突然外国へ留学してしまった高校時代の親友・チカ(子安)と7年ぶりに偶然再会し、その親友に当時からの想いを告白される千宗(野島)。当然戸惑いつつも、誠実にその告白を受け止めようとする千宗だったが、なかなか自分の仕事を口にしないチカに疑問を抱く。そしてとうとうチカの<仕事>を知ってしまった千宗は、自分の常識の枠外であるチカを拒絶してしまう。
攻めキャラが男専門の<SMプレイヤー>という設定は、否応なく露骨な主従関係を想像させるわけだが、この作品は決してそういった類の話ではない。ゲイの自分、そしてそれを生業としている自分が相手に理解されないことを承知の上で、せめて友人でありたい、とさえ願うチカの想いはむしろ純愛であり、ひどく健気ですらある。夜な夜な開かれるショーで、多くのスレイブをそのサディスティックな口ぶりで虜にさせるチカと、千宗の前ではあくまでも紳士然とした優しく穏やかな口ぶりのチカ、そのギャップの描写も見事だが、聴いているこちらの方が虜になってしまうほどのフェロモン全開ボイスに、萌えメーターが振り切れる。
チカ様ファンの横恋慕やちょっとした気持ちのすれ違いなど、「雨降って地固まる」を忠実に再現した、ストーリーとしてはとてもシンプルな展開なのだが、そこで初めて生きてくるのが<SMプレイヤー>という設定であり。かといって、そこで鞭だのロウソクだのといった<お約束>を思い描くのは想像力貧困というもの。そういった安易でバカっぽいプロットに走らず、あくまでも<言葉のみ>でメロメロにしていくその手管が何ともたまらない。
しっかり絡んだエロももちろんあるが、それ以上に印象的なのは、何度か用意されているキスシーンの方。チカの仕事柄か、キスの意味合いを深く求めている感があり、むしろそちらの方がよほど官能的と言えた。そして、<キス>に重点を置いた作品で面白くなかった作品は、私の経験から言ってほとんどない。<キス>をいかに色っぽく描いているか、ラブストーリーを評する以上、それが直接ではないにしても、大きなポイントになり得る要素のひとつであることに間違いはないだろう。
フツーのサラリーマンだが、昔からとても誠実で朗らかな人柄の千宗と、その千宗にベタ惚れのチカ。「攻め<受け」という関係が、その巧みな手管によって「受け<攻め」というバランスに変わっていく様も非常に面白い。
そしてやはり、なんと言ってもそのキャスティングが見事だということ。意地っぱりと素直の両面を持ち合わせた千宗を演じるノジケンがさすがだし、どこまでも丁寧語、自分の奴隷たちにすら丁寧語攻めのご主人様な子安氏には、終始、子宮を持っていかれる思いだ。更には、チカの同僚でやはり多くのスレイブを抱える<ご主人様>に一条氏、ゲイの溜まり場であるバーへ初めて千宗を導いた彼の上司に増谷氏、と、脇を固める面々がエロ声・・いや、美声オンリーなのもまたスゴイ。
繰り返すが、ストーリーは至ってシンプル。だが、シンプルだからこそ、設定を生かす精巧なプロットが必要なのであり、そういった意味で、非常に満足度の高い作品だったと思う。作品の満足度は、決してストーリーの良し悪しではなく、エンディングに行き着く過程の描き方であり、この作品に関して言えば、要するに<発想の勝利>といったところだろう。加えて、キャラの魅力とそのキャスティングの妙、そのバランスのよさこそが秀逸である所以なのだろう。
<伝説のSMプレイヤー>などというコピーに騙されず、純粋に<ラブストーリー>として楽しめばよいと思う。案外、ラブラブでほのぼのとした秀作であるはず。お薦めです。
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