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  黒点


――おまえのめは節穴か。
――はい。

よるのまんなかにぽつんとあいた、ちひさなあなです。
空のむこうに透けてみえる月鏡と、丁度はんたいのものです。

べつたりと黒塗の、さう、すべてすひこんでしまふ黒です。

――ブラックホールみたいなもんか。
――いいえ。

よるのあなつて、怖いでせう。
くろぐろとくろくつて、見とほせなくつて、ふつ
と、おちてゆく。……
のぞきこむと、その奥にすひこまれるでせう。
のぞきこむと、その奥からなにかふきあがつてくるでせう。

ブラツクホオルではありませぬ。むしろ黒点。……

わかりましたか。
わかりましたか。
わかりましたか。

――そんなものわかるか。
――はい。

あなの深淵には、なんにもありませぬ。
よるのまんなかにぽつんとあいた、ちひさなあなです。
うつろなふしあな。

よるのあなつて、怖いでせう。……

――よるのあなって、こわいでしょう?


ふと見上げると、青い大気の底で月がしずかにかがやいていた。
とうめいな宇宙に月の光がしんしんと響き渡っている。
世界は美しい夜。
僕はほっと安心して、
ちいさなあなを秘めた。

厳然と存在してゐる、
世界でいちばんたしかなもの。
……
     

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