことだ……



3


神よ私をお憐れみ下さい!


 私は弱いので、

悲しみに出遭ふごとに自分が支へきれずに、

生活を言葉に換へてしまひます。

そして堅くなりすぎるか

自堕落になりすぎるかしなければ、

自分を保つすべがないやうな破目になります。


神よ私をお憐れみ下さい!

この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。

ああ神よ、私が先ず、自分自身であれるやう

日光と仕事とをお与へ下さい!



「日本詩人全集22 中原中也/未刊詩篇」新潮社より



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