立山龍王岳東尾根(永嶋尾根)
月稜会画像掲示板

日程:2010年5月17日(月)

メンバー:L角屋 張替 桑田

行程:扇沢(7:30)〜室堂(9:30)〜一の越(10:20)〜東尾根末端(10:30)・登攀開始(11:00)〜山頂(12:30〜13:00)〜室堂(13:30)〜扇沢(15:00)

 

 おととしの4月に御山谷をスキーで滑った。その時に気になった尾根が龍王岳東尾根だ。いろいろ調べてみると、わが会の大先輩が、この岩場を集中的に登り調査を行っていること。無雪期にはそれなりに登られていること。この東尾根は永嶋尾根とも呼ばれていることなどがわかったが、詳細についてはわからなかった。だからこそ是非雪のある時期に登ってみたかった。

 

 加藤君と張替が参加することになり、後から参加を名乗り出た桑田は定員オーバーで、残念ながら同行はするが、立山の日帰り縦走にしてもらうことにした。情報の少ない未経験の岩稜なので、念のため3人に絞ったからだ。ところが前日になって、加藤君に仕事が入りキャンセルになった。これを告げると桑田は大喜びでパーティーに加わった。(桑田がくわわった。しゃれか?)

 

 アルペンルートの扇沢の始発は7時30分だ。大観峰からのロープウエーで1番の整理券をもらうためには、始発に乗り、黒四ダムを1番に通過しなければならない。前夜の宴会はほどほどに、目覚ましは余裕を持って6時半にセットしたのだが、朝起きて改札に並んでみると、思っていた程観光客はやってこなかった。

 

 室堂ターミナルに着くなりすぐに出発。天気は上々だ。一の越までは約45分。ここまで来て初めて龍王岳が眺められる。山頂から左に落ちるのが東尾根だ。永嶋尾根とも呼ばれているが、なぜそう呼ばれるのかは知らないし、あまり興味はない。下部は岩、上部は雪の登攀になりそうだ。ここからみると岩は急に見える。

 御山谷を10分ほど下ると尾根の末端につく。尾根に近づくにつれ、様子が詳細に理解できてくる。岩の部分はそれほど傾斜はなく、2つのパートに分かれているようだ。北側の側壁の雪壁も傾斜は50度くらいで、わざわざ岩を登らなくてもどこからでも山頂まで登ってしまえそうに見える。しかし今回は山頂を踏むことだけが目的ではない。尾根をトレースしながらのアルパインクライミングを楽しむことが目的。迷わず末端からとりつく。末端の標高はちょうど2600m。地肌の出た緩傾斜帯を150mほど登ると、しっかりした岩の取り付きに突き当たる。錆びたハーケンが2枚残置されている。よく見るとあちらこちらにハーケンがうたれている。しかし岩の節理は発達していて、どう見てもカムやナッツのみでプロテクションは十分だ。

 1ピッチ目は私がリードで登り始める。岩は固くがっちりしていて気持ちがいい。W級−程度で簡単だ。結局ロープを35mほど延ばしてテラスについた。カムはキャメロットの3番を1つ使っただけだった。桑田、張替ともに余裕でフォローしてきた。先を見上げるとリッヂ上は岩だが細く、その上の大きな岩場までは右の雪壁を登ったほうがよさそうだ。1ピッチ目に続いて私が先行する。約50mで3ピッチ目となる岩場の取り付きについた。

 3ピッチ目は傾斜の緩いスラブ帯を登る。ここは一番クライミング経験の少ない桑田に任せる。彼はまだクライミングを初めて2年ほどだが、彼ならば問題なくリードするだろう。案の定難なく登り物足りなかったかもしれない。途中でピッチを切ってもよかったのにほぼ50mロープを伸ばしきった。V級程度の岩場だった。

 4ピッチ目は少し傾斜が強くなったクラック帯だ。見栄えもするし楽しそうだ。張替が「自分の番だ」と主張しているのでリードさせる。10mほど登ってからカンテの左に出るとチムニーがある。そのさらに左は雪田になっているようで、岩を左から巻いてしまえそうにも見えるが、張替はチムニーに突入していく。ちょっとアイゼンをガリガリさせていたが、すぐに岩の上に上がり姿が見えなくなった。それと同時にロープはするするとでていき、ほぼ50mいっぱいまで伸びた。フォローしてみると快適な岩場で、難しさはW級ノーマル程度。チムニーの上は傾斜が落ちていて、快適な1枚岩のテラスで終了していた。

 この先はしばらく岩交じりの雪稜だ。ロープを1本にし、コンテで進む。70〜80mほど進むと雪壁になる。傾斜は50度前後。雪質は氷化した固い雪の上に、柔らかい雪が10cmほどのっている。一応流されても止められる態勢でひとりづつ登る。50m弱で雪のテラスに出る。

 ひとつ小さな岩峰を巻くと2段目の雪壁になる。今度は登る順番を変えて桑田、張替、私の順番にした。この雪壁も50mほどで抜けられるが、最後に小さな岩場がある。これを越えると短いナイフリッヂになり、その先は傾斜が落ちた雪の斜面が70mほどで山頂に至る。山頂で桑田がロープを手繰る。その姿は立派なアルパインクライマーに見える。ここまでのクライミングを振り返ってみると、張替には何の不安も心配も感じていなかった。確かにやさしいクライミングではあったが、それでも事前の情報はほとんどなく、自分たちの目で確かめながらのクライミングだった。そんな中で二人の成長とたくましさを感じた。そして今日のクライミングは実に爽快で楽しかった。手軽さ、内容など、シャモニーで登ったミディーのコスミック山稜を思わせるものがあった。

 山頂の景色は文句のつけようがないくらい素晴らしい。北には立山3山、剣岳、大日岳。反対の南側に目を向ければ正面に鷲羽岳、水晶岳。それを囲むように槍・穂高連峰、笠が岳、そして双六から薬師の稜線。もちろん東には間近に針の木岳、爺、鹿島槍。西には阿弥陀が原、富山の平野、日本海。本当に今日は良い1日だった。

 

 扇沢に戻ったのは15時。時間に余裕があったので、温泉につかった後は松本まで一般道を走り、定食屋で馬刺し定食と馬もつ煮を食し、満足して帰京したのだった。