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晴天の中、三つの影が手を取り合う
青空には不釣合いなその影達は、各々の主が命で其処に居た
眼前には義を説く三人の漢
は胸中で盛大に溜息を吐いた
「戦じゃ!戦じゃぁあ〜!!」
空は暁
未だ日も昇らぬ刻、秀吉の声が静まり返った城内に響き渡った
先まで任務の為城を抜けていたは丁度報告書を前にしており、
その声に誰より早く主が元へ飛んで行く
「秀吉様、一体如何なされたのですか」
すたり、と屋根裏から降り立ち主の傍に跪く
ちらと顔を仰げばいつもの優しげな面影は無く、
般若の如く憤怒に歪み一枚の紙を見据えて居た
ゆるりと立ち上がれば秀吉が手に持ったそれを押し付けるように渡して来る
不思議に思うも、此処で何か言ったところでこの怒りは収まらないだろう
手渡された書状に眼を落とす
北条家からの文らしい
太平の世が訪れてからは時折こうして大名から書状が届いている
至って不思議な事ではない
が、内容を眼で追う内に主の怒りの起因が浮かび上がる
「北条め、厭らしく自分の忍の自慢話なんぞ書きおって…!」
紙上一面、所狭しと書かれた北条が影、風魔小太郎の誇称話
その内容と、それに対し子供の様に悔しがる秀吉に、
は気付かれぬ様盛大に溜息を吐いた
「何を言ってるの!うちの子が一番に決まってるじゃない!」
そんなを知ってか知らずか、いつの間にか傍に居たねねも怒りに声を荒げる
グイ、と手を掴まれ、真剣な眼差しを向けられる
嗚呼、これは困った
恐らく続くであろうねねの言葉を想像し、まるで他人事の様に胸中で呟く
「、悪い子にお仕置きしてらっしゃい!」
我が子同然のを侮辱するような内容、捨て置けん
そんな事を言いながら、秀吉とねねの間でどんどんと話は進んで行く
小太郎と忍術合戦だの、小太郎と任務交戦だの
流石にこのままではまずいと思い慌てて二人を制止する
と、不意に後ろから不機嫌そうな溜息が漏れた
「全く、下らない事で人の睡眠の邪魔しないで下さい」
普段から不機嫌そうな彼は更に機嫌悪くねね達に向かい言い放つ
三成、それでは言い方が悪いぞ
そう言おうとするも、既にねねは額に青筋を浮かべ三成に詰め寄って居た
睨み合う二人に流石の秀吉も我に返ったらしい、
ねねを抑えようとするが時既に遅し
三成とねねの間には火花すら散って見える
「悪い子だね、お説教だよ!」
何をどうしたらそうなるのか
恐らく問うた所で納得の行く返答は返されないだろうが
こうしては状況を理解出来ぬまま、ねねにより城から引っ張り出される事になった
眼前には義を説く漢が三人
一人は口を開けば義だ愛だと語る直江兼続
また一人はその闘志が如く紅き鎧を纏いし真田幸村
そしてその中央に立つは、先程までねねと口論していた石田三成
一方の隣にも二つの影が在った
この戦が原因である風魔小太郎
そして何故か手を貸す事となった服部半蔵だ
「本当に申し訳ない」
額を押さえたままには二人へ謝罪する
簡単に説明を受けると、どう言う訳かと三成が打ち合う事になったらしい
無論ねねと三成の間で勝手に決められた事だ
そして一対一では各々部が悪いと、三成は友である兼続と幸村、
には同じ影である小太郎と半蔵に白羽の矢が立ったのだ
「この時点で既に理解不能なのだがな…」
自嘲気味に笑いを漏らすに、遠くからねねが声を掛ける
その周りに人々が集まっているのが見えた
乱世が終わり、こうした戦は殆ど無くなった
故に、この様な場が持たれ血の気の多い武将達が良い座興と物見に来たのだ
「滅…」
隣で呟き零す半蔵に視線を向ければ、
何故か小太郎と睨み合い今にも打ち合い出さんと殺気立っている
否、小太郎はからかう様にニヤニヤと口許を歪めているのだが
慌てて止めようと半蔵の腕を引っ張り距離を離すも未だ睨み付けたまま
そんな達を置いて、進行役であるねねが大声で条規を説明していく
義組―三成達の事らしい―は腕に紐を付け逃げる、
忍組はその紐を取る為追いかける
互いに武器の使用は認められるが、死に至る怪我を負わせてはならない
日が沈み切るまでに紐を全て奪えれば忍組の勝ちとなる
(死人を出さない戦、か)
説明を受けはほっと安堵の溜息を漏らす
あちらも勿論兵(つわもの)揃いだが、こちらにはあの半蔵と小太郎が居るのだ
この条規が無ければ、数刻の内に死人が出よう
そんな事を考える間に、この逸遊の様な戦が幕を開けた
「半蔵は幸村、小太郎は兼続を頼む、私は三成を追う」
そう言って各々が標的を追い離散し数刻経った
紐を奪われた時点でその者は離脱となり、ねね達の居る拠点へ向かう事になっている
もしかすると既にどちらかだけでも戻っているかも知れない
木々に身を潜めそんな事を思案していたが、ふと木元の茂みが揺れる
微かなそれに気付きは苦無を構えた
傷付けるつもりは無いが相手は腐っても武士、柄で鳩尾でも狙わねば紐も取れんと考えたからだ
茂みから人影が現れた瞬間
素早く人影目掛け飛び降り組み敷き、一点を目掛け苦無を振り下ろそうとする
と、目の前基下敷きになった相手には思わず瞬きをする
「はん、ぞ…?」
痛みにか、僅か表情歪め下敷きになる半蔵の姿に間抜けな声を出す
確かに自分が追ってきたのは三成だったはずだ
何処かで逃げられたのだろうか
そこまで考えて、自分が半蔵の上に居た事を思い出す
慌てて飛び退こうとするも、くいと引き戻される様な感覚に再び身体が密着する
見れば帯留めの紐が半蔵の肩元にある鎖に絡まっていた
「すまない、少し待って…」
相手の胸元に跨ったまま急ぎ絡まり合うそれを解きに掛かる
そんなに、半蔵は大人しく待とうとするも何処か落ち着かない
胸当て越しにある相手の腿、腕を動かす度柔らかげに揺れる双の膨らみ、
集中しているからか少し開かれた唇は僅かに濡れて…
半蔵ははっと視線を逸らす、と
眼を向けた先、茂みの向こうに己が標的を捉えた
しかし己が上では未だ絡まったそれを解けずが苦戦している
(捨て置く訳には…いかぬ)
そう自身へ言い聞かせれば半蔵は身体を起こす
上に乗ったままだったは突然のそれに後ろに倒れそうになり、
続き強く引き寄せられ抗う術も無く半蔵に担がれ
驚きと微か羞恥に思わず声を上げる
「な、ななっ…何をする!?」
その問いに半蔵は黙ったまま指を指す、その先には幸村の姿があった
それを確認すれば半蔵は走り出す
無論、を肩に担いだままに
素早く接近しつつ空いた左手に鎖鎌を持ち、音も無く幸村の背後を取る
鎌の柄を頭部に向け振り翳すも、幸村は既の所で振り返り槍でそれを払い除けた
その視界に担がれたが入り一瞬眼を見開くも、ぎゅっと槍を構え直す
何故が半蔵に担がれているのだろう
ふと疑問に思うも、次の瞬間全ての思考が停止した
ひらり、と
一陣強い風が吹きの腰布が舞う
が小さく悲鳴を上げると同時、幸村はどさりと地に伏した
「油断、大敵…」
ぽつりと半蔵が呟く
下を見れば顔を真っ赤に染め、どこか至福の表情で幸村が倒れている
眉間に皺を寄せは溜息を吐いた
そんな相手を余所に半蔵は幸村の腕に巻かれた紐を取る
残るは兼続と三成
小太郎の事、恐らくは既に片付けているだろうが
ちらと空を見上げれば陽は傾き始めている、無駄な時間を費やす程暇は無いようだ
半蔵はを横抱きにし、再び足を進めた
08.8.29
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