きつねの嫁入り (福井県鯖江市石生谷町当田)
  
  むかし、当田の南はずれに、窪田という所があり、そのあたりは一面すすきが生い茂っていました。
  ここは、夜になるときつね火がよく現れ、遠くはなれた民家からもよく見えたということです。

  五月上がり(田うえの終わったこと)の田んぼに水を入れるころのことでした。
 夜なべにおばばがあしたの子どものおやつにと、いろりにいりなべをかけて豆をいっていました。
  横座(いろりの奥の正面の主人のすわる所)でおっちゃんは、きざみたばこをきせるにつめながら、

  「なあんてむし暑い晩じゃろ。今夜あたりきつねの嫁入りがあるかも知らんで見てこいや。きつねが出ると、ちょうちんの灯のように、ちらちら見えるでな」


    
      
 
「どんなんやろ」  娘のとしはちょっとこわい気もしたけれど、やっぱりきつね火が見たくて、うす暗い玄関の方へ走りました。かがみ腰で障子の引手の穴からそっと外をのぞきました。

   
  外はきり雨でかえるの鳴き声が聞こえるだけで、何んも見えません。
   「なあも見えんげの」    「しばらく待っていよや。今に出るわいや」
  としは、今か今かと胸をどきどきさせながら、じっと外を見ていました。
  すると、遠くに一つ二つ灯がぼおうっと見え始めました。
 あれがほうやろかと、目をこすりこすりよく見ると、三つ四つとふえはじめ、ゆらゆらゆれながら、後になったり、先になったりして、こちらへ進んで来るようです。
    
 
「あっ見えた。」  「見えたか。ほんならまゆにつばつけておけや、 きつねに気付かれたら、だまされるでな。いつまでもみているでねえぞ。」

  と、おっちゃんに注意されました。 としは、あわてて指先で何回もまゆ毛につばをつけました。「あっ、きつねの行列が見えた見えた。」 と、大きな声でさけびました。
  行列の一番先頭の人は、ちょうちんを手に、かみしもを着ていますが、よく見ると、太いしっぽが出ています。 つづいてかごに乗った花嫁さん、うつむきかげんで顔はよく見えませんが、綿帽子の下から細いあごが見えています。

  
    
  行列は田んぼ道をこちらに向って、だんだん近づいて来ます。
  そして、母屋のはさ場の所まで来ました。
  「わあー嫁さん来た来た、ほらっ見て見てえ。」 と、としはふり返っておっちゃんを呼びました。すると 「いつまでも見ているなって言うたやろ。今にさそい込まれてしまうんやほれっ。早よこっちへ来い。」
 と、強くたしなめられました。としはおっちゃんの大きな声で我にかえり、あわてていろりの所へもどりました。

  
としは、本当にふしぎ、ふしぎ、こんな面白いこと初めて見た、
  もうしばらく見ていたらどうなったかな? と、ぼんやり考えていました。
   おっちゃんも、おばばも、「もう寝よや」 と、言っただけで、
  きつねについては何も聞きませんでした。 あんな面白いものどうしてかな?。
  ゆめのような出来事に、としはこうふんしてなかなか寝つかれませんでした。


                           <鯖江市豊地区の昔話より抜粋>