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No.216: 今日はレッスン (2007.4.24)

もういよいよ予備試験が近くなってきたのだけど、今日、先生に、「予備試験にパスするのは難しいよ。たくさん落とされるよ。あと2週間しかないよ。」などとおどされる。
レッスンの後、本選コンクールのピアノ伴奏者を決めなければいけない、という話になって、3人ほどのピアニストの電話番号を教えていただいたのだけど、先生が「この○○さんは、きれいな人なんだよねー」などと言っているので、「あ、それじゃあ、その人にします。」と言ったら、みんな爆笑して大うけしてしまった。
・・・フランス人にでうけた冗談、これが始めてかも。

じつは、これまでも何回か冗談を言ってみたことはあるのだけれども、ぜんぜんうけなかった。
なんというか、日本人の冗談というのは、自虐的というか、謙譲的というか、例えば自分のヘマぶりを披露したりして、それに対して相手は『いやいやそんなことないですよー』などと笑いながら受け答えるタイプのが多い気がするんだけど、ここでそういう冗談を言うと、なんだか一同シリアスな顔つきで黙ってしまうので、あせることになる。



いつもの通学風景。「ポン・マリ」のメトロの入り口。
歩道が濡れているのは、毎朝、清掃員が徹底的に掃除をするから。


いつもこれに載っていく。で、オペラ駅で1回乗り換え。

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No.215: カフェ・ツィマーマン (2007.4.23)

一昨日のラジオ・フランスのバロックオペラの演奏が妙に新鮮で、バッハも聞きたくなって、今晩、唐突にバッパのコンサートに出かける。
(じつは、明日レッスンなんだけどな。・・・ま、いいか。)
場所は映画のアメリにも出てきた北駅のすぐ近くの「Theatre des Bouffes du Nord」というところ。行ってみると、近辺、なんとなくあやしげな雰囲気の界隈だ。
演奏は「カフェ・ツィマーマン」というグループて、プログラムは、バッハの管弦楽組曲5番、チェンバロ協奏曲BWV1052、ヴァイオリン協奏曲BWV1041、そして、フルートの管弦楽組曲第2番!

会場に着くと、この会場、小さなオペラ座みたいな形の会場なのだか、オペラ座のようにピカピカに修復しているわけでなく、かなり朽ちている。でも、それが逆になんだかいい感じ。

この「カフェ・ツィマーマン」楽器編成がおもしろくて、第一ヴァイオリン1人、第二ヴァイオリン1人、同様に、ヴィオラ・チェロ・コントラバスが各1人の、たった5人のオーケストラなのだ。それに、チェンバロが加わる。(でも、これが、チェンバロと絶妙の音量のバランスの編成であることが、あとでわかる。)

いざ演奏が始まってみると、これがまたなんとも新鮮なバッハ!
心地よい音色と和音の響き。そして、生き生きとしたリズム。
なんて楽しいバッハなんだろうね!
バッハというと、難しい歴史的解釈をとくとくと述べる先生方や、深い精神性を語る評論家たちや、いろいろな薀蓄を語るアマチュアもたくさんいて、日本でバッハを演奏するとなると窮屈でしょうがないのだけど、そんな講釈やら解釈やらを一気に飛び越えたような、目の覚めるような楽しくて新鮮なバッハ!
なんだか、『恋愛に理屈はいらない』なんていうフレーズが頭に浮かんできてしまうような、そんなかんじだ。

しかし、軽くて甘くて心地よい音と響きでありながら、聞き手の集中が途切れることなく、音楽と聴衆を、曲の最後まで一気に引っ張っていってしまう。
これはなんとも不思議で、なんだろう、と思ったのだけど、これ、軽くてしなやかだけれども、強力な推進力を持ったリズムのせいかもしれない。
・・・いや、きっとそうだ。オペラ座の管弦楽団も、甘くて軽くて、しかも内容の薄いバレエ曲を弾いていても、なぜか新鮮な生き生きした躍動感にひきつけられるのは、やはり、この、軽くてしなやかで強い推進力のリズムがあるからなのかも。

フランスでの滞在期間もだんだん短くなってきてしまったけれども、ぼくにとって残された課題のひとつは、このリズムかもしれないなぁ。
これも、たぶん、ここでしか学べないもののひとつだろうな。



北駅の周辺は、こんなような雰囲気の店ばかり。
このあたりを歩いている人たちも、白人系が極端に少ない。


「Theatre des Bouffes du Nord」についたとこ。
ほんとうにここかな? というようなかんじ。


やばいぐらい朽ちた独特の雰囲気が、なんだかかえって新鮮。


全体の構造は、小さなオペラ座みたいな作り。


カーテンコール。いやー、本当にいい演奏会だった。
いま、ネットで調べてみたら、彼ら、かなり有名な演奏団体みたいだ。
なんだか、ぼくがふらっと出かける演奏会、なぜかいつも運がいい。

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No214: 日曜日 (2007.4.22)

きょうもひたすら試験曲の技術的な弱点の洗い出し、という地味な作業をやっていたのだけど、フランス人もこういう作業、やるのだろうか?
どうも、フランス人の女の子のレッスンの様子から察するに、そのへんなんともいいかげんで、たぶんやってないだろうな。なんだか、いきおいだけでやってる気もする。
そういえば、ランパルのCD、なんだかいろいろディティールがあやしいとこがたくさんあるけど、たぶん、彼はこういう作業をやらずに本番やっちゃってたんだろう。たぶん。
でもこれは、ぼくにとって、本番で崩れないための伏線みたいなもので、いままで本番の前に必ずやってきた。でも、なんだかこれ、いかにも日本人っぽいちまちました作業だなぁ・・・。
いちど、この面倒な作業をやらずに本番をやってみようかな、と、思ったのだけど、卒業試験でいきなり実験するのはリスクが大きすぎる気がするので、日本に帰ってからやってみようかな。
きょうは、そのあと、洗濯に行って、バスティーユのマックで「ロワイヤル・ベーコン」という日本にはないハンバーガーを食って、帰ってから発作的に掃除機かけて、みたいな一日。

ところで、最近、昼間はけっこう暑い。で、道を歩く人たちが、コートにブーツ姿から、開放的な服装に変わってきた。
で、最近、ノースリーブの体にぴったりした白い服を、ノーブラで着て歩いてい人をよく見る。・・・これ、流行っているのか?
着ている人によっては、うーむな感じの人もいることはいるけど、なかにはびっくりするほど洗練された印象を与える人もいる。白い色とデザインによるものだ思うけど、バストトップの形がはっきり出ているのにもかかわらず、意外に清楚な感じで、あんまりエロティックなかんじはしない。(セクシーだけどエロティックじゃないみたいかかんじ。・・・いや、いまの日本語の語感では逆になるのかな?)
不思議なもので、これを見たあとは、もこもこブラジャーをつけて歩いている人の方が野暮ったく見える。
パリを歩いている人の服装をみて思うのは、日本は、かなり器用にパリの流行のデザインを取り入れているんだなぁ、ということ。最近の日本で流行っているようなデザインの服、こちらでもよく見る。ただし、色調は日本よりずっと地味だ。

余裕があったら、帰国までに「LIDO」あたりのヌードショーも見てみたい気もするなぁ。
でも、むちゃくちゃ高いんだよなぁ。



バスティーユの近くのポスト。


バスティーユのオペラ座の向かい側。

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No.213: ラジオ・フランス (2007.4.21)

日本から戻ってきてから、時差ぼけのせいが(?)あいかわらず早起きが続いている。
今日は朝から、試験曲の技術的な弱点の洗い出しのような作業をひたすらやっていて、なんだかうんざりしてきて、夜、またラジオ・フランスの無料の演奏会に出かけてみる。

演目は、ニコロ・ピッチンニというイタリア作曲家のオペラ「トーリードのイフィジェニー」全幕。(知らない作曲家&知らない曲) 演奏会形式。演奏はフランス国立管弦楽団。
しかし、なんでこんなすごいのが無料で聴けるのだろうか??

演奏は、序曲が始まった瞬間から心が躍るような演奏で、本当によかった。
生き生きとしていて、新鮮で、自由で、なんといっても音楽そのものが楽しくて・・・
これは、ぼくが、パリのどの演奏を聴いても感じる共通した印象だ。
そして、これこそが、ぼく自身がずっともとめている音楽像だ。

* * *

じつは、ぼくは、フランスになにか特別な憧れをずっと抱いていてここに来た、というわけではない。
長年、ヨーロッパのどこかで勉強できたらいいなぁ、と、漠然と思ってはいたが、それは、自分の手の届かないところにある、夢みたいなものだと思っていた。
それが、今回、ひょんなことから留学が現実的な話となり、そして、留学先がたまたまフランスに決まったのは、ほんとうに奇跡のような偶然の連続による結果だった。
つまり、結果的に、たまたまフランスだったのである。

フランスに特別な憧れはもっていなかったけど、でも、ぼくは、フランスの若手の現代美術は好きだった。パリのオペラ座のバレエのビデオを見るのも好きだった。それらは、いつも、ぼくにいろいろな音楽的なイマジネーションを与えてくれていた。それから、フランスの近代音楽もけっこう好きだった。
逆に言うと、渡仏前のぼくは、フランスにたいしてその程度のイメージしかもっていなかった。

* * *

ラジオ・フランスからの帰り、バスの車窓から、セーヌ川や、エッフェル塔や、オルセー美術館やらをぼんやり眺めながら、さきほど聴いた生き生きとした音楽を思い出していて、そして、いま、こうやってパリにいることは、本当に幸せだなぁ、と思った。
ここには、ぼくがやりたい音楽がたくさんある。
そして、ぼくは、いま、そういう音楽を学んでいる。
もう、ぼくは、この街と、この街の音楽に、強烈に恋をしてしまっている。
来れたのがフランスで、そしてこのパリで、本当によかった、と思った。



またやってきました。ラジオ・フランス


終演後

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