<キャスト> 新庄先生(高校英語教師) :粟根まこと(劇団☆新感線) 真澄(新庄の教え子・漫画家) :坂口理恵 鶴岡(新庄の教え子・パティシエ):西川浩幸 史恵(鶴岡の妻) :小川江利子 天童(新庄の教え子・酒屋) :岡田達也 尾花沢(真澄のアシスタント) :大内厚雄 久美子(真澄のアシスタント) :前田綾/岡内美喜子(ダブルキャスト) 酒田(真澄の担当編集者) :南塚康弘 優子(新庄の妻) :大森美紀子 たまき(新庄の娘・大学2年生) :中村亮子 千登勢(新庄の妹) :岡田さつき 山形(千登勢の夫・サラリーマン):篠田剛 律子(千登勢の娘・中学2年生) :青山千洋/藤岡宏美(ダブルキャスト) 漫画家・真澄(坂口理恵)は、〆切一週間前にして次回作品の変更を決める。 編集者・酒田(南塚康弘)は反対するが、真澄はどうしても今書きたい作品だ と譲らない。作品を読んでから自分に決めさせてほしい、という酒田の意見に より、3日で書き上げなければならない事態に。読んでもらうために、酒田に セリフチェックを頼む真澄。――その漫画のタイトルは『ミラージュ』。 昨年の9月。真澄は高校時代の恩師・新庄先生(粟根まこと)の、抜け殻の ような姿にショックを受ける。先生の奥さん・優子(大森美紀子)が急逝した のだ。話しかけても返事さえほとんど返さない先生を、誰もが心配する。 それから半年後、真澄は高校の同級生である洋菓子職人の鶴岡(西川浩幸) と、家業の酒屋を継いでいる天童(岡田達也)の3人で、先生の家を訪ねる。 その日は先生の50回目の誕生日。先生の娘・たまき(中村亮子)、先生の妹・ 千登勢(岡田さつき)、鶴岡の妻・史恵(小川江利子)も加わって楽しいはず の場で、たまきが大変なことを口にする。先生が明日で学校を辞めるというの だ。先生がどれほど教師の仕事が好きか、を知っている真澄たちには信じられ ない。しかしすでに辞表も出したという先生の決意に、誰も何も言えなくなる。 数日後、たまきが真澄の仕事場を訪ねてくる。仕事を辞めてからの先生の様 子に、たまきは不安を感じていた。……もしかしたら自殺するのではないかと。 口では否定する真澄も、同じ不安は拭えない。 鶴岡や天童に協力を頼み、真澄が考えたアイデアは、先生に授業をしてもら うこと。英会話を教えてほしい、と理由もその場ででっち上げて頼む真澄たち。 結局その嘘は見抜かれてしまうのだが、授業はしてもらえることになる。 週1回の英会話教室が始まった。たどたどしくも授業は進んでいくが、次第 に仕事との両立が簡単でないことに気づかざるを得なかった。しかし、授業が 続く限り先生は生きていてくれる……そう思いながら通い続ける真澄。 6回目の授業が過ぎたある日、鶴岡が真澄に打ち明ける。勤め先の店が外国 に支店を出すことになり、自分が行かなければならないこと。天童の父親が体 調を崩していること。……彼らが授業に来なくなると、生徒は真澄とたまきの 二人きり。話を聞いた先生は、しばらく授業は見送ろうと言う。真澄は続けて ほしいと言うが、自分自身の生活を考えなさいと逆に諭される。 その数日後、千登勢の娘・律子(青山千洋/藤岡宏美)の誕生日パーティー が開かれる。娘を祝いに、千登勢の夫・山形(篠田剛)も途中から参加する。 しかしその席上で、先生が、授業を終わらせようと考えていることを明かす。 それを止めたい真澄や天童だが、自分の仕事のことを考えると積極的に言えな い。さらには、山形と千登勢の夫婦喧嘩がこじれてしまい、パーティーも中止 になってしまった。 翌日の朝。先生が血相を変えて何かを探している。ただならぬ様子を怪しむ たまきと千登勢。……探しているのは優子の香水の壜。そして中身は強力な毒 薬。同僚教師が持っているのを見て、香水の壜にこっそり移し替えたのだった。 自分で飲むために……二人とも壜がどこにあるのか知らないと言う。とすると、 昨日のパーティーに来た誰かが持っていることになる。手分けして壜の行方を 追う先生たち。だが誰も壜のことを知らない。全員が先生の家に集まったが、 たまきだけが帰ってこない。 ……まさか、たまきが壜を? 全員が、思い当たるところ全てを探しに走る。 しかしどこにもいない……その時、真澄はひらめいた。先生と優子が出会った 思い出の公園――たまきはそこにいた。香水の壜を握りしめて。 毎晩毎晩、自分の中の優子と話をしていた先生。たまきはそのことに気づい ていた。母のことで心がいっぱいで、自分のことは見てくれない父……それで も、生きていてくれればいいと思っていた。なのに、死ぬことを今でもずっと 考えていたなんて……たまきの叫びに、先生は「すまない」と言う。だが真澄 の怒りはおさまらない。 先生はとても厳しかった。だがそれは全て生徒のため。先生は生徒のために いつも頑張ってくれた。自分の退職と引き換えに、留年しそうだった真澄たち を卒業させようとしたこともあった。……自分のためではなく、生徒のために 生きてくれた。そういう人だったから、真澄たちは先生が好きだった。 だからこそ真澄は、今の先生を許せない。自分の悲しみだけで心をいっぱい にしてしまっている先生を……たまきから壜を奪う真澄。「飲んでください。 一滴も残さずに」先生は壜を受け取った…………そして中身を全て、捨てた。 「これからは二人で生きていこう」――先生の言葉に、たまきは頷いた。