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—鬱陶しい亭主の場合—

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第696話 感想 小説『今夜、すべてのバーで』

第696話 感想 小説『今夜、すべてのバーで』
 
 中島らも『今夜、すべてのバーで』です。中島らもさんはお若くして鬼籍に入っておられます。その記事を目にしたときに惜しい人を亡くしたと感じたものです。そのときはエッセイしか読んだことがなかったのですが。文章の流れ・リズムに秀でた力量を見せていた文筆家だったと記憶しています。
 で。『今夜、すべてのバーで』ですが。内容はまあ言ってみればベタな話です。ありがちといってもいい話です。しかしそのベタな話がよくよく読むとかなり壮烈で。しみじみとした中にも主人公はこれでいいのか? という劇の幕が閉じた後が心配な作品になっています。
 ではまずは私の中にすむ中学生君の感想から。
 まず最初の二行。もうここから上手いよ。あ。この人はやるなと。なめてかかったらいけないなと。そう思わされる二行を得てこの作品は流れて行く。
 中身はお酒の飲みすぎで身体を壊した冴えない中年男の薀蓄話に若干の風変わりな人間関係をからめているだけ。特にアルコールや薬物の依存について知識を得たいわけでもないので……こういう作品なんだなと。中盤でダレ気味なのが少し残念。でも文章の運びは好きです――という感想です。
 続いてオッサンの感想です。
 この主人公の淡々として冷めた感じがとても不思議。そして不気味。お酒にやられて内臓ヤバヤバで今後一滴でも飲んだら死ぬよと。そう医者に言われてもこんなふうに淡々としていられるものだろうか。いやいや。むしろ仕事に追いまくられることから逃げ出してお酒に安息の場を求めてそれを曲がりなりにも達成した満足感なのかも。
 でもなあ。何か決定的に大事なネジが外れて既に失われている人のような印象なんだよな。アルコール依存の本で勉強しながら自分はまだ飲めるまだ飲めるって。もうすでに正気じゃないよ。
 この人は仕事を放り出して入院したんだよな。今後どうするんだろうね。うん。無職の恐怖に耐えかねてまたいずれお酒に手を出すね。そして次は死ぬね。うん。淡々と書いているから怖いね。しかもなにやら未来に希望を見るような風味でラストシーンが描かれているからなお怖いわ。これは死王に見つめられた男の逃れられない運命の話だな――というのがオッサンの感想。
 オッサンというか私というか。かつて浴びるほどお酒を飲んでいたことがありますが。それでも毎晩ウイスキーのボトルを一本飲み干すなんて荒業はできませんでした。そもそもウイスキーは好きじゃないから飲みたくない……なんてふうにお酒の好みを言っていられるうちは依存症になんぞなれないのでしょうね。
 結局のところ酒飲みの気持ちはよくわからんということがよくわかった作品なのでありました。
 

2013/06/16

ついでに一言
 
 記憶だとらもさんが亡くなったのもお酒がらみだったような。間違っていたらごめんなさい。
 


おまけにもう一言
 
 次回はアーサー・C・クラーク&フレデリック・ポール『最終定理』です。