八ヶ岳広河原沢2ルンゼ〜阿弥陀岳奥壁(←画像掲示板にリンク)
日程:2010年12月20日(月)
メンバー:L角屋貴良 斉藤広文 加藤献
船山十字路(6時45分)〜山頂(13時55分)〜御小屋尾根〜船山十字路(16時10分)
広河原沢といえば何と言っても3ルンゼがポピュラーだ。次いで左俣。ゲレンデとしては右俣のクリスマスルンゼ等がよく登られている。2ルンゼは登られてもせいぜい1・2ルンゼ出合いの大滝までで、山頂まで詰めあがるパーティーなど、年に1パーティーいるかどうか?しかし、2ルンゼは、沢をアプローチし凍った滝を登り、山頂直下の奥壁を攀じ登り、最後はダイレクトに山頂に飛び出す美しく理想的なラインだ。
我々のような連休が取れない者にとっては、日帰りでぎりぎりできるアルパインクライミングとしては、甲斐駒の黄蓮谷にも勝る理想的なルートだと考えるのは私だけだろうか。
私にとっては、今回のチャレンジは4度目である。第1回目は、今回もパートナーとなってくれたひろさんと。しかしこの時は、右岸に見えた立派な氷柱に誘われ、途中から中央稜に出てしまい失敗。第2回目は月稜会の女性2名を伴いチャレンジ。1・2ルンゼ出合いの氷柱を登り、その先の二股で「どちらに進もうか」考えた挙句に右を選んだところ、3ルンゼ上部の雪壁に合流してしまい、南稜P4に詰め上げてしまった。第3回目は、昨年にチャレンジしたが、1・2ルンゼ出合いの氷柱が凍っておらず、あきらめて3ルンゼに転進してしまった。
この日は我々のほかにも月稜会の仲間が、石尊稜組と御小屋尾根から阿弥陀山頂往復組の2パーティーが入山する。皆で車をシェアーし、前夜は船山十字路で仮眠。
朝6時45分に御小屋尾根往復組とともに出発。林道をアプローチするが、すぐに御小屋尾根往復組とはさようなら。林道には全く雪がない。唐松の落ち葉が敷き詰められたじゅうたんの上を歩き、林道終点から沢を詰め、下部の二股までは40分でこなした。今日は日帰りだと厳しいクライミングになることを予想しているので、下部の二股も通過。流石にこのあたりまでくると雪と氷の世界になるが、今年は雪が少ない。アイゼンはまだまだ先で装着することになるだろう。上部の二股を過ぎ本流に入り、チョックストーンの滝が現れる手前で初めての休憩をとった。休憩といってもアイゼンを装着するだけだ。時刻は8時30分。ここまで1時間45分ほどで到達した。チョックストーンの滝も、それぞれ思い思いのラインで通過し、最初の本格的な滝を迎える。しかしこの日のメンバーにはロープは必要ない。3ルンゼの出合いを右に見て本流を詰める。いつもなら出合いから1・2ルンゼ出合いの氷柱が見えるはずであるが、ここまで来て雪が少し強くなり、氷柱は見えない。近づいてみると以前に登った時よりも細いが、しっかり凍っている。滝の下で登攀の準備をする。私はどちらかというと氷よりも岩のセクションをリードしたいので、ひろさんと加藤君に「リードする?」と聴いてみた。ひろさんは「遠慮しとくよ」というが、加藤君は「え!?いいんですか?」というので「どうぞどうぞ!」とリードを譲る。
今日の状態はかなり難しそうだ。氷結の状態は悪くないが、登れるラインが細いのでカンテ登りになってしまい、アイゼンの効かせ方が難しい。加藤君は結構苦労して登りきった。2番手はひろさん。途中で氷ははがれてフォールした。荷揚げの後私が登った。1ルンゼを左に見て、右のルンゼに入る。小滝を二つ越えてまた二股が現れる。前回、永井・亀井とともに右に入り失敗した。右は3ルンゼ上部に合流してしまうのだ。今回は左に進み、前回登った右にもあったのと全く同じような涸れ滝に突き当たる。ここからが未知のルートとなる。加藤君と相談してルートを考える。ここはゴルジュの中だが、右岸に岩の切れ目があり、簡単に尾根に上がれそうだ。これを使って涸れ滝を巻いてみる作戦。草付きV級を50mほど登ると尾根に出た。尾根を80mほど登ると岩のナイフリッヂになる。ビレーしてもらって私がリードする。V級程の岩場だが鋭いリッヂだ。30mほどでコルになり、ここで後続のビレーに入る。3人そろったところで次のラインを相談する。傾斜を増すリッヂをこのままたどるか、右の壁の中に見出せるバンドをトラバースしてルンゼに戻るか。懸垂下降してルンゼに戻るか三者択一だ。相談の結果、右のバンドをトラバースすることになった。ここも私がリードする。バンドのトラバースに入ってみると残置ハーケンが豊富にある。残置ハーケンを使うことには少々抵抗もあったが、時間節約のためにつかってしまった。W級50mのトラバースでルンゼの真ん中に到着。しかしロープをほぼ延ばしきったところはハーケンは使えず、スタンディングアックスビレーをするほどの積雪がなかったため、ワードホックを2本打ちこみ後続をビレーした。セカンドの加藤君はそのまま先行させ、3番手のひろさんを迎える。加藤君は雪のバンドを右上していく。100mほど登ったところで尾根に出て、尾根上にある10mほどの岩場を、加藤君はビレーなしで登ってしまった。セカンドのひろさんはかなり悪く感じたようで、「加藤君。ビレーしてよ。」と言っている。私も抜けてみるとW級+くらいに感じた。下が雪で高度感もなく短いので登れてしまうが、ロープは出して正解だろう。
このあたりから雲の流れが速くなり、時折真っ青な空が見えるようになってきた。多分13時近いのだろうと思ったいたが、ジャケットの袖をめくり上げて時計を確認するほど時間的な問題を感じていなかったし、面倒なので、そのまま登り続けた。岩場を越え、さらに尾根を70〜80mほど登ると、今度は大きな岩場に突き当たった。ここはどうしても岩場のどこかにラインを見つけなければならなそうだ。つまり2ルンゼの核心部である奥壁正面壁に突き当たったということだろう。これを登ってダイレクトに阿弥陀岳山頂に突き上げる。これが今回のクライミングの目標なのである。、二人には悪いが、ここは迷わずさっさとリードの体勢を作る。リッヂを右に越えると浅い凹角があり、ここが登りやすそうだ。出だしに2本ワードホックを打ち込み凹角にはいる。ホールドは細かく、手袋をした指ではとらえきれない。アックスも使いながら体を上げていく。リスを見つけ、ナイフブレードを3枚打ちこみ登っていく。凹角の抜け口には残置ハーケンが1枚打ってあった。その上は傾斜が落ちて這い松帯になっているようだ。下を見ると結構高度感もあり怖い。でも反面、「これぞアルパインクライミング!」という充実感に満たされX級25mを登りきる。雪の下から這い松を掘り返し、確保支点を作り、二人をビレーする。空はすっかり晴れた。二人を確保しながら周りの景色に目をやると、進行方向左手には「中央稜」がスカイラインとなって見える。これまでたどって来た広河原沢が真下に眺められる。「ここを登って来たんだ」と思うと、充実感に満たされる思いだ。二人は「難しかった」と言いながらもスムーズに到着し、さらにV級の岩場を50mほど登り、いよいよ最後の這い松帯となる。確信は持てないが、きっとこの上はいきなり山頂だろう。そうなればドンぴしゃ、作戦通り2ルンゼ完登である。加藤君とひろさんに先行してもらい、私は解いたロープをまとめてから後を追う。10分ほど苦しい最後の登りを頑張ると、山頂に立つ二人が見えた。「やった。2ルンゼ完登!」。
ここにきて空は晴天。富士山が南の方向にくっきりと浮かび上がり、隣の赤岳、権現岳が清らかに見える。赤岳鉱泉の方向にガスが残り、その中に我々のブロッケンも現れる。13時55分。約7時間をかけて山頂にたどり着いた。阿弥陀岳の山頂まで林道を歩き、沢をたどり氷を登り、最後は岩を登り、このダイレクトなルートを完登することができた。私が考える最高に美しいラインだ。八ヶ岳では最も美しく充実したラインだろうと思う。信頼でき、安心できる二人のパートナーのおかげで登ることができた。
今日、すでに山頂を踏んで帰って行ったであろう月稜会の仲間の後を追い、御小屋尾根を下り、16時10分に船山十字路に戻った。久々の会心のクライミングができた。満足だ。パートナーの二人には聞いてみなかったが、二人も同じような満足感を味わえたのだろうか。そうであってほしい。