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【歴史教科書問題】  教育新世紀 Yomiuri on Line抜粋集


教育新世紀 Yomiuri on Line

教科書採択手続き明確化…文科省  市区町村教委に近く指示 2001/11/05

 文部科学省は5日、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した中学歴史教科書の採択をめぐり一部地域で混乱が起きたことを受け、採択手続きを明確にした規則の作成について、近く都道府県教委を通じて市区町村教委に指示することを決めた。

 規則の具体的内容は各市区町村教委にゆだねるが、同省では、協議会の決定に一部の教委が異論を唱え続けた場合などに備え、採決制を導入する市区町村教委があることも想定している。

 教科書採択は通常、隣接する市・郡単位の採択地区に教育関係者らがメンバーの協議会を設置し、ここでの決定を市区町村教委が承認する形をとっている。このため、採択地区内の市区町村は同一教科書の採択が原則となっているが、「つくる会」の教科書採択では、栃木県下都賀地区(2市8町)の教科書採択協議会が7月に同会の歴史教科書の採択を決めたものの、最終的な採択権を持つ各教委の反対が相次ぎ、再協議の末に別の教科書を選び直した。

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「つくる会」小学歴史教科書も作成検討  2001/10/03
 「新しい歴史教科書をつくる会」の新会長に就任した田中英道・東北大大学院教授らが2日、東京・霞が関で記者会見し、新たに小学校用の歴史教科書作成を検討することなどを明らかにした。

 会見で田中会長は、市販版こそベストセラーになったものの、公立校ではほとんど採用されなかった中学用の歴史・公民教科書に関し、〈1〉教科書採択結果は不当なもので、今後は採択制度の適正化運動を行う〈2〉新しい歴史教科書の教師用指導書を発売するなど、普及を図る〈3〉日本文化の再発見・再評価に取り組む――などとした。

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「つくる会」大苦戦  約40道府県、見込み薄  2001/08/01

 「つくる会」の歴史教科書は“苦戦”、採択結果の公開度はいまひとつ――。「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した中学歴史教科書の採否が注目される中、読売新聞社が全国各地の教科書採択状況をまとめたところ、そんな傾向が浮かび上がった。三十一日現在、同会の教科書が採用される見込みなのは東京都立の養護学校の一部にとどまり、最終的にも、同会が目標とした採択率10%には届かない情勢だ。一方、全国五百四十二の採択地区の六割以上は小中の教科書の採択を事実上終了しているが、採択結果を明らかにしたのはその半分足らずにとどまっている。

 公立学校で使う教科書は、その学校を設置する自治体の教委が決めるとされ、地域の公立中の場合は市区町村教委が、県立高や養護学校などは都道府県教委が採択権を持つ。また、東京の区部などを除き、多くの地域では近隣の複数の市区町村が同じ教科書を選ぶ「共同採択制」を採用、通常は地区の採択協議会などが教科書を決定し、各教委がそれを承認する形をとっている。調査ではこれら採択地区ごとの情勢を探った。

 その結果、五百四十二地区中、三十一日までに採択結果を公表した約百七十地区では、「つくる会」教科書は選ばれていなかった。さらに独自取材の結果、採択結果の未公表地区や近く決定する地域のほとんどでも、同教科書の採択やその動きはない。少なくとも四十近い道府県では全地区で採択の可能性が低く、市販本が五十万部を超えるベストセラーになったのとは対照的な情勢となった。

 ただ、東京では五十四地区中四十一地区が未決定で、これらの一部や中国地方、九州地方の一部では同教科書が採択される可能性も残っている。

 混乱もあった。和歌山県の西牟婁(にしむろ)地区では、同教科書採択の可能性が指摘されたことから教職員組合や市民団体の抗議運動に発展、採択協議会は決定を一日延ばしたうえで、別の教科書に決めた。

 栃木県下都賀地区では、協議会が一度は採択を決めたが、地区内の市町教委が受け入れず、再協議の結果一転して不採択となった。

 一方、これまでは、同一県内では同じ教科書を使う傾向が強かったが、今回は地区ごとに別の教科書を選ぶ“多様化”傾向も出て来ている。どの教科書を選んだかが判明した約百九十地区のうち、30%は現行の教科書とは別の教科書を選んでいた。

 調査結果について、「つくる会」の高森明勅事務局長は、「市販版はベストセラーになり、現場教師、保護者の『ぜひ採用したい』という声も多くあった。採択で厳しい状況なのは、各地でルールを曲げるような組織的な圧力がかけられ、一部メディアも採択妨害を助長する報道をしたからだ。採択制度が大きな危機にさらされたと言ってよく、今後大きな課題として残るだろう」と話している。

 一方、全国で同会の教科書の不採択を呼びかけている市民団体「子どもと教科書全国ネット21」の俵義文事務局長は、「全都道府県で採択に反対する保護者らの団体が組織されるなど、国民の多くが教科書としてふさわしくないと考えている。採択されないのは、世論の盛り上がりが各教委の判断に反映されたからではないか」としている。

22県が全面非公開
栃木の影響? 期限前「かん口令」も

 調査によると、三十一日までに国内全地区の少なくとも63%で事実上採択が終了しているが、県内のすべての地区の結果が公表されたのは埼玉、大分、沖縄の三県だけ。全地区で終了した秋田、奈良などを含む二十二県はまだ全面非公開だ。

 文部科学省は、「採択結果の公開時期は、採択事務に支障がない範囲で地域の教委が決めること」としているが、採択経過の透明化、公開は強く求めている。

 しかし、栃木県下都賀地区での混乱の影響か、多くの地区では、採択を終えるよう文部科学省令で定められた八月十五日の前には結果を公開しない方針を打ち出している。

 千葉、滋賀県では、県教委が同様の対応を各市区町村に求める事実上の“かん口令”を敷いた。千葉県教委は、現時点で公開しない理由を「混乱を招くので」とする。同県内のある地区の採択関係者は、「関係者の名前や採択日程を明かすと、様々な人が押し掛けて来ることも考えられる」と不安を口にする。

 また、香川県教委は、県内の全採択地区に十五日の期限ギリギリまで審査するよう、異例の指導を行った。同県教委は「持ち時間をフルに生かして慎重に選んでほしいという趣旨だ」と説明するが、採択結果に対する外部からの“圧力”を避けようという狙いもあるようだ。

 一方、大分県では、六つの地区すべてが決定後すぐ、採択結果とその理由を詳細に公表したが、何の混乱も起きていないという。

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養護学校で採択見通しの都教委 委員6人、投票割れる  2001/08/01
 東京都教育委員会は、都立養護学校の中学部で一部、扶桑社の歴史と公民の教科書を使用する見通しだ。

 七月二十六日の委員会(非公開)で教育委員六人の無記名投票の結果が示されたが、「歴史」については、病弱養護学校の使用教科書に扶桑社を推す委員が四、日本書籍を推す委員が二だった。知的障害養護学校も扶桑社三に対し日本書籍二、帝国書院一となり、扶桑社が多数を占めた。ろう学校は扶桑社と帝国書院が三対三の同数となり、後日再投票に。肢体不自由養護学校では、大判仕様の日本書籍が「生徒が扱いやすい」との理由で四票をとり、扶桑社の二票を上回った。

 投票結果について、都教育庁総務部は「委員の意見を求めただけで、この結果をもって採択が決まったわけではなく、さらに審議する」としているが、近く正式決定される見通しだ。

 東京都では石原知事が四月、区市町村の教育委員らの連絡会議に出席し、「教育委員は自分の良識で教科書を採択してほしい」と異例の要請を行っているものの、扶桑社の教科書に対する賛否は明言していない。知事は都教委の審議に直接の影響力を行使する立場にないが、就任以来、教育委員五人(再任二人を含む)を任命している。

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「つくる会」歴史・公民教科書 都立養護学校で採択  都教委決定公立で初  2001/07/30

 東京都教育委員会は三十日までに、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆して扶桑社から発行された中学校用の「歴史」と「公民」の教科書を、都立養護学校で採択することを決めた。公立学校で同社の教科書が採択されるのは初めて。

 公立校で使う教科書は学校を設置している自治体の教委が決める。都内では、区市町村立の中学校の分は各自治体の教委が決定するのに対し、都立盲・ろう・養護学校計四十五校二分校の中学部の教科書は、都教委が採択する。

 関係者によると、都教委では今月二十六日に委員会(非公開)を開き、六人の教育委員が無記名で投票。その結果、病弱と知的障害の養護学校中学部(二十四校二分校=生徒数計約九百八十人)で使う歴史と公民に、扶桑社の教科書を推す意見が勝り、多数決で採択した。

 ろう学校中学部の歴史と公民、肢体不自由養護学校中学部の公民には、扶桑社と他社の教科書を推す意見が三対三の同数で、八月初旬の臨時教育委員会で再投票されることになった。

 盲学校では、点字版がない扶桑社の教科書は対象外。肢体不自由養護学校中学部の歴史は「大型で扱いやすい」との理由で他社の教科書が選ばれている。

 都教委では、文部科学省が定めた採択締め切り日の八月十五日付で投票結果を正式決定とし、翌十六日に公表する。教科書の採択で都教委は今年二月、教職員の主導ではなく、区市町村の教育委員が自らの判断と責任で選択するよう各教委に通知していた。

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教科書採択問題 現場に異例の「重圧」 真夜中、自宅に電話 500人が区役所囲む  2001/07/27

 栃木県小山市など二市八町で構成する「下都賀採択地区教科用図書採択協議会」が、いったん採択した「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーらによる中学歴史教科書を一転、不採択にした。異例の経緯をたどった背景には、関係者に様々な“働きかけ”があったことや、現行制度が採択協議会と各教育委員会の意見が相反することを事実上想定していないことが指摘されている。同地区での混乱は、本格化している全国各地の教科書採択にも微妙な影響を与えそうだ。

 下都賀協議会が「つくる会」教科書の採択を決めた今月十一日以降、十市町の教委には、全国からファクスや電話などが相次いだ。栃木市教委の職員によると、「当初は採択反対を訴えるものが圧倒的だったが、教委が不採択を決めると採択を求めるものが増えた」。同協議会が不採択決定をした二十五日までに、同市教委への意見は二千七百五十件に上った。

 小林一成・同市教育委員長は「真夜中にも自宅に電話がかかってきた。異様なプレッシャーを感じた」と語る。ある教育委員は、再協議に臨んだ心境を「(つくる会の教科書を)採択したら教師や生徒に迷惑がかかるのではないか、よそから実験台のように見られるのではないか、という心配だけが頭にあった」と振り返った。不採択の一因に「社会的混乱を避けたいという気持ちがあったことは事実」と話す関係者もいる。

 同じ二十五日朝の東京・杉並区役所。来年度同区立中学校で使う教科書を決める教育委員会が公開で開かれた。二十の傍聴席を求めて百四十一人が列を作った。前日には、つくる会の教科書に反対する約五百人が区役所を取り囲み、ファクスなどで寄せられた意見も三百五十七通に上った。昨秋就任した教育委員の顔ぶれなどから、教職員組合などは「つくる会の教科書を採択する可能性がある」との警戒感を強めていた。

 この日の審議では、その二人の委員が、つくる会の教科書を「物語を十分に盛り込んでいる」「子供たちに明るい気持ちを持たせる」と評価。別の委員二人は「神話と現実を混同してしまう。子供に与えたくない」などと反論した。

 結局、丸田頼一教育委員長が、つくる会の教科書を「内容、ボリュームともに多すぎるという問題がある」とし、別の社の教科書の採択を提案、特に異論がなかったため決着した。 終了後、教委の職員の一人は、「採択は四年後にもやってくる。また同じような騒ぎを繰り返すのか」と疲労感をにじませた。

 文部科学省は、「市民が採択に意見を言うこと自体は何の問題もないが、度を過ぎた組織的な働きかけが公正な判断に影響を与えるようなら問題」と困惑を隠さない。遠山文部科学相は二十四日、全国都道府県教育委員会連合会総会で、委員自らの判断で採択を行うよう異例の呼びかけを行っている。

「採択地区」と各教委食い違い 現行制度で想定せず

 一方、現行制度が、複数の市区町村で構成する「採択地区」の協議会と、各市区町村教委の意見が食い違う事態を想定していないことを疑問視する声もある。下村哲夫・早大教授は、「もし、下都賀地区で一部の教委が協議会の最終決定に異論を唱え続けた場合、どうするのか」と、“二重構造”の矛盾点を指摘する。

 文部科学省は「採択権は教委にある」と言う。だが、地域の判断で「採択地区」を設けた場合、地区内で同じ教科書を使うことは法律で義務づけられており、各教委の足並みがそろわない場合でも単独行動は許されない。「話し合いで合意してもらうしかない」と同省。下村教授は、「地方分権や、地域の実態に応じた教科書を選ぶ観点からも、東京都のように各教委単位で採択を行うべきではないか」と話す。

 採択は八月十五日までに終えるよう政令で定められている。全国各地で、採択作業が大詰めの段階を迎えているが、東京都区部では、まだ大半が未採択。栃木の混乱を受けて神経質になっているのか、教育委員会の開催日程を公表していなかったり、採択結果をすぐには明らかにしない方針を示したりする教委もある。

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「つくる会」歴史教科書 全会一致で不採択  栃木10市町、再協議で  2001/07/26

 栃木県小山市など二市八町で構成する「下都賀採択地区教科用図書採択協議会」は二十五日、来年度から使う中学の歴史教科書について再協議を行い、いったん採択した「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーらによる扶桑社発行の教科書を不採択とした上で、東京書籍発行の別の教科書の採択を決めた。文部科学省によると、一度決定した教科書の採択を協議会で再審議するのは異例。不採択とした理由について協議会会長の菅沼基訓・小山市教育長は「生徒の発達段階から見て、文章表記や表現が難解で理解しにくい」ことをあげた。

 この日の協議会には、「つくる会」教科書の採択を決めた前回(今月十、十一日)と同様、地区内の十市町の教育長、教育委員長、保護者代表の計二十三人が出席。非公開で審議が行われた。

 関係者によると、審議では各教委が「つくる会」教科書採択に対する賛否を報告。十市町のうち「協議会の判断にゆだねる」とした壬生町以外はすべて採択に反対したため、「つくる会」教科書は全会一致で不採択となった。

 前回の協議会では、「つくる会」教科書は現場の教師らの推薦には入っていなかったが、最初の無記名投票で最多の十票を獲得、上位二教科書による決選投票で、十二対十一で採択が決まった。

 一般的には各市町教委は協議会の決定をそのまま承認するが、今回はその後、各教委で不採択の決定が相次ぎ、異例の再協議となった。

 「新しい歴史教科書をつくる会」の高森明勅事務局長は、「今回の再決定は、意図的な情報の漏えいと反対派団体の組織的かつ執ような妨害工作の結果。民主的なルールが一握りの人々の策謀と圧力によってねじ曲げられたことは、採択手続きに対する国民の信頼を大きく損なうものだ」との談話を発表した。

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栃木の町教委がまた不採用決定 つくる会教科書  2001/07/18
 栃木県小山市など二市八町で構成する「下都賀採択地区教科用図書採択協議会」が、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した中学の歴史教科書の採択を決めた問題で、同地区の壬生町教委は十七日、教育委員会を開き、同教科書を採用しないことを決めた。不採用の決定は藤岡町に次いで二町目。
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教科書問題 近現代史「誤りなし」 修正要求 政府、中・韓に回答  2001/07/09

 韓国、中国の両国から、教科書検定に合格した中学歴史教科書の記述修正を求められていた問題で九日午前、寺田輝介・駐韓大使が韓国の韓昇洙外交通商相に、北京の隈丸優次・在中国公使も中国の孫国祥・アジア局副局長にそれぞれ、文部科学省による検討結果を伝えた。計四十三項目の修正要求のうち、韓国側が指摘した「古代朝鮮史」に関する二社計二か所について「誤りがあり訂正の必要がある」と回答したものの、近現代史を中心とした指摘には「明白な誤りとは言えず、制度上訂正させられない」と理解を求めた。同省では、検定を経た教科書に誤りがあったことを重視、新たな対応として、教科書検定審議会の委員に朝鮮史の専門家を加えることにした。

 今年四月の検定終了後、韓国からは、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した扶桑社の教科書に対して二十五項目、他の七社の教科書に十項目の修正要求が出されたほか、中国からも扶桑社の教科書の「南京事件」に関する記述など八か所に修正要求があった。

 同省では、検定審議会委員以外の歴史学者も含む専門家十八人に学説の状況を聞くなどして精査した結果、〈1〉五世紀ごろの朝鮮と日本の関係で、「高句麗の南下に対して大和朝廷の軍勢が新羅を助けて戦った」とする扶桑社の記述は「根拠とした碑文に新羅が大和朝廷に救援を求めた記載はなく、誤り」〈2〉大阪書籍の年表にある古代朝鮮に関する年代区分も史実より約千年違う――と判断した。

 これに対し、他の指摘に対する回答は、解釈の相違による要求が多いと指摘。「明白な誤りとは言えない」などとしている。そのうえで、「教科書検定は執筆者の歴史認識や歴史観の是非を判断するものではない。誤った記述以外は訂正や加筆を求められない」と制度への理解を訴えている。

 扶桑社と「つくる会」は今月二日、古代から近現代史を含む九か所の自主訂正を同省に申請。うち五か所は韓国側の指摘と重なっており、今回、同省が指摘した古代朝鮮史の部分も同社側で削除を申請していた。ただ、残る四か所の自主訂正部分は「誤りとは言えない」と同省は結論付けている。

 同省は九日午前、大阪書籍に検討内容を伝え訂正を促した。

中韓、激しく反発

 【北京9日=石井利尚】北京の日本大使館の隈丸優次公使は九日午前、北京の中国外務省を訪れ、日本の中学歴史教科書についての文部科学省の検討結果を孫国祥・アジア局副局長に伝え、理解を求めた。これに対し、孫副局長は「強い遺憾と不満を表明する」と述べ、「中国は、日本が教科書問題を適切に処理することを再度求める」として、受け入れ不可能との立場を表明した。

法の枠内 最大限の対応

 中学校の歴史教科書問題で、中国、韓国の修正要求を受け、一か月以上検討を重ねた文部科学省の結論は、焦点の近現代史の記述についてはいずれも修正できない、との内容になった。実質的には「ゼロ回答」で、両国では不満の声もあがるだろう。しかし、「日本が修正を拒否した」と受け取るのは誤りだ。

歴史観の修正要求 制度への誤解 根底に

 検定に合格した教科書に対し、制度上、同省は修正を指示できない。強制すれば違法だ。文部科学大臣が明白な誤りの修正を勧告できても、解釈や歴史認識の違いを理由とする勧告はできない。検定制度には、教科書の記述に国が恣意(しい)的に介入するような事態を防ぐ仕組みも講じられている。

 その意味で、両国が歴史認識にからむ事項にまで「日本政府の責任で修正を」と強調したのは、もともと不可能なことを求める面があった。特に中国の要求は、執筆者側の歴史観を責めている観も強い。この問題の根底には、教科書検定制度に対する両国の誤解が横たわっている。

 それでも文部科学省では、外交問題化への懸念から「隣人」の指摘を尊重、外部の専門家に意見を聞くという異例の対応で臨んだ。しかし、古代朝鮮史に関する二か所以外、「明白な誤り」は見つからなかった。

 回答までの過程で、扶桑社自身が、韓国併合に関する記述の削除や、「中国の服属国であった朝鮮」との表現の変更を申請している。同省では、これらを含め同社の近現代史の記述に「明白な誤りはない」と結論付けていて、同省の対応が一見、不誠実に見えるかもしれない。だが、扶桑社が訂正するのは、記述を誤りと認めたからではなく、「韓国内の反発に配慮した」などの理由からだ。検定後にこのような訂正が可能なのは、執筆者・発行社側から申請があった時だけ。この点は中韓両国に繰り返し伝えるべきだろう。

 相手側には十分と映らないかも知れない。だが今回の同省の対応は、法の枠内ぎりぎりまで行われたと評価してよいと思われる。(社会部 小松 夏樹)

一層の正確性期す 遠山文部科学相の談話

 「専門的・学問的な精査の結果、二か所については明白に誤りであることが明らかになりました。その他の個所は、我が国の教科書検定制度上、訂正を求める対象とならないものでした。今後、検定により一層の正確性を期し、今回のようなことが再び起こることのないように努めることといたしました」

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「つくる会」歴史教科書 9か所自主訂正 うち5か所、韓国要求部分  2001/07/03

 「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆し、今春、教科書検定に合格した「中学歴史教科書」について、発行元の扶桑社は二日、古代から近現代史を含む記述九か所の自主訂正を文部科学省に申請した。同省は精査のうえ、承認する方針。同教科書に対し、中国、韓国が「明白な誤りがある」と訂正を要求しているが、今回の自主訂正は「韓国併合」など五か所について韓国側の要求と重なった部分を訂正申請している。「つくる会」では、「自己点検の結果で、要求とは関係なく改める」としている。

 韓国側の指摘と重なる修正部分は、〈1〉大和朝廷の軍勢が「新羅を助けて」とした記述を削除(古代朝鮮史)〈2〉朝鮮を「中国の服属国」とした記述二か所から「服属国」を削除し「中国の強い政治的影響下にあった」と変更(近代)〈3〉「韓国併合」の記述で「(韓国国内の)一部に併合を受け入れる声もあった」とした部分を削除〈4〉朝鮮戦争に関し、北緯38度線を「国境線」とした記述を削除――の五点。

 「つくる会」では、〈4〉については「誤りだった」としているが、ほかは「記述の改善」や、「服属国」などの表現に対し韓国内から反発が上がっていることへの配慮などとしている。このほかの訂正は、同教科書を市販した結果、読者などから寄せられた指摘や意見を検討した結果という。

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田中外相 歴史教科書で「具体的措置取る」 中国外相との電話会談で  2001/05/23

 田中外相が、先の唐家セン中国外相との電話会談で、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した教科書について「何らかの具体的措置を取る」と述べていたことが二十二日、複数の関係者の証言で明らかになった。

 政府は歴史教科書問題について、中国などが求める修正要求には応じない方針を表明している。歴史教科書問題については、二十四日に北京で行われる日中外相会談でも、中国側が日本側の見解を確認したい意向と見られるだけに、田中外相は難しい対応を迫られることにもなりそうだ。

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「つくる会」の教科書 歴史と公民 6月市販  2001/05/23

 「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆し、先ごろ文部科学省の検定に合格した中学用の歴史と公民の教科書=写真=が、来月四日、同じ内容で市販されることになった。「つくる会」と発行元の扶桑社が二十二日、正式に決定した。

 今後夏にかけ、地域で使う教科書を選ぶ「採択」が行われるが、検定済み教科書が採択前に市販されるのは初めてで、同省は困惑している。ただ、市販を禁じる法令はなく、公正取引委員会の規定にも違反していないという。

 検定済み教科書は、採択期間中に全国の展示会場などで公開される。しかし、同省は市町村教委などへの見本配布を一万部までに制限。さらに、公取委は過当競争防止のため、教科書会社による関係者への無償配布などを禁じ、宣伝もパンフレットや内容解説程度しか認めていない。学校関係出版物への広告は業界団体が全面禁止を申し合わせている。このため、これまでは教科書の市販に踏み切る発行会社はなかった。

 「つくる会」の歴史教科書は検定合格後も中国、韓国から修正要求を受けている。同社側は「一部の記述を取り上げて批判されており、反論もできない。多くの人に読んでもらい、内容を判断してほしかった」と話している。価格は千円を予定しているという。

 一方、同省では「正式には聞いていない。公正な採択を損なうようなことがあれば、好ましいことではない」としている。

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歴史教科書修正要求 専門家会議で検討へ  2001/05/21
 歴史教科書問題で韓国と中国から修正要求が出ていることについて文部科学省は二十日までに、外部の専門家を交えた会議を近く開いて検討に着手する方針を固めた。メンバーは、同省の教科書調査官らを含めて十人前後になる見通し。主に指摘部分の歴史事象に関する学説について、歴史学者から意見を聞き、六月中に結果をまとめる。

 韓国政府は八日、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した教科書を中心に三十五項目、中国政府は十六日に同会主導の教科書に絞って八項目、それぞれ日本政府に記述内容の修正を要求した。日本政府は「事柄が専門にわたるので、学問的、専門的、客観的に精査したい」(遠山文部科学相)としていた。

 検討会では、韓国、中国から指摘された記述内容について、朝鮮古代史や中世、近現代史などの時代区分ごとに複数の歴史学者から意見を聞く。同省からは教科書調査官、教科用図書検定調査審議会の社会科歴史担当の審議委員らが参加する。

 外部有識者の人選や検討会の開催日時、内容などについては、「外部の専門家に圧力がかかる恐れがある」として事前に公表せず、検討結果の発表時にすべて公表するという。

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文科省 教科書検定資料HPで公開へ  2001/05/17
 文部科学省は十六日、来春から中学校で使われる八社の歴史教科書について、教科書検定の申請段階の記述と、それに付された検定意見、修正内容を六月上旬から同省のホームページで公開すると発表した。ネット上で検定資料が公開されるのは初めて。「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した扶桑社の教科書の修正内容が国内外で問題とされ、問い合わせが相次いでいるため。

 同省はまた、中学歴史教科書について教科書会社が検定後自主的に訂正を申請した状況を明らかにした。旧石器発掘ねつ造問題が発覚した宮城県の上高森遺跡については、八社中六社に「出土した石器が約六十万年前のものと判定された」などの記述が残っていたが、全社が「学習上の支障がある」との理由で削除を申請、完成した教科書では記述が消えた。

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日本の歴史教科書中国も修正を要求 8か所を指摘  2001/05/17
 【北京16日=杉山祐之】新華社電などによると、中国外務省の程永華アジア局副局長は十六日、在北京の野本佳夫公使と会い、日本の一部歴史教科書について、八か所の修正を求める覚書を渡した。 中国が今回の歴史教科書問題で、具体的な修正要求を出したのは初めてで、先に三十五か所の修正要求を出した韓国に足並みをそろえた。

 修正要求個所については、〈1〉侵略戦争の責任回避〈2〉日本軍国主義の植民地統治の美化〈3〉「南京大虐殺」の隠ぺい――などを挙げた。

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中国も共同歩調で教科書修正要求へ  2001/05/11
 【北京10日=石井利尚】中国外務省の孫玉璽・副報道局長は十日の定例会見で、日本の教科書問題について、「中国とアジア近隣の厳正な立場と正当な要求に日本が適切かつ真剣に対処することを望む」と語り、中国が韓国と歩調を合わせて教科書修正を求めて行く立場を表明した。
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教科書問題 韓国外相「適切な措置を」 本紙と会見 日韓外相会談に期待  2001/05/11
 【ソウル10日=白川義和】韓国の韓昇洙・外交通商相は十日、読売新聞と会見し、韓国政府が先に日本の歴史教科書の再修正を求めた問題について、「田中外相が前向きに処理するよう努力している」と述べ、二十四日から北京で開かれるアジア欧州会議(ASEM)外相会議での日韓外相会談に期待を表明した。

 韓外相は「教科書問題が他の分野に影響を与えないよう日本政府が、適切かつ必要な措置を取ることが肝要だ」と強調。韓国国防省が海上自衛隊との共同訓練を延期したことについて、「(韓国)国民の支持がない状態で訓練するのは、韓日関係のためにも良くない」と釈明した。

 日本政府内には打開策として、日韓の歴史共同研究の推進案が浮上しているが、韓外相は「韓国も共同研究の実現を望んでいる」としつつ、「今必要なのは中長期的対策ではない」と述べ、歴史研究と教科書再修正問題の分離を強調した。

 北朝鮮の金正日総書記の長男、金正男氏と見られる男性が日本に不法入国し、国外退去になった事件については「日本政府から具体的な確認を受けていない。知ることもできない」と語るにとどまった。

 金総書記の韓国訪問については、「いつ来るかは分からない。焦ることなく、きちんと準備している」とした。

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「教科書修正」韓国の要求 政府 対応策探る 応じぬ姿勢だが歴史共同研究も  2001/05/09

 韓国政府が日本の中学歴史教科書の再修正を求めてきた問題で、日本政府は頭を悩ませている。再修正要求そのものは明白な事実誤認がない限り応じない方針だが、そのことで両国間に摩擦が生じるのは避けられないためだ。韓国側が要求する両国の歴史学者の交流は促進する考えだが、同国の不満は容易に解消されそうもない。

 小泉首相は八日、首相官邸で記者団に「再修正はできない」と述べ、基本的には韓国の要求に応じない考えを示したうえで、「『お互い見解が違うのだから、歴史学者、専門家を介してよりよい方向に持っていこう』と前から(韓国側に)申し上げている」と強調した。

 政府内には、「韓国がここまでやってくるとは予想していなかった。厳しい状況だ」(外務省筋)との声が出ている。しかし、「韓国が言っているからと再修正すれば、今度は日本国内で『内政干渉だ』との反発が出る」(外務省筋)「再修正が定例化したら、検定のたびに要求を聞かなければならなくなる」(首相周辺)と、再修正自体には否定的な見解が大勢だ。

 ただ、「日韓関係への影響を考えれば、拒否して『それで終わり』とはいかない」(外務省幹部)のも事実。このため、文部科学省が要求の詳細な分析を始めたのと並行し、外務省では再修正に応じない場合の対応の検討に入っている。

 その軸となるのが、首相も言及した両国の歴史学者による共同の歴史研究だ。

 両国政府は九七年、民間有識者による「歴史研究促進に関する共同委員会」を設立。同委員会は昨年解散したが、その際、両国の歴史学者による「日韓歴史研究会議」の新設などを両国政府に提言している。

 日本側委員からは、「いつも『のど元過ぎれば熱さを忘れる』だ。提言を実行に移していれば、今回の事態は避けられたかもしれない」と、日本政府の対応の遅れへの批判も出ている。

 外務省は「会議新設は着々と準備を進めている」としているが、「今回の問題と切り離して考えないと、会議が教科書問題のためだけのものになりかねない」と、韓国の教科書修正要求に対する“回答”として提示することには否定的だ。とはいえ、これに代わる妙案がないのが現状で、日本政府は重い宿題を抱え込んだ格好だ。

 韓国政府の要求は、与野党でも波紋を広げた。

 自民党の山崎幹事長は八日、「専門家の判断が『(教科書の内容が)史実通り』なら変更はできない」と述べ、再修正は行うべきでないとの見解を示した。民主党の鳩山代表は「政府が(検定合格の)はんこを押しているのは重い」と語った。 ■対日交流冷え込む
■つくる会教科書“初参入” 実際の採択なお不透明
■超法規的修正で悪い前例残すな つくる会事務局長
■韓国側に沿う修正言論封殺に等しい 下村哲夫・早大教授(教育法制論)

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歴史教科書 韓国、35項目の修正要求 福田官房長官「誤りなければ出来ぬ」  2001/05/08
 【ソウル8日=森千春】韓国が日本の中学歴史教科書の検定結果を批判している問題で、韓昇洙・外交通商相は八日午前、寺田輝介・駐韓大使を呼び、「誤り」や「わい曲」があるとして計三十五項目に及ぶ再修正を求める申し入れを行った。日本政府が再修正に応じない場合、韓国側の反発は必至で、金大中政権発足以降、おおむね良好だった日韓関係は不安定な局面に入った。一方で、韓国政府は申し入れと同時に公表した報道発表文で、歴史認識問題の再発を防止するために、日韓の歴史学者の交流など中長期的対策を講じる方針を明らかにしており、対話の余地は残している。

 申し入れは備忘録の形式の外交文書で行われた。韓国が特に反発している、「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーらが執筆した扶桑社の教科書については、「植民地支配に関する反省がない」「日本の歴史を美化するために韓国の歴史をおとしめている」と、歴史観にまで踏み込んで批判した上で、二十五項目の修正を求めた。

 対象は、古代史から現代史にまで及ぶが、特に日韓併合(一九一〇年)に関する記述について、「侵略行為と強制性を隠ぺいしている」ことや、「(第二次世界大戦当時の)軍隊慰安婦問題を故意に欠落させた」ことなど、日本による朝鮮半島の植民地支配と関連した項目に重点が置かれている。

 韓国政府は、同時に検定に合格した他の七種類の教科書についても、慰安婦関連部分など十項目の再修正を求めた。大和朝廷が朝鮮半島南部に勢力を伸ばしたという説(任那日本府説)を否定している。

 韓国政府は再修正要求の根拠として、検定を通過した教科書に、「植民地支配の損害と苦痛」に反省と謝罪を表明した日韓共同宣言(九八年)や、村山首相談話(九五年)などに反する内容が含まれていると主張。

 韓国政府が歴史教科書の修正要求を行うのは、八二年、八六年に続いて三度目。

 福田官房長官は八日午前の記者会見で、韓国政府が日本の中学歴史教科書に再修正を要求したことについて、「真摯(しんし)に受け止め、十分に吟味する必要がある」と述べ、今後、要求内容を検討していく考えを表明した。

 再修正の是非については「明白な事実誤認があれば別だが、それがないなら修正はできない」と語り、「明白な誤り」が再修正の前提となるとの見解を示した。 ■[解説]修正の強要は違憲にあたる
■「韓国の歴史観」色濃く反映 「客観・国際性」強調

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韓国駐日大使が外相訪問  2001/04/20
 韓国の崔相龍・駐日大使は19日、河野外相を訪ね、日本の歴史教科書問題について、「国内の雰囲気は非常に厳しく、国民は深い遺憾の気持ちを持っている。日本政府として積極的かつ誠意ある措置を取っていただきたい」と求めた。大使はこの問題をめぐり一時帰国していたが、同日、帰任した。
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韓国「つくる会」教科書 検定合格に抗議  駐日大使を事実上召還  2001/04/10
 【ソウル9日=白川義和】韓国外交通商省は九日、韓国や中国が「歴史わい曲」と批判する日本の中学歴史教科書問題で、政府の今後の措置を協議するため、崔相龍・駐日大使を十日から一時帰国させることを明らかにした。「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーらの執筆による教科書が検定に合格したことへの韓国政府の抗議の意を込めたものとみられ、同省筋は「事実上の召還措置」だとしている。

 任晟準・同省次官補は「韓国政府は教科書問題を、韓日関係の根幹にかかわるものとして非常に深刻に受け止めている」と説明。崔大使の一時帰国中、日本の現状を報告させ、政府の新たな方針を伝達するとした。

 任次官補は大使の帰国が「召還」に当たるかは明言を避けた。

 大使の召還は、相手国に対する不快感や抗議を表明する強硬な外交措置。韓国は六六年に日本の北朝鮮へのプラント輸出問題で、九八年には日韓漁業協定問題で、それぞれ駐日大使を一時帰国させているが、金大中政権下では初めて。

 問題とされる中学歴史教科書が、今月三日に公表された教科書検定の結果、合格したことについて、韓国政府は「過去の過ちを美化する内容を含んでいる」として、すでに日本政府に遺憾の意を伝えている。韓日議員連盟(会長=金鍾泌・元首相)も九日、来月四日からソウルで開かれる予定の日韓・韓日議員連盟の定期総会を無期延期することを決めた。

強硬姿勢、国内を意識?
 韓国政府は九日、日本の歴史教科書問題で、崔相龍駐日大使の一時帰国を決め、この問題を重視していることを内外にアピールした。韓国政府は、日韓関係の火種が教科書問題以外にも広がるのを避けるため、日本政府から前向きな対応を引き出そうとする一方で、韓国野党は日本製品の不買運動など、より広範な対抗措置を求めている。韓国政府が、野党、マスコミの政府批判に押され、やむなく切った駐日大使の“召還カード”により、日韓関係は岐路に立とうとしている。

■政府は慎重
 崔大使の一時帰国を発表した任晟準・外交通商省次官補は、韓国政府が教科書問題で、「わい曲された事実の是正」という目標に向けて、「強い立場」をとることにためらいはないと強調して、一時帰国が、不快感の表明であることを事実上、認めた。一方で、韓国政府は、“大使召還”に続く、次なる対抗措置が発動されるか否かは、「(専門家の分析を踏まえた関係部局間の)協議後」として、努めて言及を避けている。

 こうした慎重姿勢の背景には、教科書問題が両国関係の様々な分野に悪影響を及ぼすことは避けつつ、着地点を探りたいという、韓国政府の基本姿勢がある。韓昇洙外交通商相は六日の国会委員会で、同問題を「基本的な韓日関係を大きく損なわない範囲で扱う」と言明した。実際、韓国政府は、七日から東京で行われた日中韓の環境相会議には、予定通り参加した。

 特に、金大中大統領自身が検定合格の発表後、教科書問題に言及したのは、新任の外交通商省次官の任命式(六日)の席上。「南北関係」「輸出市場確保」などの外交課題と並んで触れただけだった。

■野党・マスコミ強硬
 これに対し、野党・ハンナラ党は、教科書検定結果を強く非難し、日本製品の不買運動を呼びかけるなど、経済分野まで広げた抗議行動を求めている。

 与党の民主党は、党総裁でもある金大中大統領を支える立場だけに、対応に苦慮している。党内若手には「日本の国連安保理常任理事国入りに反対すべきだ」という強硬論も出始めている。連立与党は、日韓・韓日議員連盟の定期総会を無期延期することに早々と賛成、大使の一時帰国に歓迎を表明して、教科書問題を重視する姿勢を見せた。

 歴史問題に敏感に反応する韓国マスコミは、検定結果の発表以降、連日、教科書問題を報道している。「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が「歴史をわい曲している」という点では、すべての新聞・テレビ局が一致し、政府が具体的な対応策をなかなか決めないことに批判を強めてきた。

 また、中国政府は韓国政府よりも強いトーンで日本に抗議していると指摘し、韓国政府の弱腰ぶりをやり玉にあげている。

■抜けない“トゲ”
 韓国政府は現在、金正日総書記の訪韓を軸とした南北関係の進展を図りつつ、減速気味の経済を立て直すという難題に直面している。いずれも、日本の協力が欠かせない分野だ。日米韓高官級の対北朝鮮政策に関する「調整グループ」会合は五月にも開催されるし、日韓投資協定交渉も詰めの段階に近づいている。韓国政府は、こうした外交日程をにらみながら、教科書問題に対応していくことになる。

 韓国内の専門家による検定教科書の分析が終わった段階で、韓国政府は改めて内容に関する意見表明をすると見られるが、日本政府が、教科書再修正に応じる可能性は小さい。

 日韓関係は、九八年十月の金大統領訪日以降、順調に発展し、これまでにない蜜月(みつげつ)時代が射程内に入ったかに見えた。だが、教科書問題で大使の一時帰国にまで至ったことは歴史認識問題が依然として未解決であり両国関係を阻害しかねないという厳しい現実を見せつけた。同問題を短期間で解決する妙案はなく、日韓両国は、改めて長期的な取り組みを迫られている。

韓国世論は比較的冷静 強硬論限定的
 韓国マスコミや国会議員らが「大使召還」「日本製品の不買運動」など強硬論を主張しているのに対し、韓国の世論自体は今のところ、比較的冷静な反応を見せている。ケーブルテレビ「YTN」が最近行った世論調査では、教科書問題で韓国政府が取るべき対応について「周辺国との共同歩調」が35・8%、「韓日関係を考慮した段階的対応」が32・2%と多数を占め、「国交断絶まで覚悟した強硬対応」は26・9%となっている。

 具体的措置としては「日本製品不買運動など民間レベルでの圧力」27・3%、「教科書再修正を続けて要求」22・7%、「日本文化開放延期」20・1%の順で、「駐日大使召還」は7%だった。ただ、教科書問題が今後の日韓関係に与える影響については「非常に悪影響を及ぼす」が37・2%、「多少悪影響を及ぼす」が45・4%で、今後の日韓関係への懸念が広がりつつある。

日本政府、厳しく受け止め
 「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーが執筆にかかわった中学歴史教科書の検定合格を受け、韓国政府が九日発表した崔相龍駐日大使の一時帰国措置について、日本政府は「『検定結果に満足できない』という韓国側の強い意思表示だ」(政府筋)と、厳しく受け止めている。

 外務省は九日午後四時、在京韓国大使館から、大使の一時帰国について電話で連絡を受けた。これに先立ち、崔大使は外務省に川島裕次官を訪ね、同教科書の検定合格について遺憾の意を伝えた。川島次官は同日夕の記者会見で、「この問題が今まで非常に良好に推移してきた日韓関係を壊すことがあってはならないし、そうならないことを期待する」と強調した。

 政府としては、福田官房長官が三日、〈1〉検定は、国が特定の歴史認識や歴史観を確定するという性格のものではない〈2〉検定基準に基づき厳正に行われてきた〈3〉(アジア諸国に対する反省とおわびを表明した九五年の)村山首相談話の認識は現内閣においても変わりない――との談話を発表しており、今後の対応について「日本の立場は官房長官の談話に尽きている。引き続き談話に沿って理解を求める以外にない」(川島次官)との立場だ。

国連人権委で韓国が批判へ
 【ソウル9日=白川義和】韓国外交通商省は九日、ジュネーブで同日(日本時間十日未明)開かれる国連人権委員会で、韓国の鄭義容・駐ジュネーブ代表部大使が日本の歴史教科書問題について、日本政府の対応を批判する演説を行うことを明らかにした。聯合ニュースによると、鄭大使は演説で、日本の歴史教科書が従軍慰安婦問題に関する表現を後退させるなど、過去の過ちを隠ぺい、縮小しているとして遺憾の意を示し、日本政府が九八年の日韓パートナーシップ共同宣言で示した歴史認識を土台に、是正のための適切な措置を講じることを求める予定。

中韓「認識一致」
 【ソウル9日=森千春】韓昇洙・韓国外交通商相は九日、訪韓中の戴秉国・中国共産党対外連絡部長と会談し、「日本が、わい曲された歴史教科書を容認したことで、韓国民は怒っている。韓国政府は、総合的な対策を考慮中だ」と語った。戴部長も「二十世紀に起きたことを二十一世紀になっても直さず、認定もしないことに、中国人民も怒っている」と応じ、中韓両国の対日認識が一致したことを強調した。

 ただ、韓国政府は、国会答弁などで、教科書問題で、中韓政府が共同して日本に対応するのは適切ではないとの考えを表明している。聯合ニュースによると、同日の会談でも、同問題での協力策については、話し合わなかった。

金大中政権発足後の日韓関係を巡る主な動き

【1998年】
2.25 金大中氏が韓国大統領に就任
9.25 日韓漁業新協定で、暫定水域の範囲確定
10.8 金大統領と小渕首相が会談、「21世紀に向けた新たなパートナーシップ」署名
10.20 韓国政府、日本の大衆文化開放(第1次)を決定。映画や出版部門などで一部解禁
【1999年】
8.5 韓国海軍と海自、初の捜索・救難共同訓練
9.10 韓国政府、日本大衆文化第2次開放発表
【2000年】
3月 崔相龍氏、駐日大使に着任
5.29 訪韓した森首相と金大統領が会談、日朝関係進展に向けた緊密な協力などで合意
6.8 金大統領、小渕首相の葬儀のため来日
6.27 韓国政府、日本大衆文化第3次開放発表
【2001年】
3.8 来日した金鍾泌元首相、森首相らと会談し、教科書問題で日本政府の配慮求める
4.3 韓国政府、日本の中学歴史教科書の検定結果に関し「深い遺憾の意」を表明
4.9 韓国政府、崔大使の一時帰国を決定
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「つくる会」教科書合格 北朝鮮が非難声明  2001/04/08
 【ソウル7日=森千春】北朝鮮の朝鮮中央通信によると、同国外務省報道官は七日、日本の中学歴史教科書の検定で「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した教科書が合格したことについて、「反動的な教科書を通過させたのは、日本当局自身が極右勢力と同じ歴史観を持っていることを示す」との声明を発表し、日本政府を非難した。今回の検定で、北朝鮮政府が公式見解を示したのは初めて。同報道官は声明で、「日本当局に、朝日関係を正常化する意思があるのか疑う」とも述べた。
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「つくる会」教科書検定合格 駐日中国大使が外務次官に抗議   20010/4/05
 中国の陳健駐日大使は四日、外務省に川島裕次官を訪ね、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した中学歴史教科書が検定に合格したことについて、「不満と憤りを覚える。(日本の)侵略の歴史を否認し美化する基調は変更されておらず、中国人民にとって受け入れられない内容だ」と表明した。

 これに対し、川島次官は過去の植民地支配に対するおわびと反省を表明した九五年の村山首相(当時)談話に言及し、「検定は厳正に行われた。わが国の歴史認識は談話の通りで、現内閣でも変わっていない」と説明した。

中国外相、阿南大使に
 【北京4日=石井利尚】中国の唐家セン外相は四日午前、北京の中国外務省に日本の阿南惟茂・駐中国大使を呼び、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した中学歴史教科書の検定合格について、「多数の修正を経ているが、荒唐無けいな論調は変わっていない。日本の若い世代に、危ない歴史観を広めようとしており、日本の将来に災いをもたらす」などと述べ、日本政府に抗議した。

韓国も寺田大使に
 【ソウル4日=白川義和】韓国の韓昇洙・外交通商相は四日、寺田輝介・駐韓日本大使を呼び、日本の中学歴史教科書の検定結果について韓国政府の遺憾の意を伝えた。

 韓外相は「検定を通過した一部教科書が、自国中心的な考えや過去の過ちを美化している内容を含んでいる」と指摘。近隣諸国条項などに基づき厳正に検定したとする日本の立場は、韓国側の評価と相当の開きがあるとし、日本政府の「誠意ある措置」を求めた。

中国各紙が一斉批判
 【北京4日=石井利尚】中国の新聞各紙は四日、日本の「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した中学歴史教科書が検定に合格したことを受け、批判記事を一斉に掲載した。

 中国共産党機関紙・人民日報は「史実をわい曲した教科書を文部科学省が合格と宣言」と題する東京特派員電を掲載。「南京大虐殺を故意に取り上げず、関東大震災時の在日朝鮮人虐殺やアジア各国の従軍慰安婦のことにまったく触れていない」と指摘し、「修正後も、侵略戦争を美化する本質は変わっていない」と強く非難した。また、中国青年報は、日本の終戦後の右翼の歴史とともに、言論・政財界における右翼勢力の伸長を「つくる会」の教科書登場の背景と指摘。軍機関紙・解放軍報は「日本の青少年は、侵略戦争の本当の歴史を理解するのが難しくなった」と懸念を示した。

 一方、国営新華社通信は四日、日中戦争中に南京を含む江蘇省全体で六十万人の住民が死亡したとする地元専門家の研究内容を配信。さらに、「修正後の教科書は依然として軍国主義の精神を体現している」との中国社会科学院歴史学者の見解を流すなど、批判記事を増やしている。

韓国でも抗議 元慰安婦ら
 【ソウル4日=森千春】韓国で旧日本軍の従軍慰安婦問題に取り組む民間組織「挺身(ていしん)隊問題対策協議会」は四日、日本大使館前で集会を開き、日本の中学歴史教科書の検定結果に抗議した。集会には元慰安婦八人を含む約四十人が参加。慰安婦問題を扱う教科書が減ったことや、「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらが執筆した教科書が検定に合格したことを非難する声明を発表し、代表が大使館に書面を手渡した。

 韓国最大の仏教宗派である曹渓宗も同日、教科書による「歴史わい曲」是正を求める声明を発表した。

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