きらきらと星屑の様に煌く城下
賑やかな夜の其処は普段とはまた違った賑わいで、
不思議に思いねねに問うた去年の事を思い出す
その時は戦が近かった為に行けなかった其れ
惚ける様に見つめるは、後ろに立つ気配に顔だけ振り返った










「お祭り、行っていらっしゃい?」

振り返った其処にはにこにこと微笑むねねの姿が在った
今年最後の祭りだと言う其れは大層盛大な物で、
普段盛り場である其の場所が祭場となっているらしい
ねねからの薦めには嬉しく思うと同時、何処か寂しげな表情をした

「友達が、居りませぬ故…」

お祭りは友と行くものだ、そう聞かされていたは困った様に笑い頬を掻いて見せた
しかし見る見る打ちにしゅんとなり、仕舞いには黙り込んでしまう
其の様が愛らしく、ねねは思わずを抱き締める
ふわりと鼻を掠めて行く香り
久方振りにこうして身を寄せた、そんな事をは思っていた
乱世が終わり戦が無くなってからも諜報等の任務は果てる事が無かった
故に、以前は戦に勝利すれば後の休暇にこうして甘える事も出来ていたが、
今はその任務の量に傍に居られる時間すら少なくなっていた
本当はねねと行きたい、ねねや秀吉達と一緒に祭りを見て廻りたい
叶わぬと解って居るからこそ、余計に寂しさが胸を刺す

「いるじゃないの、お友達!」

不意に身体が離れぱんと手を鳴らすねねに、はきょとんと首を捻る
そんなを余所にねねはああでもないこうでもないと思案している
そして一度大きく頷けば相手の手を取り足早に自室へと連れ走った
は只されるが儘事の成り行きを見守るしか無かった
ねねの部屋へと入ればついと、漆黒に咲く淡い桃色の桜が描かれた浴衣が取り出される
其の美しさに見惚れる間もねねは用意を進め、続け白い帯が出された
光に照らせば薄らと細かな模様が施され、ずっと見ていても飽きぬ程の出来だった
聞けば昔、ねねが着ていた浴衣だと言う
流石に秀吉の妻となってからは着る事も無く、
またそうした場には出られない為、ずっとこうして仕舞われていたのだそうだ

「あたしはもう使わないからね、此れはにあげるよっ」

だから着付けて置いてね、と
其れだけ残せばねねは有無を言わさず部屋を後にした
暫し呆然としていたが、敬愛するねねの折角の好意を無駄に出来る筈も無く
袖を通すだけなら、等と自身を納得させ浴衣に手を伸ばす
肌触りの良さに思わず溜息が漏れた
愛用している装束以外を着る事が滅多にないは僅かむず痒く感じ、
けれど己にとって物珍しい其れを纏えば、まるで何処の姫君になったかの様で
似合わないなと、自身で否定すればふっと笑いが溢れ出す
着付けはあまり得意では無い、なんせ普段は袷等着ず独特の其れを着ているからだ
だが帯の結びにだけは自信があった
此処へ来てからずっとねねに仕込まれてきた、何でも女の嗜みらしい
純白の帯をしだれ桜に結び終え、は数人の気配を感じ襖を見やる
ねねが声を掛け襖がからりと開く、と
其処に居た人物には思わず眼を丸くした

「さ、皆でお祭りにいってらっしゃい!」

驚くを知ってか知らずか、ねねはいつもの様に満面の笑みで相手の背を押した
斯くして祭りへと行く事になった達だった、が










「何故、其方達なんだ…?」



別に不満な訳では無い
ただ何故この面子を選んだのか、は今一理解に苦しんでいた
己の隣には深い翠色の浴衣を纏い長めの髪を一束に纏めた男、
その反対には白に紅い金魚の浮かぶ可愛らしい浴衣を纏う女、
そして背後には薄墨色の浴衣を纏いにやりと笑う巨躯の男
は此の半蔵、くのいち、小太郎達と祭りへ追い立てられたのだった
と、先の言葉が聞こえたのだろう、くのいちがむぅと頬を膨らませに抱きついて来る

「あたしじゃあ不満〜?」

からかう様に言う相手にはふるふると首を振り、やんわりと微笑を作る
実際不満どころか申し訳なく思っているのだが
くのいちも勿論だが、半蔵と小太郎には先の戦(と言う名の喧嘩)で世話になっている
申し訳なさそうに二人に視線をやるも、二人は大して気にした様子も無く
何か言おうと口を開き掛けるも、腕にしがみ付くくのいちからの歓声に思わず其方に視線をやる
眼の前には幾つもの出店が並び、頭上には提灯が連なっている
生まれて此の方一度も祭りに来た事が無いは眼を輝かせ辺りを見渡した

「綺麗…」

ぽつりと呟き漏らすに、くのいちはにっと笑い一つの出店に駆け寄った
三人は大人しく其れに付いて行く
ちらりと、数人が囲む其処を覗き込めば赤や黒の金魚が優雅に泳いでいる
半紙の張られた其れを差し出されたがは首を横に振る
不思議そうに己を見る三人を余所に、はただじっと興味深そうに其れを覗いていた

「にゃは、んじゃあたしがに取ったげる♪」

意気揚々と金魚を掬いに掛かるも束の間、あっと言う間に半紙は破れてしまう
ありゃりゃと頭を掻く相手が可笑しく思わず笑いを零す、と
己の隣を見れば挑発された半蔵と挑発した本人の小太郎、男二人で勝負を始めた所だった
二人はすいすいと金魚を掬い上げて行き最後の一匹を掬った方が勝ちと言う時、
身長のせいか半蔵より長い腕を伸ばし、遠くに逃げた金魚を素早く小太郎が掬い上げた
にやりと、嘲笑する小太郎に眉間に皺を作る半蔵
そんな二人を余所に、
金魚の居なくなった其処を唖然と見つめる店の人間へは深く頭を下げたのだった





「あんなに取ったのに、一匹しかいらないのん?」

横を歩くくのいちが上体を折り、屈む様に此方を覗き込む
結局あの後、小太郎と半蔵に頼み乱獲した金魚を一匹だけ残し店へと返した
第一あんなに居ても飼えないだろう、と
笑いを堪えたままには言い、小太郎に貰った金魚を持ち上げ見つめる
小さな袋へと入れられた金魚は少し息苦しそうに忙しなく泳ぎ回る
早く大きな鉢に移してやりたい等と考えて居ると、不意に半蔵に肩を抱かれた
ビクリと身体が揺れ、触れる温もりに体温を上昇していくのを感じる
周りを見ていなかった為前から来た人にぶつかりそうになったらしい、
視線を上げれば半蔵の凛とした眼差しと眼が合う
が口を開きかけると同時、再びぎゅうっとくのいちが抱き付いて来た

「んね、次はあれやろ〜♪」

指差す先には景品であろう様々な物が並べら、客は其れを銃で打ち落としている
店の前には大きな字で“射的屋”と書かれていた
くのいちに腕を引かれが近寄るとある物が目に付く
南蛮から持ち込まれたらしい、動物を模った縫い包みが幾つも置かれていた
其の内の一つ、愛らしい熊の其れをじっと見つめていると、半蔵が黙って隣に立つ
どうやら既に清算した様で、仕切り台に上体を付け銃を構える
充分に狙いを定め銃を撃つ
が、其れは横からの弾により妨害され、相打ちとなった二つの弾はころりと地に落ちた

「にゃはは!半蔵やられちゃったねん♪」

指を指して笑うくのいちの隣、何時もの薄笑いを浮かべた小太郎が此方を見た
どうも小太郎と半蔵は仲が良くないらしい
暢気に思うも、ふと半蔵が狙っていた物に気付き思わず頬を紅く染める
銃口の先に在るは先程が見ていた縫い包み
先の金魚掬いでは小太郎に負けた為今度こそはと半蔵は射的に挑んだのだ
暫しの格闘の後、遂に半蔵は勝利を収める
ふかふかとした少し大きめの其れを手渡され、は嬉しげに笑み顔を埋めた
気持ち良い肌触りにうっとりする
そんなを見れば半蔵もまた、嬉しさに僅か破顔した





「あら、其処に居るのは若しや…」



後ろから聞こえた声にはびくりと肩を震わせる
振り返れば其処には、自身達と同じ様に浴衣に身を包む稲姫と其の父、忠勝の姿が在った
此方に近づいて来る二人に駆け寄ろうとするもふと、ねねの言葉を思い出す
仮にも忍、余り知った顔に逢わぬ様にと言われて居たのだ
直ぐ近くまで来た二人には慌てて軸を返し、既に逃げる姿勢の三人に駆け寄った
兎に角今は稲姫達を撒く為散り散りになろう
と、一つの手がの手首を掴み人混みに向かい走り出した

ちらと己を掴む手を見やる、其れは…





大きく少し筋張った手

同じ位の小さな手

異色の大きな手