昔、大村に百姓 茂右エ門という財産家がありました。長い冬の雪も消え、春の訪れと共に田畑の仕事が忙しくなってきました。茂右エ門も大切な馬を連れ、田かきに行きました。ジャブジャブと田かきをしていましたが、いつも温和な馬が突然暴れ出したのです。普通の暴れようと違い、いくら静めようとしても静まりません。それもそのはずです。馬の尻尾に河童がしっかりつかまっているではありませんか

これを見た茂右ェ門は、この河童はきっと、大切な馬を取ろうとしたのだと思い、すっかり腹を立ててしまいました。

「この河童野郎、たたき殺してやる!」
と、丸太棒を振り上げて、一撃しようとしました。
  するとその時、河童は馬のしっぽからとびおりて、両手をすり合わせながら、
  「旦那様、わたしが悪かった。許してください。旦那様のいわれることは何ても聞きますから、命だけは助けてください。」
と拝んで頼むのです。
  一時はカッとなった茂右ェ門も心を静め、

  「河童。これからは、こんな悪いことをするなよ。今日のところ、命は助けてやる。そのかわり、明日から、朝、おれが田の水見に来るから、そのとき、手桶に一杯、小魚を取って入れておけ。」
と言いました。河童はうなづきながら、小川ヘ逃げこみました。
翌朝から水見に行きますと、あぜの上の手桶に一杯の魚が置いてありました。

 このことは大分長く続いたようてすが、茂右ェ門に欲がててきたのです。
「手桶一杯といったんだから、同じ一杯なら、小さい手桶より、大きい手桶のほうがいい。魚がたんとはいるから」
と思って、大きな手桶に取り替えたのです。

 ところが、翌朝から手桶はからのままでした。それは、河童がこのように思ったからのようでした。命を助けてもらった人の手桶は、小さい手桶だったが、大きい手桶に替ったのは、違う人が置いたのだろう。小さい手桶の人への恩返しは終わったんだ。手桶が大きくなってからは、魚は、はいらなくなったという昔話です。
        
 この話の場所は小字出付といいますが、現在は、ほ場整備されて、現地の姿は変っていますが、今もその土地は、三分の一ほど残っております。