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朽ちて逝く其の身を抱いて、瞳に映すは黒き影
溶ける感覚に目眩を覚え
ただ願うは、欠片で良い
其の寵愛を受けずとも傍に在れば
今宵もまた、宵闇の中哀願抱き舞い続ける
此の愛の為、時雨れる事無かれと
「」
己を呼ぶ声にすら哀傷を含ませる貴方が憎い
偽りの想いならばいっそ、綺麗に捨ててくれれば良い
込み上げる其れを隠す様に紅い扇で口元を隠しやる
そろりと肩を抱く腕が、僅かに震えて感じた
「」
今一度名を呼べば黒目勝ちな瞳が此方を見上げる
最早己の情感を抑える事など出来ず、半蔵は華奢な其の身体を抱き留める
縁側より見える鈍色の空からは白銀の牡丹雪が降り注ぎ、
互いの吐息は白濁となりゆらりと消えた
豪華絢爛に飾り立てられたの白い首筋にそっと顔を近付ける
だが小さな手が其れを制し、僅かに距離を空けた
「私はもう、」
貴方のものでは無いと
言い掛ける唇に己の唇を重ねれば手に持つ扇がするりと抜け落ち
静寂が包む室内と裏腹、互いの鼓動は酷く耳に付き
縋る様にしがみ付けば厚い胸板が温かく、
頬を伝う其れは熱いものの、外気に触れれば刹那の内に冷たくなった
どうする事も出来ないと解りながらも尚、苦悩と愁傷に表情(かお)を歪め
離れぬ様に
忘れぬ様に
此の身体に刻むが如く肌を重ね
床に落ちた扇をそっと拾い、己に身を預ける相手へと手渡す
涙に濡れた瞳で見つめては力無く其れを受け取った
すっと、立ち上がれば何を言うでも無く
僅か雪の積もる庭へと脚を向ける
に続き半蔵もまた外へと出れば濡れる事も気にせず地へと腰を降ろした
懐より取り出したるは黒塗りの横笛
乾いた唇を当てれば、熱の籠る吐息を吐く
其れと同時、は手に持つ扇を音を立て開き笛の音に合わせ舞を舞う
闇の中浮かぶ月の様に、儚くも力強く
一片の迷いもいらない
此の想いが誠なれば
唯其れだけで、私は咲き誇れましょうと
重なる視線が、貴方だけだと訴える
柔く歪む瞳が、貴方だけだと愁訴する
流れる涙が、此れが最期と言上する
黎明の頃
外からは慌ただしく足音が響く
腕に抱くは既に居らず、冷たい風が吹き付ける
半蔵、と
主の声にものらりくらりと身体を起こし、廊下に在るであろう相手へ頭を下げる
襖は開けられる事無く
されど、顔を上げる事等出来なかった
主の隣にあるであろう人を思えば、痛みに歪む顔を俯かせ
「では、行って参る…留守は任せたぞ」
声無く、下げた頭を地に付けるかの如く深く深く頷いた
飛び起きて、其の小さな手を掴んでしまいそうで
華奢な身体を抱き上げて、遠い何処かへ連れ去ってしまいそうで
己を抑える事が、貴方への精一杯の忠義だと
唯、言い聞かせるのみで
振り返りはしない
犯した禁忌の報いだと言うのなら、喜んで受けましょう
見送る人々の笑顔や歓声が深く突き刺さる
罵声と嘲笑を浴びせられるかの様な感覚に目頭が熱くなり
暗い籠の中に満ちるは、絶望のみだった
「、其れは何だ」
男に問われれば帯に差した藤色の布を取り出す
中には黒塗りの素朴な笛が一つ
新しい物を買ってやろうと、
笛を取り上げようとする其の手から柔らかく笛を遠ざければは笑う
「約束の品なのです」
不思議そうにする男にもう一度笑みを向け、愛しげに其れを抱き締める
天守より見下ろす外には小さな雪が舞い
そろりと手を伸ばしては其れを一つ受け取り、頬に当て
瞼を閉じれば、其処はあの日の儘で
一筋の涙と共に言葉を漏らした
互い、口にする事の出来なかった其の言葉
『愛してます』と―――
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嫁入り悲恋物は王道だと思うのです←
半蔵とさんは愛し合って居るけど主従の関係で、勿論赦される事では無く
お互いにただ其の運命に従うしかなかったと思うのです…
さんは政略婚でもそうで無くても、お父さんである家康の言う事に意見せず、
半蔵もまた主である家康と、さんの意思に背く事は出来ず…
因みに嫁入り先は三成辺りと勝手に想像にてました^^←
08.11.29
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