Top Pageへ戻る

寒い夜の自画像
きらびやかでもないけれど
この一本の手綱をはなさず
この陰暗の地域を過ぎる!
その志明らかなれば
冬の夜を我は嘆かず
人々の焦燥のみの愁(かな)しみや
憧れに引廻される女等の鼻唄を
わが瑣細(ささい)なる罰と感じ
そが、我が皮膚を刺すにまかす。
蹌踉(よろ)めくままに静もりを保ち、
聊(いささ)かは儀文めいた心地をもつて
われはわが怠惰を諌(いさ)める
寒月の下を往きながら。
陽気で、坦々として、而(しか)も己(おのれ)を売らないことをと、
わが魂の願ふことであつた!
「日本詩人全集22 中原中也/『山羊の歌』」新潮社より
寒い夜の自画像
2
恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、
おまへの魂がいらいらするので、
そんな歌をうたひだすのだ。
しかもおまへはわがままに
親しい人だと歌つてきかせる。
ああ、それは不可(いけ)ないことだ!
降りくる悲しみを少しもうけとめないで、
安易で架空な有頂天を幸福と感じ做(な)し
自分を売る店を探して走り廻るとは、
なんと悲しく悲しいことだ……
3
神よ私をお憐れみ下さい!
私は弱いので、
悲しみに出遭ふごとに自分が支へきれずに、
生活を言葉に換へてしまひます。
そして堅くなりすぎるか
自堕落になりすぎるかしなければ、
自分を保つすべがないやうな破目になります。
神よ私をお憐れみ下さい!
この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。
ああ神よ、私が先ず、自分自身であれるやう
日光と仕事とをお与へ下さい!
「日本詩人全集22 中原中也/未刊詩篇」新潮社より
ページのはじめに戻る

山羊の詩集の部屋
詩はいいものです。
時には慰められ、時には励まされ、
ヒトとして生きる切なさと尊さを、その時々に思い出させてくれます。
ここではそうした山羊さんにまつわる詩を紹介していきます。