この辺り一帯では、昔々から昭和の初め頃まで夜ばい人という若者たちの遊びがありました。しかし、それは文化の進歩、社会の変化と共に消えていってしまいました。昔は今のようにパチンコがあるではなし、カフェーや飲み屋へ通うお金は全くなく、村には娯楽とよばれるものはなかったといえる状態でした。そのような中て、夜ばいは若者たちの娯楽であり、恋愛でもあったのてす。夜になり若い者が集まると、2人ずつ組になって若い娘の所へ忍びこみ、夜ふけまて娘を口説き、うまく娘の寝床に入って体の関係を持つことに成功する者もいたようです。娘にきらわれふられて帰る者、家人に気づかれて逃げる者、それどころかつかまってどなりつけられる者など、種々様々の結果かあったのです。しかし、いずれにしてもドキドキとするスリルとロマンがあっておもしろかったということです。もてたこと、追われたこと、よかったこと、それはそのときの運であったようです。夜ばいについては、いろいろな話があります。
 〈その一〉  「クニャッ」
 若者二人が、目当ての娘のいる家の台所まで首尾良く忍び込んだ。なにせ、真っ暗やみである。足の先に目が欲しい。そろそろっと足を進める。ひょいと足を出した。途端に「
クニャッ」と何かを踏みつけた。気味が悪いと思う間もなく、すててんところんでしまった。ガランガランと大きな音がした。「しまった」と、土間を四つ足で、はって逃げ出した。
後ろから大声で、「だれじゃ。待てっ」という声が追いかけてくる。その家では、報恩講様の豆腐が作ってあった。昔は何かあると、自分の家で豆腐を作ったが、 クニャッとしたのは豆腐を素足て踏みつけたのだった。
 
 
〈その二〉 「かくおび」
 昔は板敷きには、何も敷いてなかったので歩くと板がギィギィと鳴った。折角忍びこんでも、音がしては家人に気づかれてしまう。そこで夜ばい人は考えた。角帯を持っていき、歩く所にクルクルと延ばして広げ、その上を、ぬき足、さし足、忍び足で歩くという知恵をはたらかせたそうだ。

 
〈その三〉 「あったんがえし」
 夜ばいに行ったが、その家の父親に気づかれて追い出されてしまった。しゃくにさわるやら悔しいやらで、何とか
あったんがえしをしたいと考えた。次の晩、その家の人が寝静まるのを待って、小便桶をそおっと入ロ戸の前に運んで置いた。わざとガタビシと音をたてた。
昨夜のように、奥から、おやじが起きてくる音がする。外でバタバタ逃げる足音を高くする。「こらっ、待てっ」と、おやじか入ロ戸をあけて出てくる。小便桶にぶつかり、桶と共にころがる。あたり一面に、黄金水の匂いが立ちこめる。物陰で見ていた夜ばい人は、声を出さすに大笑いをした。