母と離れてから数ヶ月、此処奥州は小さな戦は有れど至って平和な日々が続いており、
晴れ渡る空の下は己の腹心であるに刀の稽古を付けて貰って居た
幼き頃より武芸に励んでいた政宗とは違い周りからは愛でられはそれは大切に育てられた
故に政宗に仕える様になりやっとまともな稽古を付け始めたのだ
初めは刀に振り回されて居たがやはり竜の血筋、今ではと対等に遣り合っている
一段落すると僅か息の上がったが休憩を促した
朝餉後から昼過ぎ迄待った無しで続けて居たのだ、いくら腕の立つ武将でも疲れが出る
二人が縁側に座れば女中が茶を運び手拭いを渡してくれた
其れに礼を言い、額の汗を拭いながらは隣に座るへと視線を向ける

、此の後も稽古を、」
「申し訳ありませんがは執務が有ります故」

ぴしゃりと切り捨てられはしゅんと肩を落とす
にも勿論の事ながら仕事はある、
だが優秀たる此の人は至極短い時間で容易に熟してしまう訳で
粗一日中暇を持て余す毎日が続いているのだ
ずずっと茶を啜る相手へ視線だけやり、がゆっくりと口を開く

「他の方に頼まれては如何ですか?」

先日迄は力の差も有り、無闇矢鱈と相手をさせる事は出来ずに居た、が
今のは政宗程行かずとも充分な腕を持っている
実際既に周りの兵達では歯が立たずとてもじゃないが稽古を“付けて貰う”とは言えない
むぅと頬を膨らませるにくすりと笑いを漏らせば人差し指を立て提案する
伊達成実や鬼庭綱元、片倉小十郎の名を上げるも誰一人にも首を縦には振らなかった
否、振れなかった
成実は以前手合わせした時に傷を負わせてしまい政宗に禁止令を下され、
綱元は何度か稽古を付けて貰ったが成実との事があってから手加減され、
小十郎に至っては政宗の弟に己が等恐れ多いと刀すら握ってくれなかった

「成実殿や綱元殿は兎も角、小十郎殿には随分に嫌われている様だ」

ふっと笑みを作るも其の声色は切なさを含んでおり
何か言わねばと思案するを余所に、湯呑を置けばはすっくと立ち上る
声を掛けようとするに振り返り「やる事を思い出した」と残し其の場を後にした





己の自室、は葛籠の中に仕舞われた一冊の本を取り出し書机に向って座る
ゆるりと其れを開くと挟まれた栞がひらと机上に落ちた
読み始めるのは以前兄から貰った異国語の本
彼の毒殺未遂の時へ燃やす様にと告げた其の物で
実際手放す気等欠片も無く、己の策を隠す為に言い合わせて置いたのだ
ぺらりと、捲った其の頁に思わず手が止まる
どの異国語にも大抵兄の字で訳が書かれているのだが其れだけは違った
文字は相変わらず蚯蚓が這った様な物だが其の下に書かれた訳が塗り潰されている
は瞳を細め、僅か本を傾け其れを見詰める、と

「Hey! 、良い知らせ持ってきたぜ!」
「兄上、政務は終わらせたのですか?」
「Oh... 最近顔を合わせりゃ其ればっかだな…」

何時も仕事を置いて遊びに来る兄に溜息を漏らし、持っていた本を机に置く
こうして来てくれるのは嬉しい、嬉しいが己の所為で仕事が滞るのは其れ以上に嫌なのだ
そんな相手を心配も余所に部屋へと入れば政宗はどっかりとの前に座る
もまた相手に向かい合えば政宗の表情が真剣なものになった

「お前の初陣が決まった」

来る今川との戦にてを出陣させる事が決まったと言う、
政宗の話を静かに聞きながらもは胸中不安で押し潰されそうになっていた
刀を握る事にはもう慣れたし其処等の者よりも腕が立つ
だが一度たりとも此の手で人を斬った事が無かった
己の手で人の命を奪う事がどれだけ重く辛い事なのか、は憶測でしか知らない
無意識の内に膝に置いた手を力の限り握り締める
そんなに気付き、政宗がそっと其の手に己の手を重ねた

「Do not worry. 何があっても俺が護ってやる」(案ずるな)

ニッと、何時もの悪戯な笑みで言う兄は男の己から見ても雄々しく映り、
こくりと頷けば大きな手が優しく頭を撫でてくれた















「独眼竜だ!!」
「討ち取って手柄にしろ…!」
「伊達政宗、覚悟!」

声を荒げ数人の男が政宗を囲むと勢い良く刀を振り翳す
政宗はひらりと其れを躱し腰に差した刀を一本抜き敏捷な動きで敵を斬り伏せる
其の覇気に周りで様子を見て居た敵兵達が一瞬怯む、と
好機とばかりに少し離れた場所に居た小十郎が地を蹴り、一気に政宗の周りの兵達を地に沈めた

「政宗様、御怪我は御座いませぬか!?」
「Of course. 小十郎こそへばってんじゃねーぞ!」(当たり前だ)

ふんと鼻で笑いながら再び手にした獲物を握り直し敵陣に突っ込んで行く
そんな主に顔を顰めつつ小十郎もまた其れを追った
ふと、
城の手前、城門前に来ると辺りの雰囲気が変わり空気がやけに冷たい
小十郎が刀に手を伸ばした其の時、背後の茂みより一人の男が姿を現す
ひょろりとした細身に銀髪がさらさらと靡く其の様はまるで架空の禽獣の様で
此方に向い歩み寄る男に小十郎は政宗を守る様に前に立つ

「明智光秀…何故此処にテメェが居る」

抜刀せぬまま構える小十郎に男---光秀はくつくつと笑う
大鎌の切っ先を此方に向けにやりと口許を歪める、其れは政宗とは違う狂気に満ちた笑み
背筋が凍るのを感じ政宗はぎゅっと己の手を握り締めた
眼の前に立つ小十郎の背を見詰め一度瞳を伏せる、
思い浮かべるのは今は離れた場所に居る彼の人の事だけで
覚悟を決めた様に隻眼を見開けば小十郎の肩を引き代わりに己が光秀の前に歩み出た
後ろで小十郎が何か言うも耳には届かず、腰を落とし手に握る刀を構える

「小十郎、お前はあいつの処に行け」
「なっ!?…しかし其れではっ」
「Ah? 俺の命が聞けねぇってのか?」

ギロリと左の眼で睨めば小十郎はぐっと口を噤む
そしてさっさと行けと言わんばかりに片手を振れば一つ頭を下げ足早に城内へと走り出した
再び前に居る光秀を見やれば先と変わらぬ笑みを浮かべ此方を見て居る
何故此処に居るのか
小十郎の問いにも口を開かなかったのだ、今一度聞いたとて無駄な事だろう
ふーっと息を吐き出して己もまた口許に笑みを浮かべる
光秀が鎌を構えるのを確認し強く地面を蹴り上げた

「Come on! 派手に楽しもうぜ!!」








どさりと倒れる今川義元を見下ろし小さく息を漏らす
散々逃げ回った挙句呆気無く打ち取られた相手に僅か哀れみさえ感じた
ふと、壊れた壁から外を見やる
空は鉛色の雲が覆い今にも雨が降り出しそうで、急ぎ其の場を後にしようと
開け放たれた襖に近寄った其の時、一人の男が勢い良く飛び出して来た

「ま、政宗様!大変です!」
「Ah? どうした小十郎」

血相を変えた相手の様子に政宗は顔を顰める、嫌な予感が頭を過った
と、傍に居たが駆け寄り小十郎に詰め寄る
ぐいと胸倉を掴み鋭くもあり動揺を隠しもしない眼差しで相手を睨みつける

「小十郎殿…様はどうした、どうして貴方一人が此処に在る!」

取り乱した様に声を上げ相手を責めるの肩を政宗が掴み後ろに引いた
態勢を崩しよろけるを其の儘に政宗は小十郎へと視線をやる、
血の気の引いた小十郎の顔を見れば何かあった事は明らかで
己と同じ格好をさせ出陣させた弟の姿を思い返す
自分が下で敵を食い止めると言う其の笑顔にじんと目頭が熱くなり、
策の為とは言え無理にでも止めれば良かったと今更に後悔が襲う
そんな主を余所にゆっくりと、だが至極切羽詰まった様子で小十郎は先程迄の出来事を話した

「何で明智が…しかも単身で此処にいるだと?」
「解りませんが、此の事を伝える為にと様があの場に残られて…っ」

囮になったと、言い掛けた言葉は続く事無く止められた
目の前に居る政宗からは身が切れる程の憤怒が滲み出て居り
手に握る血濡れの刀をひゅんと振り鞘に納めれば再び元来た路へと足を向けた
後ろに居る二人に顔だけ向け「行くぞ」と告げ走り出した
今日が初陣と言う男が明智光秀と干戈を交える等自殺行為も甚だしい
ぎりりと奥歯を噛み締め半ば転げ落ちる様に城を下る

「間に合ってくれ…っ」

消え入りそうな声で小さく呟く其れは自身の足音に消され、
最下へ下りれば壊れかけた城門から外へと飛び出した
辺りは雲に光を遮られまるで宵闇の様に真っ暗で、夜目の利かない政宗は眼を細め周りを窺う
ふと、此方に気付いた一人がニッと口許を緩めるのが微かに見て取れた





「遅かったですねぇ、“伊達政宗”さん?」



笑みを向ける光秀の手には鎌が握られていて、其の切っ先には鮮血が滴っていて
光秀の足元には己と瓜二つの男が倒れていて-----
カッと頭に血が上るのを感じ政宗は腰に差した六本の刀を引き抜いた
刃同士が擦れ鋭い音が鳴り、構えると同時光秀に向かい走り出す
見る見る内に近付いて来る政宗にふんと鼻で笑い、光秀は鎌を高く振り翳す
政宗が下段の構えから刀を振り上げるより早く光秀の鎌が振り下ろされる
間一髪の処で躱すも鎌の柄が顔を直撃し其の儘後ろに吹き飛ばされ、
地面へと背を打てばぐっ、と呻き声が零れ
よろけながら再び刀を構えるも光秀は既に背を向け歩き出していた

「てめっ…待ちやがれ!!」
「貴方には用はありませんよ、彼を美味しく頂きましたからね?」

言いながら肩越しに顔だけ此方を向きニタリと顔を歪め、手に持つ何かをぬろりと舐めて見せた
相手の手に在る其れが何なのか、翳ってはいるが政宗にははっきりと解り
後を追い斬り掛かろうとする政宗を小十郎が抑えれば光秀はゆらりと其の場から去った
侮辱する様な相手にも腕を掴まれて居る故動く事は出来ず、政宗は切れる程強く唇を噛み締める
そしてはっと我に返り横たわった儘動かないへと駆け寄った
傍に膝を付きそっと背を支え上体を起こしてやると僅かにだが眉を顰めるのが見えた

「っ…小十郎、水持って来い!は馬を掻き集めろ!」

駈け出す二人を見送り再び相手へと視線をやる
の顔は左半分が血に濡れ真っ赤に染まっており
身体へ視線をやるも大きな傷は見当たらない、恐らく一撃でやられたのだろう
そしてついと、露になっている左眼に視線を向ける
其処には在るべき物が無く、虚空の中心から唯ひたすらに血が溢れ出していた
ぐらりと視界が揺らぐ、思考が停止したかの様に何も頭に浮かばない
微かの手が動くのに気付きぎゅっと其の手を握る

「…ぁ…に、うえ……」

掠れた声で兄を呼べば己の手を包む其れがふるりと震えた
遠退いて行く意識を必死に繋ぎ止め空いた方の手で眼帯をずらす
視界が開け、僅か狭まった目の前には今にも泣き出しそうな、弱々しい兄の姿が在った
兄のそんな姿は初めて見た等とぼんやり考えて居れば、
政宗の背後から竹筒を持った小十郎が顔を覗かせた

、少し沁みるかも知れねぇが我慢してくれ」
「……、兄上…」
「何だ?」

小十郎から竹筒を受け取りつつふとへと視線を下ろす、
同じ色の其の眼は己の左眼に映る自身をじっと見詰めている
鏡を見て居る様な不思議な感覚に政宗は唯同じ様に相手を見詰め返した
目の前の自分が笑うのを見ればビクと肩が揺れる、まるで己が幼い頃病に掛かった時と同じだと
其の笑顔は泣きたい気持ちを抑え無理矢理に作ったものだと

は、兄上の御役に…立てたでしょうか…?」

ぽそと呟き漏らせば其れ以上口にせずゆっくりと瞳を伏せた
口許に耳を近付けて見れば確かに息はしている、どうやら気を失ったらしい
否、今まで意識を保って居たのが不思議な位傷は酷いのだ
暫し静かに呼吸繰り返す相手を見た後受け取った水で傷の周りを拭き、
立ち尽くす小十郎と散らばった馬を数頭集めて来たに此の場を任せ政宗はを抱き上げる
其の儘一頭の馬に跨れば強く脇腹を蹴る、鉛色の空は何時の間にか泣き出していた















遠い様で、とても近い場所から子供の泣き声が聞こえる
辺りは真っ暗で、自分がどちらを向いて居るのかも解らない
くいと、己の服を引っ張られ視線を落すと其処には一人の少年が居た
がぽんぽんと頭を撫であやしてやるとゆっくりとだが泣き止んで行き、そろりと己を見上げた
其処に在るのは幼き頃の己自身か、己と瓜二つの兄か---
少年はしっかりと瞳を閉じて居り一向に開こうとはしない
そんな少年の前に膝を付き小さな其の身を抱き締めてやる
余りに華奢で、力を入れれば壊れて仕舞いそうな程繊細で
優しく背を撫でれば小さな手が縋る様に己の背に回された

「嫌わないで…怒らないで…」

嗚、今抱き締めて居るのは兄上なんだと、顔を見ずとも理解した
そしてふと、己の左眼が虚無だと気付きふっと苦笑漏らす、己はなんて弱いのだろうかと
気を失う寸前眼にした兄の切なげ表情を思い出し胸が痛むのを感じた

も左眼を無くしてしまいました…だけど此れで、やっと政宗と同じになれました」
「同じ…?」
「ええ、と政宗は二人で一つです」

にこと笑みを向ければ政宗は恐る恐る瞳を開き表情がぱっと明るくなる
其れと同時、辺りが明るくなり遠くから此処に居る二人とは別の声が聞こえて来て
薄れ行く意識の中再び見た少年は隻眼を歪めにっこりと微笑んで居た

(兄上、は何時だって貴方の味方ですよ…)





っ…」
「…まさむ、ね…?」

薄らと開いた瞳には額に汗を浮かべる兄の顔が映り、己が眼を覚ますと安堵からか身体から力が抜けた
部屋を見渡そうと眼球を動かせば僅か違和感を感じ無意識に眉根を寄せる
そんな己の様子に気付き政宗は申し訳無さそうな顔をし頭を掻いた
己の左眼に包帯の上から触れれば虚空の筈の其処には確かに眼球の感触が在りきょとと首を傾げる
暫く口を噤んでいた政宗は耐え切れぬと深々と頭を下げた

「Sorry... お前が気を失ってる間に俺が勝手に義眼を入れたんだ」
「義眼、ですか?」
「嗚…其の儘で居させるのは、俺が辛い…」

確かに、光秀との一戦で己の左眼を抉られた事は記憶に残っていたし、
未だじくじくとした痛みが顔の右半分を襲っている
そうですかとさして気にした様子も無く返事をするの額に政宗はそっと手の乗せた
冷たい肌の感覚に瞳を細める、僅か熱を持った身体には心地良い

「やっぱり、無理にでも止めときゃ良かった…」

ぽつりと漏らす政宗の言葉には直ぐに何を指す物か解った
彼の戦の時、止める兄や周りの者を圧しては兄と同じ具足を身に付けたのだ
其れはあの策を完遂させる為には無くてはならぬものであり、
また既に動き始めた戦は他の策を練る暇を与えてはくれず
渋々ながらも其の案を了承してしまった己が、政宗は恨めしくて仕方が無かった

「あれはが無理を言ったのが悪いのです」
「No! お前は何も悪くない、俺がしっかりお前の事を…っ」

続く筈の言葉は、上体を起こしたの胸元に抱き寄せられ止められた
ふわりと香る薬独特の何とも言えない香が鼻腔を擽る
暫し呆然とされるが儘になっていた政宗は僅か躊躇いながらもそっと相手の背に手を回した
触れ合う温もりが酷く心地良い、ぼんやりとそんな事を思う
と、何処かほんわりとした雰囲気を打ち壊す様に勢い良く襖が開かれ二人は其方へと顔を向ける

様!眼を覚まされましたか…!!」

大声を上げ眼に涙を溜めるにこくりと頷いてやれば其の場に崩れ落ち、
腕を眼元に押し当てぐっと涙を堪えている
普段冷静なではあるが主の事となると何処かの紅蓮の若武者を思わせると政宗は胸中呟いた
ふと、そんなの後ろに控えめに立つ小十郎に気付きは顔を向ける
ぐっと唇を横に引き視線を逸らされる、赤くなった右の頬に気付けば政宗を見た
眼が合った瞬間小十郎と同じ様に逸らされ、原因は此の人かとは深く溜息を吐く
未だすまなそうに顔を俯かせる小十郎に手招きし己の傍に座る様に促す
口を噤んだ儘の相手に柔らかく笑みを向け、赤く腫れ上がった頬にそろりと手を添えた

「っ……」
「痛かったでしょう、此の様子だと一発二発じゃないですね」
「いえ、此れは…其の…」

政宗が殴った、とは直接口にはしなかったが小十郎のあからさまな反応にくすりと笑いが零れる
見れば目の下に隈が出来ており、何処かやつれた様にも見えた
きっと誰より心配し誰より長く看病してくれたのだろう、此の人はそう言う人だ
触れて居た手で一度優しく頬を撫でてゆっくりと退ける
赤かった頬は更に赤みを増した様に見え、はきょとんと眼を丸めた

「此の小十郎が悪いのです、御傍に残って居ればあの様な事は…!」
「其れ以上言わないで下さい…が駄々を捏ねたのが悪いのです」

そんな顔は見たくないと、眼で訴えれば小十郎は一瞬眉を顰め深々と頭を下げた










「小十郎、此の種は何処に蒔くのですか?」
「嗚、其れは此処の空いた場所に蒔いて下さい」

が左眼を失い半月程経った頃、彼は小十郎の畑の中心に在った
其処には小十郎も居り、二人は談笑を交えながら畑仕事をしている
以前は小十郎がを疎隔して居たが先の一件にて今までの其れが嘘の様に仲睦まじくなった
無論小十郎は言葉遣いを変えないがに対する態度が変わったし、
あれ程嫌だと断っていた稽古も自ら進んで申し出る様になっていた
何よりも、小十郎が己の畑を触らせる人物等政宗位しか居なかったのだ

「片倉殿のあれは罪滅ぼしのつもりなのでしょうか…」

見晴らしの良い縁側の一角から畑に居る二人を眺めつつ、は同じく畑へ視線を向ける政宗に問う
其の声色は低く怒りを含んでおり、原因を察した政宗はふんと鼻で笑った
小十郎がそんな器用な事をしなければまどろっこしい事もしない男だと
言うも納得行かないのかは隠す事無く不機嫌そうな表情をする
互い主思いの良い家臣を持ったと思うと同時、堅苦しくて肩が凝るなとぼやく

「小十郎は本気でに惚れ込んだみてぇだぜ?」
「其れは…しかし…」
「今直ぐとは言わねぇ…けど何時か、小十郎の事も認めてやってくれ…」

僅か哀愁を含みそう言われればは口を噤み黙り込む、其の瞳には若干の不満が残っている
ふと、政宗が直ぐ傍にあるの部屋を覗けば懐かしい本が机上に置かれており、
ぺらぺらと本を捲って行くと黒く塗り潰された単語が眼に入った
ふっと、微笑を浮かべる己に首を傾げたへ肩を竦め背を向ける
ゆっくりと歩き出し後ろを向いた儘政宗はそっと口を開く

「此処に居る奴は皆、familyなんだからよ」





幼少の頃の己にはそんな言葉は似合わないと思っていたと、
遠くから聞こえると小十郎の楽しげな笑い声に己もまた無意識に笑みが零れる
後で塗り潰した儘の其処に書き足してやらねばと
そんな事を考えながら政宗は、風で乱れた髪をさらりと掻き上げた










09.1.17