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脚の爪先からは赤が流れ、痛みを通り越し既に感覚は無く
冷たい風が二人の温もり奪おうと
繋いだ手と手は、離さない
何時も憂鬱げな表情(かお)をして、虚空を見上げている彼の人が気になっていた
戦場で出逢った時の表情とは違い、艱苦と悲哀が溢れ
空の瞳に己を映し出したいと
気が付けば血に塗れた手で、其の身体を抱いていた
「では、明日の早暁…」
絡め合う指を名残惜しそうに解きながら寂しげに言われれば、
半蔵は今一度の身体を己の腕の中へと閉じ込めた
刹那にも離れる事が堪え難く
強く、強く、此の想い委ねる様に身を寄せ合えば、
ぽつりと漏れる其の言葉だけが真実(まこと)で
「半蔵殿…もう行かねば、殿に叱られます」
冷たく言い放つ其れも互いの為と知ればこそ愛おしさが込み上げて
嗚、とだけ返し束の間の刻を終え、各々の囚獄へと舞い戻る
時折振り返っては見える筈の無い姿探し、
契りの朝を思えば期待と不安が混じり重く圧し掛かった
「どうしたの?」
艶の含む声が掛けられぴくりと肩を震わせ顔を向ける
眼が合えば、優しくも鋭い瞳に総てを見透かされそうで
瞬きすら忘れじっと其の眼差しと視線を交えた
「遅かったのね…何かあったのかしら?」
ふるりと、首を横に振れば深く頭を下げ足早に其の場を辞す
が、僅か暖かな手がの手首を掴み其れを制した
鼓動が速まる
思いとは裏腹、其の表情はとても切なげで
言葉を失うとはこう言う事なのかと、意識の隅で考えていた
「…貴方が望む道を、行きなさい」
声が震え哀しみを訴える
此の人は本当に、何もかもお見通しだと
子が親に甘える様には相手の胸へと顔を埋めた
「お濃様……否、姉上…
申し訳、ありませぬ…」
堪えて来た涙が零れ頬を濡らす
もう何年も泣いて居ないと思い返せば、此の涙が必然であるかの様で
必死に声を殺しては抑え続けていた憂悶もまた流れ出で
一頻り泣き終えればぱん、と一つ頬を叩き気を引き締める
そんな様子を見て濃姫ははしたないと笑いながら額を小突いた
「私が愛を選んだ様に、貴方もまた愛に生きて行きなさい…」
父に刃を向けてでも愛を望んだ様に、と
笑みを向けるも其の声には何処か迷いが相見える
そっと身を寄せ合い温もりを刻んでは身体を離し、
濃姫と向かい合うと今一度深く頭を下げた
「幼き頃…独り死を待つだけだった私を拾い、
本当の妹の様に可愛がって下さったと言うのに…
謀反とも取れる所業、御赦し下さい…っ」
吐き捨てるかの様に言い切れば相手の言葉を待つ事無く、
軸を返し目の前から走り去った
と言っても、重い具足を身に纏った其の身体
手を伸ばせば引き止める事はいとも容易く
(それでも、)
貴方が選ぶ道を、邪魔する事等誰が出来ようかと
濃姫は瞳を伏せそっと相手に背を向けた
「半蔵殿」
約束の場所には、既に半蔵の姿が在った
其の表情からは僅かながら苦慮が伺え、そろりと手に己の其れを重ねる
半蔵は何でもないと言う様に首を横に振り、重なる手をぎゅうと握り締めた
装甲した具足を最低限にし慣れぬ山道を直走る
小枝に肌を裂かれても痛みすら忘れ、先の見えない其の場所へ
此の手だけは離さない
選ぶ道の先、何が待ち受けようと
(姉上…貴方が信じた道を、私も)
朝陽の滲む空は、蒼く晴れ渡っていた
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SSでは初めての普通の夢になりました…甘さは控えめですが^^;
織田軍姫武者設定なのですが、武者らしい表現は一切無いですね…
幼い頃肉親を亡くし、其の時出会った濃姫に可愛がられれば良いなとw
そして半蔵と駆け落ちと…さんはともかく、半蔵が主を裏切る様な事をするのだろうか…
08.12.4
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