私で五代目になる堺の鍛冶職人です。
私の師匠である父に教えられたことですが、良い包丁を作る為には、なんといっても温度。火造りの温度、焼き入れの温度が大切です。材料も色々ありますが、その材料を生かすも殺すも温度です。材料に合った温度で作ってやれば切れ味は同じです。しかし実際は材料の値段、工程の手間で包丁の値段は変わってきますが、包丁は温度が命。火との真剣勝負です。
私の使用している材料は、鋼は青二鋼か白二鋼です。鉄は極軟鋼です。これを鍛接して1本の包丁にします。
青二鋼と白二鋼の違いを簡単に言えば、青二鋼は白二鋼よりも硬いという違いです。
青二鋼と極軟鋼を鍛接する時は硬い物と軟らかい物を鍛接するのでキズがでやすいので注意が必要です。そしてワラ灰に入れて焼鈍する時もシビアな温度調節をしてやらないとダメになります。
白二鋼は青二鋼より鍛接しやすいし、焼鈍する時も青二鋼よりは少々温度調節の差は幅があります。しかし、焼き入れに関しては白二鋼は注意が必要です。少しでも温度を間違うとクモ(ハガネの面に空に浮かぶ雲のような白い斑点)が張ります。クモは大きく分けるとベタグモ(ハガネの面に大きく白くクモがはる)とトビグモ(ハガネの面に小さなクモがところどころにでる)に分けられます。トビグモは許容範囲ですが、ベタグモの付いた白二鋼はその時点でダメな包丁になります。全然クモが無い包丁が一番良いのです。
青二鋼と白二鋼ては包丁の値段は違いますが、料理人のためにどちらも鍛冶職人が魂を打ち込んだいい包丁を作るよう心がけて仕事をしております。
私は堺で包丁を作っていますが、私の包丁は堺で売られていることはありません。私の名もでていません。しかし私の作った包丁はどんなに使った包丁でもわかります。板場さんが聞くとTああっ あそこの包丁Uとわかるところの包丁を作らせてもらっております。そしてこの度、私は自分で作った包丁を自分の銘を入れた包丁を販売したくなったのです。
T静爽U「じょうそう」と読む銘です。静かな動きで爽快な切れ味という意味を込めてつけました。私は自分の仕事には自信があります。だから私の包丁はでどれだけ板場さんに喜んでもらえるか、どうなんだろうと、生の声を聞きたいと思い決めました。今のところインターネットでしか販売しておりません。しかし今まで作った包丁は多くの料理人に愛用されているのも事実なんです。HP上で包丁の事を全て伝えるにはムリがありますし、包丁を手にして確かめてはじめて買われる人もいるでしょう。高飛車な言い方になりますが、包丁を道具としてとらえ、包丁に詳しい方は私の包丁を選んでみてください。榎並 正の仕事を感じてください。
静爽の包丁はこういう切れ味なのかを理解していただけると思います。