北村薫

<スキップ(新潮文庫)>
17歳の真理子が目覚めると、そこは25年後の世界。しかも、真理子はもはや17歳の少女ではなく、42歳の高校教師(既婚)。中身は17歳の少女なのに、42歳として生きていかなきゃいけないの? さあ、真理子、どうする?

……という設定の作品。序盤で「主人公は、こんな状況に追い込まれてどうするんだろう?」という興味から話に引き込まれた後は、新米(?)の高校教師として悪戦苦闘する主人公に「がんばれー」という気持ちで読み進められます。主人公の真っ直ぐな気持ちも心地よくていい。

中身は17歳そのままの主人公が、苦労しながらも42歳の高校教師としてやっていくがんばりに素直に拍手しちゃいます。でも、人間って「やるしかない」という状況に追い込まれると案外なんでも可能になっちゃうものかもしれないなー、なんてふと思ったり。それじゃあ、真理子さんの17歳から42歳までの空白の25年間には意味がなかったのか? その答えは、主人公が最後に自分の言葉で痛切に訴えています。

自分が失ったものは二度とこの手に戻らないと悟った。時の欠落は埋めることなど出来ない。だからこそ人間なのだ。再び、十七の時に戻ることなどあり得ない。わたしは、その大きな矢に刺し貫かれた(p.549)

それでもがんばる主人公をすてきだと思った。



<ターン(新潮文庫)>
交通事故をきっかけに、時にもてあそばれる不思議な世界に迷い込んでしまった主人公。その世界では、毎日15時になると前の日に戻ってしまい、延々と同じ日が繰り返されるのだった。さて、どうなる?

……という設定の話。『スキップ』と同じく、設定だけで「この先どうなるんだろう?」とわくわくしてして話に入りこんでしまう。設定だけでも十分おもしろいけど、作品全体を通して漂っている透明感ある雰囲気も心地よい。主人公の持つ真面目さ(←良い意味で)も好き。

 記録することが出来れば、日記が書けたら、どんなに、この流刑地で生きることが楽になるだろう。
 何日前には何をしていたということが残らない限り、明日という日が朧になる気がする(p.150)

 わたしの前にあるのは、砂漠を行くような日々だと思っていた。緑はないと。
 誰も見てくれず、誰も言葉をかけてくれないのなら、……そして何よりも、どうせはかなく消えてしまうのなら、何も生み出すことは出来ないと思って来た。
 そうだろうか。

「そうだろうか?」。僕もこの問いかけに自分なりの言葉で答えられるようになりたい。
……なんて思った(赤面)。


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