”ドックン・・・ドックン・・・” なん・・・だ? ”ドックン・・・ドックン・・・” この・・・感覚は・・・ ”・・・来る” 来る?何が・・・ ”あの男が・・・奴らの力を得て、ここに来る・・・” あの男?奴ら?? 一体誰の・・・ ゾクッ・・・ うっ・・・ こ、この悪寒は・・・ まさか、あの男って!? ”気をつけろ・・・あの男は、我らに復讐する為に戻ってくる・・・” ま、待ってくれ! 柳川が・・・奴が来るのは俺にも分かる。 だけど、奴らって一体誰の事なんだ? ”・・・我と同種の者供・・・” !? そ、そんな・・・まさ・・・か・・・ ”奴らの怨念は消えることなく、この地に縛られている・・・。だからこそ・・・俺とお前がけりをつけねばならんのだ・・・” ・・・・・ そうだ・・・な。 もし、本当に奴が他のエルクゥの力を手に入れてやってくるのなら・・・ 俺がやるしかない。 俺の手で、前世から続く宿命を断ち切ってやる。 俺は、目覚めゆく意識の中でそう心に誓った・・・ 千鶴:「・・う・いちさん・・・」 いつものように聞こえてくる、千鶴さんの声・・・ そういえば、俺がこの力に目覚めだした頃からだな・・・ 今の生活が始まったのは・・・ 千鶴:「耕一さん・・・朝ご飯ですよ。起きてください」 耕一:「ん・・・ん〜〜〜〜。おはよう、千鶴さん」 千鶴:「おはようございます。朝ご飯の準備はできてますから、着替えたら来てくださいね」 千鶴さんの優しい笑顔・・・ 俺のかけがえの無い物・・・ それが壊されてしまうかもしれない・・・ それだけは、避けなければならないんだ! 耕一:「ねぇ・・・千鶴さん。少しいいかな?」 千鶴:「・・・?どうしたんですか?」 耕一:「・・・実は、夢を見たんだ。いや・・・正確には夢じゃないけど」 千鶴:「夢だけど・・・夢じゃない?」 耕一:「あいつが・・・柳川が戻ってくる」 千鶴:「えっ・・・?」 俺の言葉を聞くと、千鶴さんが眉をひそめた。 そして、次の瞬間には何かを考えているようだった。 千鶴:「耕一さん・・・この事は・・・」 耕一:「うん・・・。皆には話さない。変に不安がらせるのもかわいそうだしね」 千鶴:「・・・とにかく、朝ご飯食べませんか?早くしないと、梓がまた怒りますから・・・」 耕一:「ははは・・・。そうですね」 俺は苦笑いしながら、着替える為に千鶴さんを部屋から出した。 だが、内心は妙な不安でいっぱいだった・・・ 今、俺には力がある・・・ 前みたいに、何もできず、見ているしかなかった時とは違って、皆を守る事ができる。 だけど・・・ だけど、俺の中の”鬼の血”は何かを感じ取っていた。 全身の毛が逆立つような邪悪な気を・・・ 皆を危険な目にあわせるわけにはいかない・・・ 相手が柳川なら、確実に俺を狙ってくる。 だったら、俺が奴をおびき出し、今度こそ仕留める。 誰も危険な目にあわせないために・・・ 俺は着替えを済まし、部屋を出た。 すると、目の前には俺を待っていたように立っている楓ちゃんがいた。 耕一:「やぁ、楓ちゃん。おはよう」 楓:「おはようございます、耕一さん」 耕一:「どうしたの?俺に何か用かい?」 楓:「・・・」 俺がそう言うと、何も言わずにうなずいた。 表情を確認すると、暗く、どこか不安そうな顔をしていた。 楓:「あの・・・また、夢を見たんです」 耕一:「夢・・・?」 楓:「はい・・・。でも、前みたいにあなたの夢を見ているわけじゃないんです・・・。なんと言うのか・・・    もっと、おぞましい・・・何か嫌な感じのする夢でした・・・」 耕一:「・・・」 まいったな・・・ 鬼の力に覚醒しだしてる楓ちゃんなら鬼の気配を感じ取る事くらいできたか・・・ 俺は少し考えた後、俺の見た夢について話した。 楓:「やっぱり・・・」 耕一:「楓ちゃん・・・。できれば、初音ちゃんと梓には黙っててくれないか?不安がらせるのもかわいそうだから」 楓:「・・・はい」 耕一:「ありがとう」 俺は、楓ちゃんの頭を軽くなでると、食卓に向かおうとした。 すると、楓ちゃんは「あっ・・・」と声を漏らした。 耕一:「ん?どうかした?」 楓:「え・・・あ、あの・・・。耕一さんは・・・どうするんですか?」 耕一:「・・・奴を今度こそ殺す。皆を危険な目に合わすわけにはいかないからね。今日の夜・・・奴を迎え撃つ」 楓:「また・・・私は何もできないんですね。私にも、千鶴姉さんのような力があれば・・・」 耕一:「いいんだよ・・・。これは、俺・・・いや、次郎衛門の転生である者がやらなきゃいけないことだから・・・。」 楓:「・・・はい。十分、気をつけてください・・・」 耕一:「ああ・・・」 俺は楓ちゃんを見送ると、食卓に向かった。 そこには案の定、送れてきた俺に向かって、非難のまなざしを向ける梓と、優しい笑顔を向けてくれる初音ちゃんがいた。 梓:「遅い、暇人!!あんたのせいで片付けが遅くなるんだから、さっさと食べてよね!」 耕一:「あ〜・・・分かった分かった・・・。ったく、朝からうるさいな・・・」 梓:「何か言った?」 耕一:「い〜や、別に」 俺はいつも通りに梓と憎まれ口をたたきあった。 そして、それを見ながら苦笑いを浮かべているのは、初音ちゃん・・・ いつも通りの朝・・・ それを守るのが俺の役目なんだ。 梓:「耕一、どうせ暇なら初音を途中まで送っててよ」 初音:「え?べ、別にいいよ。お兄ちゃんに悪いし・・・」 耕一:「いや・・・どうせ暇だし、ついていくよ」 初音:「・・・ホント?」 初音ちゃんが上目遣いで、俺の顔を覗き込む。 俺は、優しく微笑みうなずくと、早速玄関に向かった。 初音:「でも、どうしたんだろ?いつもはあんな事言わないのに」 耕一:「ん?梓の事かい?」 初音:「うん・・・。何かあったのかな・・・」 耕一:「あいつの事だし、きっと占いでいい運勢だったから機嫌がよかったとかそんなんじゃないかな?」 初音:「う〜ん、そうかなぁ〜?」 耕一:「そうそう。あっ、バス停見えてきたよ」 初音:「え?あっ、本当だ。ありがとう、お兄ちゃん」 耕一:「別にいいよ。それじゃ・・・気をつけてね」 初音:「うん。それじゃ、いってきま〜す」 初音ちゃんは、大きく手を振りながらバス停にかけていった。 俺はそれを見送り、家へと戻った。 家に着くと、すでに梓と楓ちゃんの姿は無く、俺は千鶴さんが出勤するまで二人で少し話しをする事にした。 千鶴:「耕一さん・・・。もし、耕一さんの夢が本当だとしたら・・・」 耕一:「うん・・・。きっと、奴は俺を狙ってくる。だから、俺一人で行くよ。周りの皆に迷惑をかけたくないし・・・」 千鶴:「でも・・・!」 耕一:「大丈夫だよ。大丈夫・・・」 そうだ。 俺の命に代えても、皆は守る・・・ だから・・・ 耕一:「俺、今日は皆を迎えに行きますね」 千鶴:「すいません・・・。お願いできますか?」 耕一:「ええ。千鶴さんも、帰る時には電話でも下さいね。迎えに行きますから」 千鶴:「・・・はい」 千鶴さんは、少し頬を赤らめながらうなずくと、玄関に向かって歩いていった。 俺は玄関まで千鶴さんを見送りに行き、玄関を出ようとする千鶴さんに軽くキスをした。 顔を真っ赤にした千鶴さんは、下を向きながら車に向かっていった。 それを見送りながら、俺は最後になるかもしれないキスの感触を確かめていた・・・ (こっから一時的に梓視点) 梓:「帰るの遅くなっちゃったな〜、急がないと夕食の支度が間に合わないよ。」 私は、テスト対策の単語帳を見ながら商店街に寄っていく事にした。 そろそろ私も、進学の為に勉強しなきゃね・・・ そう思いながら足を進めていると、私は妙な気配を感じ取った。 梓:「・・・っ!?この気配・・・」 私が感じ取ったのは、自分達と同じ気配・・・ 鬼の気配を感じとった。 嫌な予感がする・・・ 私は単語帳をかばんにしまうと、走り出した。 梓:「はぁ・・・はぁ・・・」 同種の気配を追いかけているうちに、次第に人通りの少ない道に入っていった。 それは、自分が同種の者におびき出されている・・・ そんな感じすらした。 不意に、私の胸に何かがぶつかる。 ?:「きゃ!」 梓:「おっと!」 聞き覚えの有る声だった。 梓:「初音!?」 初音:「あ、梓お姉ちゃん・・・!?に、逃げて!」 梓:「えっ!?」 初音の言葉と同時に振り返ると、全身に寒気がした。 全身からただならぬ妖気を放ち一人の男が近づいてくる。 柳川:「ほう、俺の気に気づくとはお前も俺と同種族の様だな・・・」 その声を聞いただけで、体は硬直し、耐えがたい恐怖を覚えた。 殺意・・・憎悪・・・ そんな感情が入り乱れている・・・ そんな声だった。 梓:「あ、あんたは・・・!?」 柳川:「くっくっく・・・。そうか・・・お前も次郎衛門の・・・柏木耕一と同じ血を引く者か・・・」 梓:「・・・!?あんた、どうして耕一のことを・・・」 柳川:「どうして・・・?それはなぁ・・・俺は一度奴と戦い敗れている。これは奴に対する復讐だよ!」 そう言うと同時に、柳川は地面を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。 梓:「くっ・・・」 私は初音を抱きかかえ、間一髪でそれを避けると、初音を脇の道に突き飛ばした。 初音:「あ、梓お姉ちゃん!?」 梓:「早く逃げろ!!あいつなら・・・耕一なら、きっとこんな奴倒してくれるから、早く呼んできて!!」 初音:「でも・・・!!」 梓:「早くっ!!」 初音:「・・・駄目!やっぱり、梓お姉ちゃんを置いてなんて行けないよ!」 梓:「ば、馬鹿!そんな事いってる場合じゃ・・・」 柳川:「よそ見をするとは、随分と余裕だな・・・」 梓:「!?しまっ・・・」 迂闊だった・・・ 私が初音の方を見ている間に、奴は私の懐に入ってきて、その腕で私を掴み、壁に投げつけた。 梓:「ぐあっ!!」 柳川:「くっくっく・・・。つまらん・・・つまらんぞ。こんな事では、俺の・・・いや、俺達の怒りはおさまらんぞ!」 梓:「こ、このくそッたれめ・・・」 柳川:「そうだな・・・。ならばお前を殺してやろう・・・次は、あそこで腰を抜かしてる女だ・・・お前達を殺せば、奴は悔しがるだろうな・・・くっくっく・・・」 梓:「なっ!?」 私はなんとか、奴の間合いから逃げようとした。 だが、さっき壁に叩きつけられたせいで、体が思うように動かなかった。 せめて初音だけでも助けたかったけど・・・ごめん、初音・・・ 私は、拳を握り、目をつぶって自分の死を覚悟した。 その時・・・ 耕一:「梓!!初音ちゃん!!」 あっちから走ってくるのは、間違いなく耕一だった。 梓:「こ、耕一!!」 耕一:「やっぱりあんたか・・・」 柳川:「やっと来たか・・・・」 耕一:「柳川、きさま良くも二人に手出してくれたな!」 柳川:「おっと!ここで貴様と戦う気はない、我らが戦う場所はあの忌まわしき場所なのだからな・・・」 耕一:「なんだとっ!」 柳川:「くくく・・・今回は貴様への復讐の挨拶だ!その命しばらく預けておく、せいぜい最後の別れを楽しむのだな・・・。」 そう言って、奴は地面を強く蹴り、上空へ消えていった。 耕一は、奴の後ろ姿をにらみつけながら拳を強く握っていた。 その表情は、さっきの鬼と同じような感覚を覚えた・・・ (耕一視点に戻す) 耕一:「大丈夫かい?」 初音:「私は大丈夫だよ・・・。それより梓お姉ちゃんが・・・」 耕一:「・・・そうだな」 俺は、ゆっくりと梓に歩み寄り前に立った。 耕一:「・・・大丈夫か?」 梓:「ちょっとへマしたけど・・・。大丈夫、なんとか立てるよ」 耕一:「無理はすんなよ」 梓:「うん・・・」 梓と初音ちゃんを連れ、俺は家に戻る事にした。 その間、二人は一言も話す事はなかった・・・ まぁ・・・しょうがないよな。 あんな怖い思いしたら・・・ 俺は二人の頭を軽くぽんぽんと叩き、「大丈夫・・・」とだけ言った。 そして、家に着いたときには千鶴さんも帰ってきていて、俺が先に迎えに行った楓ちゃんが夕食の準備をしていた。 しかし、夕食時にもいつものような明るい雰囲気は無く、皆、黙って食事をした・・・ 夜の11時・・・ どこの部屋も電気が消され、皆、寝静まっているようだった。 俺はできるだけ物音を立てないようにして、外に出た。 そして、家から100mほど離れたところで、一度振り返ると、「行ってくる・・・」とつぶやいた。 それは、俺の本心だったのかもしれない・・・ さっきの奴は、明らかに強くなっていた。 俺と同レベル・・・もしくは俺以上の・・・ だからこそ、俺は全ての決着をつけなければならない・・・ 俺の命に代えても・・・ 皆を守る為・・・ 過去という名の鎖を断ち切る為・・・ ここで全てに決着を付けてやる! 俺は似合わない事を考えている自分に対し、苦笑いすると決戦の場へ一歩・・・また一歩と足を進めた。 耕一:「・・・いるんだろ?出て来いよ・・・」 柳川:「くっくっく・・・。やはり一人できたか・・・。あの同種の女と共に来れば、俺を殺せたかもしれないのになぁ」 耕一:「千鶴さんの力を借りなくても・・・お前を殺して見せるさ」 柳川:「まぁ、いい・・・。では、早速はじめようか・・・」 その言葉と同時に、俺達は鬼と化した・・・ ”変化”が終わると、奴はすぐさまその鋭い爪で俺に襲い掛かってきた。 その攻撃を紙一重で避わすと、奴の腕を掴み、地面に叩きつけ、鋭くのびた爪で、奴の腹を貫こうとした。 それに対し、奴は俺の腹に蹴りを入れ、次の瞬間には一気に間合いを広げた。 柳川:「くっくっく・・・。さすがだ・・・さすがは次郎衛門!!こうでなくてはな!!そして、お前を殺した時にこそ、俺達の憎しみは消えるのだ!!」 柳川は狂気に満ちた笑顔でそう言った。 そして・・・ 柳川:「ウォォォォォォーーーーーーーー!!」 すさまじい叫び声をあげた。 その声を聞き、森の生き物は次々と逃げ惑い、そして俺自身も圧倒されていた・・・ 柳川:「それでは・・・行くぞ!!」 奴は空高く舞い上がり、全体重を乗せた蹴りを繰り出した。 それを避けると、蹴った部分を中心に地面が大きくくぼみ、俺は足元をすくわれてしまった。 耕一:「くっ・・・。しまった!!」 柳川:「死ねぇぇ!!」 柳川は腕を振り上げ、そして、鋭い爪が振り下ろされた。 駄目だ・・・殺される。 俺は目をつぶり、最後の瞬間を受け入れる事にした。 だが、次の瞬間・・・ 千鶴:「死ぬのは、あなたです!!」 柳川:「んっ!?・・・ぐっ!!」 その声と共に、鋭い爪が柳川の首をえぐり、同時に奴の首から鮮血が噴出した。 梓:「まったく、たまには私達にも少しは頼ったらどう?3対1ならこっちが有利なんだから・・・」 そう言いながら、草陰から梓が姿をあらわした。 耕一:「あ、梓もか!?でも、お前・・・さっきの怪我が・・・」 梓:「あんた、私達の種族の力を知ってるんでしょ?あれくらいの怪我ならすぐに回復するわよ」 耕一:「で、でも・・・」 千鶴:「皆を守りたい気持ちは、皆一緒なんです・・・。それに、あなたもその一人なんですよ」 千鶴さんは、笑顔でそう俺に語りかけ、次の瞬間には柳川を、にらみつけた。 柳川:「くっ・・・。次郎衛門に気を取られすぎたか・・・。まぁ、いい。わざわざ見つける手間が省けた・・・」 千鶴:「あなたには、これ以上誰も殺させません」 梓:「あんたには、色々と恨みがあるからね。ただじゃ殺さないよ!」 そう言い、二人は左右に展開し、千鶴さんは地上から、梓は上空から同時に攻撃を加えた。 千鶴さんの鋭い爪が、柳川を牽制し、隙を突いて、梓が上空から全体重を乗せた拳を浴びせた。 それをすんでで回避し、反撃に転じようとしたところを、千鶴さんの鋭い爪が柳川の胸をえぐった。 梓:「どうだ!?私達も少しは役に立つだろ?」 千鶴:「私達がサポートします!耕一さんは、どんどん攻撃してください」 耕一:「・・・分かった!!それじゃ、行くぞ!」 俺が正面から、二人は再び左右に展開し、柳川を囲むような陣形をとった。 耕一:「くっ!!」 俺は地面を蹴り、奴との距離を詰め、奴の胸をえぐろうとした。 それを避け、俺の腕を掴み、投げようとした柳川に千鶴さんの爪が襲い掛かる。 再び奴の肉をえぐり、ひるんだ隙に俺がみぞおちに蹴りを入れた。 そして、後ろに回りこんでいた梓の拳が奴の腹に刺さる。 梓はひるんだ奴の腹に鬼の拳を連続で叩き込む。 柳川:「ぐあぁぁぁぁぁ!!」 梓:「お前がかおりを壊したんだって聞いて、絶対に殺すって決めてたんだ・・・。これで終わりだ〜!」 梓が奴の腹に渾身の一撃を叩き込むと、柳川は地面に倒れこんだ。 だが・・・ 柳川:「くっ・・・くっくっく・・・。俺をこの程度で殺したつもりか・・・?」 梓:「えっ・・・?」 筋肉が隆起した腕が梓を襲った。 その拳を梓はモロに喰らい、血を吐きながら数m吹っ飛んだ。 梓:「ぐっ・・・あぁぁ・・・」 千鶴・耕一:「梓!?」 柳川はその光景を見ながら、薄ら笑いを浮かべていた。 そして、そうこうしている間に、腹の傷が少しずつ消えていった。 柳川:「確かに、ただのエルクゥなら今の攻撃は致命傷だろう・・・。だが、俺は次郎衛門に殺された同種の者達の力を手に入れた・・・。」 千鶴:「くっ・・・。ゆる・・・さない。許さない!!」 耕一:「っ!?駄目だ!!千鶴さん!!」 千鶴:「あなたを・・・殺します!!」 そう言うと千鶴さんは一瞬にしてその場から消えた。 次の瞬間、天から飛来した千鶴さんの爪が奴の背中を切り裂く。 そして着地と同時に下から真空波を伴った一撃を放つ。 真空波は一瞬にして竜巻に変化し、奴を切り裂きながら放り上げる。 千鶴さんの連続攻撃はまだ続き、奴を引き裂いていった。 そして、渾身の蹴りが奴に刺さり奴は吹き飛んだ。 柳川:「この程度では死なないと言ったはずだが・・・?」 千鶴:「えっ!」 吹き飛ばされたはずの柳川が千鶴さんの背後に現れた。 ガシッ!! 不意を突かれた千鶴さんは避けることができず、柳川につかまれ背後に放り投げられた。 千鶴:「あうっ!?」 千鶴さんは木にぶつけられその場に崩れ落ちた。そして、再び柳川の視点は俺に向けられた。 柳川:「くっくっく・・・。これでようやく邪魔者が消えたな、今の俺は無敵だ!このあふれる力で貴様も引き裂いてくれる。」 耕一:「貴様・・・貴様ぁぁぁぁぁ!!」 俺は怒りを抑えることができず、柳川に向かって攻撃を開始した。 怒りが俺の力を増したのだろうか? 体中に力がみなぎり、さっきよりも体が軽くなったような感じがした。 柳川:「むっ!?」 耕一:「死ねぇ!!」 俺の蹴りをガードし、少し後退した瞬間を見逃すことなく、俺は拳を奴の顔面に食らわした。 そして、ひるんだ隙に奴の胸を引き裂く。 柳川:「ガハァッ!!」 耕一:「これで、終わりだ!!」 俺は拳を強く握り、柳川の顔面を再び殴った。 ものすごい勢いで吹っ飛んだ柳川は、前と同じように水門の底に沈んでいった。 耕一:「これで・・・全て終わりだ・・・。全て・・・」 俺は元の姿に戻り、千鶴さん達を連れて家に帰ろうとした。 すると、目の前には心配そうな顔をした初音ちゃんと楓ちゃんがいた・・・ 耕一:「初音・・・ちゃん?それに、楓ちゃんも。」 俺が呼びかけると、体をビクンッと震わせ、一歩後退した。無理も無い・・・ 初音ちゃんには、今の戦いはあまりにも恐ろしいものでしかないから な・・・ 俺はふぅ・・・とため息をつくと、できるだけ優しく初音ちゃんに話 かけた。 耕一:「初音ちゃん・・・。悪いんだけど、梓の様子を見てきてくれないか?俺は千鶴さんを介抱するから・・・」 初音:「えっ・・・?あ、うん・・・。分かった」 楓:「すみません耕一さん、初音を止めることができなくて・・・」 耕一:「いや、いいんだ。今、全てに決着がついたんだから。」 初音ちゃんが何処から見ていたのかは分からないが、怖い思いをさせたのは事実・・・ きっと、今までみたいになついてきてはくれないかもな・・・ 俺は少し寂しい気持ちになりながら、千鶴さんを介抱する事にした。 しかし・・・ 楓:「はっ!?耕一さん!!」 ザバァッ・・・ 耕一:「なっ!?」 楓ちゃんが叫ぶと同時に水面から奴が飛び出した。 俺が反応した時にはすでに遅く、奴は俺の目の前にいた。 そして、その拳は俺を確実に捕らえ、俺は一気に吹っ飛ばされた。 耕一:「馬鹿な・・・完全に入ったのに。」 柳川:「ぐるるるる・・・貴様を引き裂いてくれる!!」 そう叫ぶと、奴体から異常な妖気が噴出し傷が完全にふさがる。 耕一:「くっ!なんて奴だ・・・」 楓:「耕一さん!」 楓ちゃんが身構えるが、俺はそれを止めた。 耕一:「楓ちゃん、こいつはかなりやばい。いつ回りに被害が行くかわからない、初音ちゃん達を守っていてくれ!」 楓:「わかりました、でも気を付けてください。」 楓ちゃんが下がらせると、俺は奴を睨みつける。 柳川:「グオオオオオォォォ〜〜〜」 奴は、咆哮と共に俺に襲いかかる。 度重なる再生、強化と共に理性を無くし狂った獣となった奴を俺はどうすることもできなくなっていた。 鬼の力で防御しているものの、それも限界にきていた。 耕一:「しまった!」 連続攻撃により、ついに俺のガードは弾かれ無防備の状態になってしまった。 俺は、奴の振り上げられた爪を見て自分の死を感じた。 その瞬間・・・ 初音:「駄目ぇーーーーー!!」 初音:「千鶴お姉ちゃんも・・・梓お姉ちゃんも・・・お兄ちゃんも・・・誰も・・・誰も殺しちゃ駄目ぇ!!」 パァァァァァ・・・ まばゆい光があたりを包み込んだ。 初音ちゃんの持っているペンダントが光りだしたのだ。 そして、それと同時に柳川が苦しみだす・・・ 柳川:「ガアァァァァ〜〜」 耕一:「チャンス!」 俺は奴を蹴り飛ばし、体制を立て直す。 声:(お、俺を・・・殺せ・・・) 耕一:「!? この声は・・・柳川なのか?」 苦しむ奴から声がした。直接頭の中でしゃべってるような声・・・ あの夢の中で鬼と戦っていたあの声がした。 そう、ペンダントの光により鬼の支配が解かれ、本来の柳川の意識が俺の精神にリンクしたのだった。 柳川:(耕一君、俺を殺すんだ!俺は鬼に体を乗っ取られ多くの罪を犯した。これ以上誰も傷つけさせないためにも私を殺してくれ!) 耕一:「殺せって言われても、この再生能力じゃあすぐに再生される。」 柳川:(俺の体は鬼の亡霊によって再生される、ならばそれを断ち切れるもの・・・つまり鬼を制する物で倒すんだ・・・) 耕一:「鬼を制するものってなんだよ!柳川、教えてくれ!!」 柳川:(うっ・・・奴が目覚める・・・たのむ、俺を倒して・・・) 耕一:「柳川!おい、頼む!答えてくれ!!」 初音:「お兄ちゃん!」 初音ちゃんの方を見ると、ペンダントの輝きが徐々に弱まって行くのが解った。 耕一:「くっ!もう少しで鬼を制するものが何かわかったのに・・・」 楓:「鬼を制するもの・・・はっ!耕一さん待っててください!」 耕一:「何か心当たりがあるのかい?」 楓:「はい。耕一さん、鬼が動き出すかもしれません、時間を稼いでください。お願いします。」 耕一:「わかった、頼んだよ楓ちゃん!」 楓ちゃんは、コクンとうなずくと走り出した。 そして、奴の呪縛も徐々に解かれ奴が動き出した。 柳川:「グオオオォォォォ〜」 奴の怒りは、初音ちゃんに向けられた。 まだ、光は消えていないものの奴は初音ちゃんに襲いかかる。 千鶴:「初音!」 千鶴さんによって、間一髪のところで初音ちゃんは助けられた。 耕一:「千鶴さん、動いちゃだめだ!そんな体で戦ったら。」 千鶴:「少し休ませてもらったおかげで多少は回復しました。」 耕一:「でも、そんな体じゃあ。」 千鶴:「それは、耕一さんも同じです。でも、今は時間を稼がなきゃ・・・」 ――楓視点 家に戻った私は、叔父様の遺品の中を調べていた。 押入れの深くから物を取り出していると中から古ぼけたひとつの長い箱を見つけた。 楓:「あった!これで・・・耕一さん、待っていてください!」 私は、それを手にするとそのまま耕一さん達の戦っている水門に向けて走り出した。 ――耕一視点 千鶴:「・・・くっ」 俺は、奴に追い詰められていた。千鶴さんと時間稼ぎをしていたものの呪縛は解き放たれた 奴によって蹴散らされていた。 耕一:「千鶴さん、もういい!立つな!」 奴はとどめとばかりに自分の爪をひと舐めすると、俺に向かって突進してきた。 その時・・・ 楓:「耕一さん!受け取って!!」 楓ちゃんによって投げられた箱を「渡さぬ」とばかりに奴は砕くと中から一本の刀が出てきた。 俺はそれをすかさず受け取る。 耕一:「こ、これは・・・」 楓:「あなたの前世である次郎衛門が鬼を切った刀です。私の中のエディフェルがそう教えてくれたんです。」 耕一:「よし!これで奴を倒せる!」 俺はすぐさま刀を抜くと、体が人間に戻り出す。 耕一:「くっ、力が刀に吸われる・・・」 その瞬間刀の刃は冷たく輝き妖気を漂わせた。 耕一:「そうか、鬼の力を刀に集中させることで人の姿を保ち鬼を制する・・・柳川が言いたかったのはこれのことだったのか!」 それを見ていた奴は、動きを止め警戒している様子だった。 耕一:「さあ、決着をつけよう・・・」 俺が奴に向かって突っ込むとやつもそれに答えるかのように突っ込んでくる。 両者とも渾身をこめた一撃が交差する・・・ 耕一:「ぐ・・・やったか・・・?」 奴の体は傷口が再生できず体から光のようなものを放ちながら砕けて行く その光に反応してか、ペンダントと刀が共鳴するかのように鳴り出す。 キィィィィィン キィィィィィン 耕一:「これは・・・」 声:「・・・ありがとう」 耕一:「え?柳川・・・?」 その声が聞こえると共に光は消え去った。そして・・・ バンッ!パキーン! その使命を終えたかのように次郎衛門の刀とペンダントは砕け散った。 その後、俺の意識は次第に遠のいていった・・・ ちゅんちゅん・・・ 耕一:「んっ・・・」 すずめの声が聞こえる・・・ ゆっくりと瞳を開けると、そこにはいつもの天井があった。 今のは・・・夢? 俺は体を起こして、それを確かめようとした。 だが・・・ 耕一:「ぐっ・・・痛ぇ・・・・」 体中が痛んだ・・・ そして、その痛みが今までの事が夢ではない事を物語っていた。 千鶴:「耕一・・・さん?」 耕一:「えっ・・・千鶴さん・・・?」 千鶴:「あっ・・・」 千鶴さんは、俺の顔を見るなり、瞳に涙をため、俺に抱きついてきた。 千鶴:「よかった・・・本当によかった・・・」 耕一:「痛い・・・痛いって、千鶴さん」 千鶴:「あっ、ごめんなさい・・・」 千鶴さんは、はっと我に返ると俺から飛びのき、顔を赤くしていた。 耕一:「いや、抱きついてくれるのは嬉しいんだけど、もう少し優しくして欲しかったな」 千鶴:「えっ、あっ・・・」 耕一:「まぁ、いいや。ところで、俺ってどれくらい寝てたの?」 千鶴:「丸々3日も寝てたんですよ・・・。それで、皆、心配して・・・」 耕一:「そっか・・・。皆に心配かけさせないつもりが、逆になっちゃったな・・・」 千鶴:「いいんです・・・。耕一さんが無事なら・・・」 千鶴さんは優しく、微笑むと俺の手を握ってきた。 俺も、何も言わずに握り返し、そっとつぶやいた・・・ 耕一:「終わったんだね・・・全部・・・」 千鶴:「そう・・・ですね」 耕一:「・・・・・」 千鶴:「・・・・・」 二人の間に沈黙が訪れた。 だが、それは居心地の悪いものではなく、むしろ心地よささえ感じていた。 耕一:「ねぇ・・・千鶴さん・・・」 千鶴:「・・・はい?」 耕一:「俺、皆に守られながらじゃないと戦えないような男だけどさ・・・」 千鶴:「・・・・・」 耕一:「そんな俺でもいいなら・・・結婚してくれないかな?」 千鶴:「耕一さん・・・」 千鶴さんの瞳に再び涙がたまる・・・ 俺の言葉に対する答え・・・ それは無言でしたキスが物語っていた・・・ 千鶴さん達の心から闇は完全に祓われ、そして暖かな光が柏木家を包み込んでいた。 (ページ変え) 全てが終わったとき、あの共鳴は起こった・・・ 光を放ち、音を奏でそして砕け散った。 怨みに縛られさまよう魂を解放するために・・・ それは天への道を作るかのように そして、鎮魂歌の様に――