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—鬱陶しい亭主の場合—

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第672話 感想 小説『偽物語』

第672話 感想 小説『偽物語』
 
 アニメ『偽物語』の原作である西尾維新さんの小説は未読のままでした。アニメにはあまり感心しませんでしたので原作を読むまでもないと思っていたのですが。でも他を読んでこれを読まないのもいかがなものかと。
 それで読んでみて登場人物のあまりのメタ発言の激しさに気分が萎える場面もしばしば。これを小説と呼んでよろしいのかなと。アニメ化がそんなに嬉しいですかね。嬉しいんですよね。きっと。
 思い起こせば前作の『化物語』は一話完結の形式を採っていました。短い話の中でお化けを退治するのではなく対峙して気の利いた折り合いをつけてみせる。その折り合い方に感心させてスッパリと綺麗に終えてみせる作品でした。その点でこの『偽』はずっと味わいが劣ります。一話完結の潔さが失われて後に尾を引くモワっとした終わり方です。続編ありきとはいえいささか残念なことになったなと。
 いずれにせよ『化』は文化祭でお化け屋敷をやって登場人物にも読者・視聴者にも万感の思いを胸に残して終わらせることができたんだと。あれは良い話だったと。そんな思いを新たにしました。
 ということでこの感想を終えてもよいのですが。一応は私の中の中学生君とオッサンとに感想を聞いてみることにします。
 まずは中学生君から。
 あの暴力陰陽師のお姐さん。あの人には家族とか恋人とかいるのかなと。やたらトゲトゲしい振る舞いだけど。ああ見えて実は結婚していて家庭があって。外で見せる顔と家庭で見せる顔はまるで違っていたりして。趣味はガーデニングでたまに仕事がない日には放っておきっぱなしの庭の手入れに精を出したりして。好きな花はバラだったりして。この花ったらトゲトゲして嫌いだわとか言いながら水をやったりして。料理が得意で笑顔の素敵な旦那さんとヤンチャ盛りの坊やがいたりして。
 でもないんだろうな。そんな家庭は。そんな家庭があったなら。怪異に襲われる心配が尽きないですもんね――だそうです。
 あの人は孤独に生きるしかない人です。因果なキャラですよ。あのお姐さんは。強がっていますけど哀れを誘います。強ければ良いってものではないですね。強者の孤独ってやつですか。
 次はオッサンの感想です。
 小説は細かい心情描写が売り。それがなくては小説の価値がありません。しかしそれでも戦場ヶ原の内心はよくわかりません。それは詐欺師の貝木も同じこと。両者とも読者のミスリードを誘う登場人物です。困ったものです。他の登場人物が素顔で劇に出ているとすればこの二人は仮面をかぶって出演しているようなものです。
 そして二人がかぶっているその仮面の名は。「言葉」です。
 詐欺師の貝木は甘言の仮面。戦場ヶ原は暴言の仮面。いずれも己の利のために言葉を武器にしています。使う言葉は違っても両者の本質は同じなのです。二人は言霊使い(ことだまつかい)なのです。その意味で二人は人でありながら人よりもずっと怪異に近い存在であると思われます。二人は同じ穴のムジナなのです。
 その同じ穴のムジナ同士が惹かれあうのは当然なのかもしれません。それは同類を得た嬉しさかもしれません。ただしお互いに毒気が強すぎるのが難点です。あまりに毒気が強いので一定以上に距離を詰めることができません。惹かれあいながらも同時に嫌いあう仲。それが貝木と戦場ヶ原の仲なのではあるまいかと。
 その一方で阿良々木と忍との距離は近くなる一方です。
 暴力陰陽師のお姐さんに戦いを挑まれた忍は高笑いして答えます。「戦わない」と。
 忍にとって陰陽師のお姐さんはいかに強くてもたかが人間です。戦わずとも勝手に寿命が尽きて死ぬのです。この勝負は戦うまでもなく忍の圧勝です。それにもしも戦ってお姐さんをボロボロにしてしまえば主様に嫌われてしまいますし。
 そしてそう答えている背後でお姐さんと先に戦ってズタズタの挽肉にされていた主様・阿良々木がそれでも死なずに立ち上がっているのです。その姿を見て忍は心の底から嬉しかったはず。主様がこれほどの不死身なら。これならこの先も二人で永遠の時を添い遂げることができるに違いないと。これからもっともっとイチャイチャベタベタして仲良くするんだと。
 ということでこの『偽物語』はどうしようもなく寂しい孤独な一人と二組のカップルの好対照とを描き出して次に続くのでありました。チャンチャン! ――だそうです。
 オッサンはなかなか深読みをしているようですが。でもそれが当たっているとは限らないのが戦場ヶ原と貝木なんですけどね。この二人には困ったものです。
 

2013/02/14

ついでに一言
 
 確定申告書の作成が終わりました。後は提出して終わり。
 


おまけにもう一言
 
 そして地獄の年度末ときたもんだと。貧乏暇なし。あー。疲れた。