小野不由美


屍鬼(新潮文庫)
過疎の進む小さな村に、ある夏、悪夢が襲いかかる。……次から次へと人が死んでいくが、その死因は不明。伝染病を疑い、奔走する静信と敏夫だったが、やがて信じられない事実に直面する。この村を襲っていたのは、一度死んだ人間の「起きあがり」、すなわち「屍鬼」だった……。

という説明をすると、「怖そう……そういうのは苦手だな」と思う人もいるでしょうが(ex.僕)、この作品、怖いだけではありませぬ。「屍鬼」という存在を人間と対比することで、人間社会の常識を非常識に変えてしまうんですよね、この作品。読み進めていくうちに、なんとなく屍鬼にも肩入れするようになって、人間と屍鬼、どちらが正しいのかわかんなくなっちゃう。

「うん。屍鬼も人も似たようなものなのだけど、ひとつだけ違うところがある。屍鬼は自らの残虐性に自覚的で、人は無自覚だというところだ……」
 自らの罪を理解している。屍鬼はどうしても、理解せざるを得ないのだ。善ではない自分に喘ぐ。善であることを疑う余地もない自明の事柄だとして確信している人間との間の、唯一にして圧倒的な差がそこにある。(『屍鬼(五)』p.192)


全五巻というかなりの長編ですが、時間をかけて読む価値のある大作です。ただし、序盤戦は、登場人物が多くて話に入るまでに多少時間がかかるかもしれません。……が、そこを凌ぎさえすれば、あとは一気に読み進められるはず。