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「必要な物は揃ったか?」
「ん、テーブルも食器も買ったし…」
「の部屋の家具も新調したし、こんなもんか?」
昼下がりのショッピングモールを赤、青、そして黒のコートが仲良く並び歩いていた
事の始まりは昨夜の双子の『が住み込む為の買い出し』宣言
元々あの事務所兼住居にはダンテが揃えた物しか無く、
無論ダンテの性格上色々な面で適当なので家具や食器も見事な程適当に揃えられた物だった
バージルと共に住みだした時、初めはバージルが其れを咎めたらしいが、
ダンテの『面倒くさい』の一言で以来突っ込む人間が居なくなったと言う
確かに男二人---しかも折りの合わない二人---が揃いの食器で仲良く食事をする光景等想像出来ず、
が此処に住むからと言う理由だけで買い揃える事になったらしい
(まさか今更、前住んでいた屋敷を修理して住もうとしてるなんて言えないよね…)
昨日、『Devil May Cry』へと戻る前、は彼の屋敷に住を置いていた
無論未だ半壊状態の其処は今修理作業の途中で、被害を免れた一室で生活をしていたのだが
己の無事とあの日の礼を言いに来ただけだったのだが、双子とレディの熱い歓迎につい長居を許してしまった
否、それどころかまた此処に落ち着こうとしているの自分が居る
ちらりと両脇を歩く双子へ交互に視線をやる
バージルは何時も通りの無表情で、ダンテは見るからに嬉しそうな、楽しそうな表情をしている
今暫くは此の儘で…
何時の間にか甘くなった、自分にも、他人にも
そんな事を思いつつ不意に腕を掴まれはついと右を向く
其処にはにっと口端を吊り上げ笑うダンテの姿が在った
「んじゃ、最後はの服だな」
「服?」
「そー、お洋服」
そんないかにも『デビルハンターしてます』って服じゃ可愛げ無いぜ、と
肩を竦め言うダンテの言葉にはまじまじと己の姿を眺める
白い肩が露出したトップスに黒のアシンメトリーなボトムスは右側だけ極端に短く、
腿まであるニーソックスが白い肌を覆っている
程良い高さのヒールがお気に入りのロングブーツは品の良いダークブラウンで、
羽織った漆黒のロングコートは動きに合わせゆらりと揺れた
ダンテの言う通り、女らしさより動き易さを重視した其れは可愛げは殆んど無い
自身、可愛らしさや女らしさ等必要無いと考えて居るのだが
「残念ながらデビルハンターを辞めるつもりは無いからね」
「けど前みたくしょっちゅう出掛ける訳でもないだろ?」
今朝方此の事でダンテ達と軽く口論を交わしていた
デビルハンターとして生きて行く事を良く思わないダンテとバージル、
一方其れを誇りと思い此れからもデビルハンターとして生きて行くつもりの
結局互いが譲歩し合い双子が捌き切れなかった分の仕事のみに任せる事となった
元々の馴染みの客が持って来た仕事も双子が請け負う事となった為、
少なくとも月に数回はに仕事が回ってくる事となる
「本当なら綺麗さっぱり足を洗って欲しいんだけどな」
拗ねた様に口先尖らせ呟きつつダンテはの手を握った儘とある店へと足を向けた
中へと踏み込めば色とりどりの様々な洋服がずらりとならんでおり、
直ぐに其処が女性向けの洋服店と理解出来た
しかも唯の店では無く、どうやらそれなりに有名なブランド店で、
達の姿を見るなり店員らしき女性がにこにこと営業スマイルを振り撒き近寄って来た
慌ててダンテの腕を逃れ出口へ向かおうとするも、
其処には後ろからついて来ていたバージルがしっかりと行く手を阻んでおり
逃げる事も断る事も出来ないらしいと、は深く溜息を吐きつつ店員に連れられ奥へと消えて行った
が姿を消してから一時間程経った頃
ようやっと二人の元に帰って来たは見るからに疲れ果てて居た
慣れぬ服選びと店員の其の積極的な接客に押されたのだろう
後ろから現れた店員の手には選び抜かれたであろう服が数着乗せられて居た
僅かふらつくをダンテが支える間にバージルが会計を済ませ、漸く三人は店を後にした
「少し休んでも良いかな…?」
店を出て暫くした後、
躊躇いがちなの其の言葉により三人はショッピングモールの端に在る喫茶店へと来て居た
予定では服を買い終え真っ直ぐに事務所へと戻るつもりだったのだが、
思いの外に負担が掛かった様でダンテもバージルも一言返事に休憩を選んだのだ
「しっかし、悪魔と戦うより疲れるって…」
「仕方無いでしょ、人には余り慣れてないんだから」
むっと口先尖らせながらがコーヒーを啜れば隣に座るバージルもまた同じくコーヒーへと手を伸ばす
一方向かいに一人座るダンテ---バージルとのじゃんけんに負けた為此の席になった---は、
一人甘ったるい匂いを放つストロベリーサンデーを次々と口へ運んでいる
夕食前だと諌めたのだが言う事を聞く筈も無く
は小さく溜息を漏らしつつも其の至福の表情を見れば此方の頬迄緩んでしまい、
そんな己に気付いたバージルが眉根を寄せ大きく吐息を吐くのをは楽しげに見詰めていた
やっとの思いで事務所へ帰った三人は荷物を玄関先に置き盛大に溜息を吐いた
ダンテに至っては誰より先に中へと入りぐったりとソファーへ身体を横たえている
そんな弟を軽く睨みつつバージルは投げ出された荷物を中へと運び込みふと時計を見る
既に時計は9時を指し、キッチンへと荷物を運ぶへ視線をやれば流石に夕食は作れないと察し、
僅か不服ながらも仕方無しと受話器を手に取った
一方は一人黙々と買って来た荷物---主に食品類---を片付けて居た
これからは己が家事全般をするという事もありつい買い過ぎてしまったのだ
(ダンテに散々買い過ぎだの何だの言いつつ、結局バージルもカートに入れてたな…)
先程の買い物の光景を思い返せばふと笑みが零れる
あれやこれやと好き放題に物を放り込んで行くダンテと其れを咎めながらも己もまた物を入れるバージル
そんな二人が何処か可愛らしく見えた己は少し…否、大分末期かも知れない
くっと喉奥で笑って居ると不意に後ろから抱き締められ顔だけ其方を見やると不機嫌そうな顔が在り
「何ニヤついてんだ?」
「さぁね…?」
何時までもソファーでだらけているところをバージルに睨まれ慌てて逃げて来たらしい
気だるそうに凭れ掛かって来るダンテを軽くあしらいながらが物を仕舞ったのと同時、
隣の部屋から聞こえる声にふと二人は顔を上げた
バージルともう一人、男の話声に混じり香ばしい匂いが鼻を掠める
片付いたキッチンから出れば其処には大きなピザボックスを3枚持ったバージルが居て
あんたがピザ取るなんて珍しいなとダンテがからかえばバージルは唯黙ったまま溜息を吐いて見せた
「疲れきったに夕食を作らせる訳にはいかないからな」
言いながら昨夜と同じく、ビリヤードテーブルの上にピザを置き三人バラバラの椅子に腰掛ける
疲労した身体には此の程度の食事で充分だと、
ダンテがまだ冷え切らないトマトジュースを三本出して来て三人は温かいピザへと手を伸ばす
其の日の夕食は早々に終りを迎えた
明日には今日買ったテーブルが届く、そう思うと何処か此の即席のテーブルにも未練を感じた
本当なら食事の後、が買った服を広げてファッションショーでもしてもらおうと思ったのだが
当の本人は心底疲れたのか後片付けも早々に部屋へと下がってしまった為、
ダンテとバージルは事務所一階のソファーで向かい合い---だが顔は合わせずに---黙りこくって居た
何をするでも無く黙々と時だけが過ぎて行く
「……はぁ」
沈黙を破ったのはバージルの今日何度目かの深い溜息だった
そして黙った儘徐に立ち上がったかと思えば静かに階段を上がり出す
そんな相手にダンテもまた勢い良く立ち上がり其の後を追った
「ついて来るな」
「あんたについてってる訳じゃねぇ」
「お前が来ると厄介になる、部屋へ行ってろ」
「ヤだね」
小声で言い争う二人はあっと言う間に目的の場所迄辿り着き睨み合った儘暫し沈黙した
二人の目の前には一つのドアが有り、中から微かながら人の気配がする
酷く、酷く、弱々しい
互いにいがみ合って居たが埒が明かないと感じたのか、バージルはふんと鼻を鳴らし眼の前の扉に向き直った
静かなノックが響き、少し置いてどうぞ、と短い返事が返って来た
キィ、と
僅か軋む音を鳴らしドアを開ければ特別広くも狭くも無い部屋の中、独り窓枠に腰掛けるの姿が在った
虚ろげな眼差しでドアへは視線も向けずに唯じっと外を見据える其の姿に二人は躊躇いがちに部屋へと入る
微かに香る独特の香りが鼻を掠める、彼女だけが持つ甘く切なげな其の香り
近付く事が酷く躊躇われ二人はの腰掛ける窓から少し離れた場所で同時に歩みを止めた
「…どうかしたのか?」
「どうかしたかって…大丈夫か、」
昼間とは打って変わって低く地を這う様な声の相手にダンテが眉根を寄せ問う
が、は依然として顔を向ける事も無くひたすらに外を見詰め続ける
ギリリと奥歯を噛む音が響き、とうとうダンテが痺れを切らし詰め寄った
「どうしたんだよ…何でそんなに、」
辛そうな顔するんだよ、と
ダンテの言葉は声にならず喉奥へと呑みこまれた
無表情の儘に、大きな其の瞳からは涙が溢れ音も無く頬を濡らす
突然の其れにダンテは目の前に居るにも関わらずどうすれば良いか解らず狼狽える事しか出来ず
くたりと倒れる様に傾く華奢な身体に慌て手を伸ばせば冷え切った肩が触れ、
月光に白く浮かぶ其の肌にダンテはぎょっと眼を見開いた
「、お前…」
「私が愛する度に、お前は…傷ついていたと言うのに…」
零れる涙と其の言葉だけが唯々部屋に木霊する
ふと、胸元に視線をやればあの日と同じロザリオが冷たく輝いていて
其の持ち主の白い悪魔を思い出せば、
嗚、此の小さな少女は独り、逃れられない大きな闇と戦って居るのかと
余りに愛しく、余りに哀れな、此の温もりが唯切なくて
「私は何度、お前を殺したと言うんだ…!」
嗚咽混じりに声を荒げるを、ダンテは黙った儘抱き締めるしか出来ず
コツコツと音を立てバージルが二人に近寄れば、ダンテに凭れ掛かるの頬へと手を伸ばした
筋張った其の手で何度も何度も流れる涙を拭う
時折が何か呟くも二人は声を出す事は無かった
否、例え出そうとも其の言葉は今のには届かないと知って居た
暫しの間声を殺し泣いた後、ダンテによってはベッドへと身を沈めた
先程より幾分自我を取り戻したのか気まずそうに口元までシーツを上げて二人の顔を見上げる
「落ち着いたか?」
「…少し…」
「突然泣き出すなよな、心配したぜ…」
言いながらも穏やかな表情のダンテに小さく謝罪すれば何時もの笑顔が返って来て
冷たかった肌も今はほんのりと温もりを取り戻していた
きゅうと、繋がれる両手に自然と笑みが零れて
「お前が眠るまでこうしている」
右手を繋ぐバージルは何時もの表情で、
其れで居て酷く酷く優しい声色で
「明日起きたら一番の笑顔見せてくれよ?」
左手を繋ぐダンテはニカッと笑い、
どんな不安も吹き飛ばすような明るい声色で
「…ありがとう…」
今の私に出来るのは、心からの感謝を伝える事だけで
其れなのに二人は、其の言葉を一番に望むかの様に微笑んでくれて
其の夜、は初めて彼女の夢を見なかった
胸元に光るロザリオは、唯々優しげに輝いていた
09.5.10
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