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   SWAN Lab.



 あゝ。地平線に夕陽が沈ム。素晴らしい夕焼けだ、素晴らしく焼けるやうに灼熱だ焼きごてなんてもんぢやない巨きな酷い太陽が女陰からこの身に燃え乍らもぐり込むんだ、もろともに身体も灼けて爛れてしまふんだ、あゝ熱い熱い、熱いまンま突き入れられてゐる圧し込まれぎゆつぎゆつとアヽまう駄目ダ死ヌ死ンでしまふ胎内が焦げる溶ける引攣れるなかが破けてしまふ身体をつらぬいて口から突き破つて出てしまふ。苦しくて、苦しくて、なみだが止まりませぬ。其れなのに、こンなに苦しいのに、死ぬほどに苦しいのに、その坩堝のなかにある我が身が熱く、憐れで、我が身を憐れんで恍惚となつてしまつて、あゝ。なみだが止まりませぬ。
 移動要塞の甲板で、吹き曝しの此処で世界中にまんかうを晒して犯されてゐるわたくしは、見渡す限りのこの大地も、空も、遥か地平の彼方から渡つてきた風さへも憎たらしい、わたくしを吹いても仕方が無い。王に犯されて、まう、こんなに犯され續けてゐるといふのに、わたくしは。
 告発はできませぬ。殺されてしまふ、否、死ぬことも赦されぬ。逃げることなど到底無理。諦め受け入れてしまふしか無いのです、わたくしは、まう、さうやつて、鬼のやうな王の鬼のやうな卑猥な金棒を、親に貰つた身体で、このちひさな身体で、受け入れ續けるしか無いのです。わたくしの女など、まう無い、まう無い、とつくに壊れてしまつた、其れでも毎日々々々々々々、あの臭い汚い子種を、子宮にブチ撒けられるんだ。いつそ飽きて捨てられてしまへば良いのに。
 わたくしは、白鳥。おもて向きはスイと澄まして清らか麗はしく優雅に振舞ひ、其れでゐて、みなもの下ではまんかうを汚らしく拡げて性欲の餌をむさぼり食つて大量肥育だ、白鳥のくせに色欲旺盛、桃だ紫だ色とりゞだ、いつのまに此んなになつてしまつたのだらう、でも是がわたくしだ、王にお似合ひだ、可哀相に。
 今日はおんもで風に当らう、景色を眺めやう、とわたくしを連れ出してくださつた。王の愛玩となるのも気に入つていたゞくのも斯うも辛く苦しいものなのか。王に侍ひ仕ふ女中たちも、此んな目に遭つてゐるのか、あののぞみといふ娘は、もつと酷い仕打ちを受けて来たのだらうか。学業と研究ばかりに没頭してきてしまつた自分が憎たらしい、あゝ此んなことも判らないほどの阿呆だとは思わなかつた。
 王の動きがはやくなつてきた。どンどンどンどンとわたくしのおなかの中を叩く、その突きの強さに息も詰まるといふものだ。四ツん這いであゝあゝと情ない聲を出してゐたわたくしの喉もまう好い加減疲れてしまつて、ひイひイと風の抜けるやうな音しかしない。どンどンどンどン、ひイひイひイひイ。どンひイ、どンひイ、間抜けな律動にいかれてしまつてゐる、世界も、王も、わたくしも。王の手がわたくしの胸をまさぐる、慣性のまゝに揺れる両乳肉をわしと捕らへてぐにやぐにやと弄り、乳頭を男の指先で擦り押し潰し、其のまゝ乳房の中心に向かつて圧し込む――乳首が王の指先と一緒になつて乳房の肉の中に埋まり、乳腺もろともに刺戟し合つて、アヽ、ふううと息が漏れてしまつて、身がぶるると震へる、屹度まんかう汁も余計に分泌されたのだらう、此れが王の思ふ臺だ、此んなに王の望むやうに反応してしまふこの身体が憎たらしい、わたくしの身体なのに、わたくしの思ひどおりにはならない、王のお望みのまゝだ。まう如何にでもなれ。
 髪ふりみだし、汗みずくになつて、汗がだらだらと、まんかう汁もだらだらと、あゝ臭い臭い、女臭い、なンて女臭いんだわたくしは。王も汗だくでわたくしにその御身を叩きつけていらつしやるといふのに、わたくしの汗と女陰の臭いしか鼻腔に感ぜられないのがせつない。孤独だ。わたくしは王と世界の前で孤独だ。遥な地平線が広大な夕闇に熔けて夜。一番星、二番星……地平を蓋う蒼穹は天辺から漸ふ藍色で、其処から吹きつける風がつめたく王と我が身を吹く。二人して風に吹かれて丸くなり風の繭の中で湿つぽいぬるまつこい汗と女の臭いの混じつた蒸気を吸つて吐く。又吸う。わたくしたちを吹き過ぎる風のつめたさに、身体の触れ合つた部分だけが熱く、たゞたゞ熱く熔けて感ぜられて仕様が無い。
 うゝと王がちひさく呻きを洩らした。わたくしははたと気がついて、腰を動かすのを抑へる、王の好きなやうに、王の動かすまゝに任せ、ひたすら王の御望みに従ひ、なるべく王にねつとりと絡みつくやうに心を砕く。さうやつて膣腔を殊更に意識してゐると、膣がじわりと沁みてますます熱く感ぜられ、其処に潜り込んだ王の身体の熱と一体となつて熱く熱く昇り詰めていつて――あふれてしまふ、まう、訳がわからなくなる。あふ。
 そのとき、耳元に届く息遣いが一際深く激しくなつて、吁ーと云つて、わたくしも、唖ーと云つて、……王が果てた。ぐちやぐちやのまんかうのなかで、溺れた。ぬるぬるの女汁にまみれて逝つてしまつた。あゝ。身体の奥に精を感ずる。感じて勝手にかくかくふるふるとふるへてしまふ。まう救い様も無い身体なのに、ふるふるとふるへて悦んでゐるのだ。其んな身体の不可解も、戯れに抱いてゐるくせに、其んなわたくしの身体だと分つてゐるくせに、其れでも子宮口に尿道口を押し当てて全霊を振り絞つて精を注いでしまふ王の男性も、いまは皆ンな愛ほしくなつてしまつて。夜風に吹かれて、あたゝかい。わたくしの女の性が是で満足してしまつてゐるやうで。――せつない。此のなみだは王にみられたくない。……
 ――紅鶴。
 あゝ可愛い紅鶴。
 わたくしの身体は此処ですよ。
 ……
                  (續)


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