モレア海を制する海賊・プレヴェーサの作戦参謀であるカナーレ(鈴木)は盲目の美青年。プレヴェーサの艦隊司令官、アヤース(森川)は、その剛腕から「悪魔殺し」の勇名を各地にとどろかす男・・・・と、人物設定はもちろん、世界設定すべてが架空の丸ごとファンタジー。ゆえに、キャラクターの名前、地名、宗教やそれに付随する組織の名前、と、原作未読の場合はまず、カタカナの多さに閉口するだろう。せめて、ブックレットに簡単な相関図または地図などがあれば親切だったかもしれない。ファンタジーということで、好き嫌いが大きく分かれるところだろうが、魔法を使ったり式神を召還したりする類ではないので、ファンタジーが苦手という人にも受け入れ易いかもしれない。
現在、カナーレがおかれている状況、彼を脅かす何か、それを知る人物との遭遇、それにより明かされる凄惨な過去、と、カナーレの過去を紐解きながら展開していくのだが、さすがファンタジー、大胆なエピソードが盛りだくさんであるにもかかわらず、流れがとても自然。互いに心が通じているわけでもないのに身体を重ねるその過程も、それゆえの心理描写も、簡潔ななりに納得のいくものであり。海戦の様子なども非常に迫真で、CDならではの臨場感を味わうことが出来た。
キャスティングについては、私的にはメインの二人が概ねイメージ通りで、特にカナーレの声は、あまり女性的では台無しであっただろうこともあり、鈴木くんのカナーレは、キャスト発表の際からぴったりだと思っていた。森川氏も、さすがの安定感、と言っては月並みかもしれないが、彼以上にアヤースの声をイメージできる役者は、他にはいないだろう。
しかし今作、最後まで聴いた第一印象を端的に言うならば、可もなく不可もなく、といったところ。作品自体は、エピソードそのものを大きくカットしているというわけではなく、全体的に削ぎ落とした、という印象で、もしかしたら上手くまとまっているのかもしれない。プレヴェーサでのカナーレの微妙な立場、人間関係など、つじつまの合わない部分もなければ、大きな違和感もないだろう。ナレーションがあるだろうことは容易に想像できたし、不自然に感じる部分もない。ただ、ならば面白かったか、と訊かれれば、それほど面白くはなかった。何しろ、メインの二人が、もともと面白みのあるキャラクターではない上に、それをより魅力的に描くべき詳細が、見事に省かれてしまっているからだ。エピソードの流れには忠実、でも細部はカット、という、まさにダイジェスト版な様相。要は、「雰囲気を味わえ」ということか。ファンタジーなだけあって、ドラマティックさには事欠かないが、これだけ駆け足なストーリーを、果たして一つの作品として楽しむことができるのか、原作未読な場合ならば殊更に、正直言って疑問。これだけボリュームのある作品を、一枚にまとめ上げたことは見事だと思うが、満足感はそれほど高いものではなかった。
それにしても、続編が決まっている作品の感想は、本当に難しい。あらかじめ「前編」と謳っているものを、一枚でどう評価したらいいのか。しかし、その後編は2枚組みということもあり、今回の物足りなさを補っても余りある出来であると、信じてはいるけれど。
|