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  ひとつの宇宙


 断章。

 宇宙線に殺される毎日。
 玻璃球の音が鳴り響く。
「いや、ケレン味が足らない」と言って彼は私にはまったく意味不明な装飾をゴテゴテと施し始めたのだ。謎のフォルムの物体は、みるみるうちに輪をかけて奇天烈な姿を獲得していった。ああ。私は額をおさえた。この男は外連味とおサイケを履き違えている。やがて彼は満面の笑みをもって振り返り、制作完了を告げた。素晴らしい個性と強烈な視覚的インパクトを備えたまったくわけのわからぬ大仰な代物が目の前に誕生していた。彼によれば、この物体の姿形は宇宙をあらわしているのだという。色とりどりの宇宙だ。やかましくて、派手で、無数の星々のひとつひとつが轟音を発していて互いに不協和音的に全宇宙にわたって響き合っているかのような酷い宇宙だ。岡本太郎が作品に余計なものをたっぷりと盛り付けてしまったかのような最低な宇宙だ。いやだ。題『ヘビメタ宇宙』。彼はこの小さな宇宙にそう名づけてしまった。君は小宇宙を感じたことがあるか。感じすぎて困る。
 ちがう、そうじゃない。
 ちがふ、さうぢやない。
 地球の表面張力の張りつめたぎりぎりのバランスの成せる蒼穹のアーチを底から指でなぞる。
 出そうで出ないくしゃみがあくびになって大気に浮かんで溶けた。

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