南ア・芦安 上荒井沢(櫛形山北面の氷偵察)
 

芦安 上荒井沢のアイスクライミング

月稜会 角屋貴良 

 上荒井沢の氷を発見したのは昨年暮れの12月23日。藪山歩きに出かけた折である。私は冬にこの上荒井沢を詰めて櫛形山に登ってみようと、愛犬2頭を連れて出かけた。押し寄せる寒波と南岸低気圧の通過で、ここ上荒井沢は思わぬ積雪となった。しかし、地図にない林道が上荒井沢に延びており砂防ダムの工事中であったため、林道に車を乗り入れ邪魔にならないところに車をとめて歩き出した。沢の両岸は険しい。出だしから私の興味は藪山歩きから氷探しに転じてしまった。

 藪山歩き自体の楽しみは説明するまでもないが、藪山は思わぬ拾い物をするのでやめられない。もちろん山道具や何かを拾うのではない。もっと面白い拾い物をしたのが上荒井沢だった。

 歩き始めて10分。対岸に途切れ途切れの氷柱が…。更に10分。林道脇にもう登れそうな氷のナメ。上部のハングにはツララが垂れ下がっている。更に2分。ルンゼの奥に氷柱が見える。これらの氷に胸が踊るが、一応目標を持って入山したからには、出だしで躓くわけに行かないので林道終点から沢のラッセルに入った。しかし、本流には見るべき氷もないし、ワカンをつけても腰まで潜るラッセルに辟易し3時間、標高1550mで引き返すことにした。もちろん、林道脇の氷の偵察に気持ちはすっかり切り替わり、自分でつけた踏み後を駆け下った。

 まず林道終点近くのルンゼ(ましらルンゼ)に入ってみる。ルンゼ内はナメになっていることは歩いてみると分かるが、積雪のためラッセル。断崖でつまった所に3本の氷がある。一応冬の沢登りの予定だったのでアックスも2本ある。一番右は傾斜の緩い細い氷(ミエザルフォール)。フリーソロで登ってみた。真中(キカザルフォール)は傾斜の強い短い氷。すでに登れそうであったがフリーソロができる氷ではない。左(イワザルフォール)は狭いルンゼにナメができ、上部にツララが下がっている。

 林道に戻り、その下のナメ(カモシカルンゼ)を観察。ナメは登れそうだったが、その上のハングした岩にかかるツララがつながっていない。しかし、その奥にもルンゼが続いていて氷がありそうだ。

 一番下(トリコルネ)は砂防ダムの脇。林道の対岸にある。今は3段に分かれていて上部は凍っていないが、凍れば面白そうだ。

 

 1月25日。この日は別な用事があり、夕方に立ち寄ってみた。すべての氷が見事に氷結し、益々心が躍る。特に対岸の「トリコルネ」はきれいな三角錐に発達し、今すぐにでも取り付きたい衝動に駆られる。

 

 2月3日。この日は我が会の集会日で、あまり時間がなかったが、アルパインガイドの山下勝広氏がパートナーを引き受けてくれたので、現地で待ち合わせる。

 工事関係者に明るく挨拶を交わし、まず「トリコルネ」に取り付き、発見者の特権という事でリードさせてもらう。25m W級+という予想だったが、上部に行くにしたがって傾斜が強くなり、しかも幅が狭くなる。そして予想よりも長く35mはある。もちろんフィーフィーなどは去年からやめているので、スクリューは3本に節約し一気に登り切った。山下氏もリードで登り、グレードはX級+ 35mということに成った。

 次に向かう「カモシカルンゼ」は「トリコルネ」からも眺められる。林道を移動する事10分。下部30mは傾斜が緩いが、その上は細かいツララ状の垂直部分、さらに大きな盛り上がりがいくつも重なった部分へとつながっている。今度は山下氏がリード。中間部は右の凹角を使い登る。しかしここでロープが終わり、ビレーヤーの私が移動。何とか左の木に支点を取り1ピッチ目を切った。フォローした私がF1の残り10mをリードし、更にF2、mをリードする。F2はW−。F3は5mと短くV級程度。しかしその上のF4が崩壊後だったようで、氷は水流により二つに分けられ、上部のハングした岩には頼りないツララが下がっている。私は登攀意欲を消失したが、山下氏がトライ。下部は崩壊する氷をだましだまし登り、いよいよツララのノッコシワンムーブ。ところが遂にツララも崩壊してしまった。支点が取れないこともあり、残った最後の支点を補強しロワーダウンとなった。左岸を巻いて残地を回収。2日後、山下氏は再びここを訪れ、右よりのラインから完登。そのときの状態でグレードはY+ 20m。

 集会参加のため、タイムリミット間際に「ましらルンゼ」に入る。まず「キカザルフォール」を私がリードする。垂直に近い氷柱が2段に重なったカーテン状の氷。15mと短いがムーブ的には「トリコルネ」より難しいかもしれない。X級 15m。次に左の「イワザルフォール」を山下氏がリード。下部25mはナメだが、洞穴に突き当たって氷は右壁に張り付いている。5mの垂直部分を登ると、「キカザルフォール」と共通のテラスの木につく。X級− 30m。どちらも回収はフォローでないと難しい。一番右の「ミエザルフォール」は、この日は登らなかったが、雪にほとんど埋もれていた。

 パートナーが強力だったため、短時間で登り尽くしてしまったが、普通だったら丸一日充分楽しめる内容だ。近くてバリュエーション豊富なゲレンデとして利用価値の高いアイスクライミングエリアになりそうだ。

(翌週、我が会14名のアイスクライミング講習のゲレンデとして使用。今のところ工事関係者も好意的。芦安には温泉も豊富。どうせお金を使うなら地元に落としましょう。)