○『アローン・アゲイン』

   清水あおい(坂口理恵)は最近落ち目の女優。せっかく回ってきたドラマの仕事
  も新人に横取りされてしまった。そんな彼女に巡ってきた意外なチャンス――小説。
  雑誌に書いたエッセイが編集者・嵐山(篠田剛)の目に止まり、自伝小説の以来が
  来たのだ。所属事務所の鳥羽専務(岡田達也)は大喜び。だが当のあおいとマネー
  ジャーの葉子(大森美紀子)は苦い顔。そのエッセイはあおいではなく葉子の弟の
  フリーライター・光男(西川浩幸)が書いたものだったから。あおいと光男はゴー
  ストライターは嫌だと断わるが、葉子は二人にとってのチャンスだと考え、引き受
  けさせる。
 
   同じ頃、あおいの妹・みのり(伊藤ひろみ)が勤める幼稚園は閉園の危機にさら
  されていた。あおいの恋人・将太(上川隆也)が経営する幼稚園であり、養成所時
  代には幾度も徹夜で稽古をした、あおいにとっても大切な場所。何か力になりたい
  と思うが、将太は一人でなんとかすると言い張る。
 
   衝突しながらもできあがった小説。その小説が新人賞を取り、映画化まで決定。
  あおいも脇役ながら映画に出演が決まり、連載エッセイの依頼も来た。だがあおい
  は素直に喜べない。小説の出来が気に入らず光男に当たるあおい。光男は、今度の
  エッセイでは本当のあおいを書くと宣言する。
 
   ある日、幼稚園で火事が起こった。惨事には至らなかったが、今の幼稚園にとっ
  ては大きな痛手だ。みのりの同僚・のぶ枝(中村恵子)の連絡であおいはすぐに駆
  けつける。だがみのりの機嫌は悪い。そして将太も、幼稚園は今年で最後にすると
  言う。自分から借金しないかとあおいは提案するが将太は聞き入れてくれない。
 
   あおいの養成所時代の友人・鞍馬(今井義博)には不思議な力があった。他人の
  頭の後ろに花が見える力――その花は人の命を表していて、花が枯れた時、その人
  の命も終わるという。最近花を見るのを嫌がる鞍馬に、光男は周りの誰かの花が枯
  れているのではないかと疑う。そしてそれはあおいなのではないかと。
 
   ついに幼稚園が売りに出されることになったと聞いて、あおいは幼稚園へ急ぐ。
  事情を説明する将太を問い詰めるあおい。みのりは、今頃あおいが口出しする権利
  はないのだと突っぱねる。――みのりはずっと、将太を見つめ続けていたのだった。
  あおいはもう何も言えなかった。
 
   翌日、あおいは事故での怪我がもとで映画の役を降ろされる。不安になる光男。
  大切なものを一度に失おうとしているあおいは、自殺するのではないか。光男は鞍
  馬を問い詰めるが、鞍馬は何も言わない。彼には、たとえ誰かの花が萎れていても
  言いたくない理由があった。子供の頃に両親を亡くした鞍馬は、彼らの花が萎れて
  いくのをただ見ているしかなかったのだ。一度萎れた花は元には戻らない……だが
  一度だけ、花が蘇ったことがあると言う。鞍馬の妻・紅子(遠藤みき子)の花だ。
  それならまだ望みはあるかも知れないと光男は考える。その時、あおいが姿を消し
  たと葉子が駆けこんできた。今すぐ幼稚園へ行ってください、と二人に言う鞍馬。
 
   あおいは幼稚園に来ていた。小説の印税を将太に渡すために。そんなあおいをみ
  のりは責める。みのりを止めようとするのぶ枝たち……彼らの話から火事の真相が
  判明する。火事が起こったのはみのりの不注意が原因だった……部屋を飛び出すみ
  のりの姿に、光男と葉子は花が萎れていたのは彼女だと気づく。
 
   カッターを自分の首に突き付けるみのり。……どれだけ自分が思っても、将太は
  あおいを忘れない。このままあおいが忘れてくれれば、自分の気持ちを伝えられた
  のに。そう叫ぶみのりに、あおいはもう将太とは会わないと言う。だから自分には
  もう芝居しかないのだと。あおいが芝居を好きになったのは、子供の頃にみのりを
  喜ばせるためにしたことがきっかけだった。みのりの前で、養成所の卒業公演で演
  じた芝居をやってみせるあおい――みのりが笑った! あおいがいい芝居をして一
  番喜んでほしいのはみのりなのだと言う。みのりはあおいの最初の観客なのだから。
  ……みのりの手からカッターが落ちる。その時駆けつけた鞍馬が叫んだ。みのりの
  花が空に向かって開き始めたと…………
 
   それから一年。光男は自分の名前で小説を書いた。あおいと、彼女の周りの人々
  のことを。テーマは、伝えられなかったあおいへの思い。その小説がベストセラー
  になり、今日はラジオ番組に出演する日。以前、あおいと一緒に来たスタジオだ。
  小説のタイトルは『ファーザー・アロング』――もっと遠くへ。「一人で行けるさ、
  もっと遠くへ」光男はひとり、呟いた。
 
 

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