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夢の犬 〜一つの導入部をもつ四つの掌編〜

はじめに

 サブタイトルどおり、共通の入り口を持った四本の物語です。それぞれの話は完全に独立していますのでどれからでもご自由にどうぞ。導入部の後にそれぞれのタイトルがあります。

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夢の犬 <導入>

 目に映るのは黒のストライプ。杉の木、粛々と並ぶ幹が薄闇の中濃く黒く。奥に社があるのを見えないけれど知っている。足元の土と小石とまばらな雑草。
 神社の境内はいつでも少し怖い。
 鬼ごっこをしていたのに誰もいなくなってしまった。でも、誰と鬼ごっこをしていたのだっけ?
 そばに、犬。ああ、犬がいるからまだあまり怖くない。お前を自慢したいのに誰もいないね。かがんで背に触れた手触りはあたたかくてやわらかい。
 犬がまっすぐ見返す目の濡れた黒さと伝わってくる感情がすべてを塗りつぶす。言葉を持たない瞳が語りかけている。それを受けとって喚起される言葉は一つ。
 ――無償の愛。
 どうすればこのまっすぐな目に応えられるのか。息苦しくなるほど胸が痛くて、ただ毛並みを撫でて。私もお前が大好きだよと、言葉にすれば陳腐な響きに思えて。そんな言葉ではこの瞳につり合わないと感じて。
 誰もいない境内に犬と。モノクロームの色彩の中で確かなあたたかさを手のひらに受けながらただ犬を撫でる。
 
 そこで目が覚めた。
 目覚めてからも手のひらの感触ははっきりと反芻できるのに、犬の姿形は茫洋として思い出せない。ダックスフントのような、ドーベルマンのような、秋田犬のようなポメラニアンのような長毛のような短毛のような……。残っているのはただあの瞳と感触だけ。見つめるあの瞳の残像が切なくて、枕を引き寄せながら思いを凝らす。
 もう一度夢で会えないだろうか。もう一度会いに来てはくれないだろうか。
 名前も知らない犬に、ただ呼びかける。

 

るくの話 <惚気>   午前二時 <悪夢>

桜の人 <抽象>   静乃 <愚痴>