むかし、信包(のぶか)に助三郎という豆腐屋がありました。稲越村の人が、タ方、助三郎で揚げ豆腐を買って、風呂敷に包み背中におねて、湯峰峠にさしかかりました。日はもうとっぷりと暮れて、まっ暗になってしまいました。寂しい寂しいと思いながら、足早やに峠を上っていきました。峠の地蔵様に間近い所で暗やみの中から不意に、「オイ、オイ。」と、後ろから呼ばれたのて、肝がつぶれるほど「ドキッ」として、立ち止まりました。

 
こわごわ、そおーッとふり返えると、隣りの権吉さんだったので、ホッとしました。
 
 「
なあんだ、権吉か。いきあたりに呼ぶもんで、びっくりしたぞよ
 「
はっはっはっ。かんにんかんにん。ちょっとおどかしてやろうと思ってな。ところでお前、どこへ 行って来たんや。
  「
おお、おれは町まで用事に行き、帰りに助三郎で油あげを買って来たんや。」と、答えました。
  「
そうか。まあもうちょっとで、峠の地蔵様や。そこで一服せまいか。

と、権吉が言うので、地蔵様の前まで行き、 2人並んで腰をおろしました。そして、背中の油あげの風呂敷包みをほどいて膝の上に置いて休みました。そのとき、権吉が、「
どうだい。おれの買って来たまんじゅうと、お前の油あげとを替えまいか。」といって、まんじゅうの包みをさし出すのです。見ると、まんじゅうの包みは大きくて重たそうで、たくさん入っていそうなのて、内心、しめたと思いました.2人は一服して、風呂敷包みを取り替え、家へ帰りかけました。


ところが、後ろをついて来ていた権吉が、急にいなくなってしまったのです。「おーい、権吉。どうしたんや。」何度呼んでも姿は見えないので、おかしいなあと思いながら、家に帰りました。家では、おふくろさんと、かかさと子どもたちが待っていました。「お父っつあま、ご苦労さま。」と寄って来ます。さっそく、背中からおろした風呂敷包みをあけると、中から馬糞がコロコロと、十以上もころがり出ました。「ああッ、やられた。あの古狐めが……」と、かんかんに怒りましたが、次には、がっくりと肩を落としてしまいました。
(古川のむかしの話しより)