【離島編:長崎県五島列島福江島の巻 1998/07/17〜18】

 ・00時01分発の野母商船「フェリー太古」で博多埠頭から出航した。 目的地は、九州の最西端五島
  列島福江島。 9時間の船旅である。 運賃は、5,340円。                 

 ・出航時刻は深夜のため、寝酒を飲んで早めに寝ることにした。 するめをあてに、500ml の
  缶ビールとワンカップの日本酒を飲んだ。 飲みながら、未知の福江島に想いを致し、既に頭の中
  はウォーキング・モード一色になっていた。                        

 ・17日。 フェリーは、早朝から、五島列島の島々に立ち寄りながら、福江島を目指した。 立ち寄
  る港は、どこも青緑の美しい海の色をしていた。 朝食は、フェリーのレストランで頂いた。  
  確か、カレーライスだったと思う。 当日は、とても天気がよかった。            

 ・09時ちょうど、定刻に福江港桟橋に着岸した。 降客は、数百人程。 かなり盛況だった。   
  桟橋に降りた人々は、時間の経過とともに、何処かに吸い込まれて行った。 私は、近くのお店で
  食パン1袋、インスタント・ラーメン1袋、そしてソーセージ2本を仕入れた。        

 ・商店街を抜けて、少々歩いたところに、南北への分かれ道があった。 私は、北側つまり福江島を
  反時計回りのコースをとった。 福江島は、結構大きな島である。 しばらくは、何にも無い自然
  の中を、一人で黙々と歩いた。 自然の空気は、本当においしい。 肺の中を綺麗にしてくれる。

 ・2時間半ほど歩いた。 お腹が空いてきたので、食事を摂ることにした。 場所は、小高い峠付近
  だった。 どちらかといえば、草原の部類で、背の低い雑木が混じっているといった所だった。 
  風の吹かない場所を選んで、携帯ガスコンロをセットし、湯を沸かした。 沸騰した鍋に、インス
  タント・ラーメンを入れた。 鍋に入ったラーメンを食べるのは難しい。 スープを飲むときは、
  注意しないと、唇を火傷してしまう。 1回目の昼食メニューは、食パンとラーメンだった。  

 ・お腹が大きくなったので、元気が出てきた。 峠を過ぎた後は、海岸沿いの道になった。 引き続
  き、特徴の少ない自然の中を歩いた。 2時間ほど歩いたところに、公園の様なところがあった。
  何という名前かは分からないが、噴水みたいに、上向きの小さな穴から水の出てくる水道の蛇口が
  あった。 栓を回すと水が勢いよく噴出した。 水は生ぬるかったが、とても美味しく感じた。 

 ・水を飲み終わったとき、足元に中犬がいた。 その犬は、私がタイルの上に飲みこぼした水を、舐
  めていた。 そうか、犬は自分で水道の栓を回すことができないので、こうするしかないのか。 
  そう思った私は、両手をお椀の形にして、水をたっぷり満たし、犬の口元に持って行った。  犬
  は、喜んで飲んでくれた。 2杯飲んだ。                         

 ・それで、私と中犬は、友達になってしまった。 わたしの後をずっと付いてきた。 そこで、2回
  目の昼食を摂る事にした。 ソーセージ1本を、半分ずつ分け合って食べた。 食べながら、犬に
  聞いてみた。 「お前は何処の犬か?」 「・・・」 返事が無かった。 首輪を着けていたので
  近くの飼い犬だろう。 「さあ、歩くぞ」と言って、立ち上がって歩き始めた。 犬も歩いた。 

 ・犬と出会って、もう3kmは歩いた。 私は犬に向かって、「もう付いてくるな」「家に帰れ」と 
  言ってみたが、中々言う事を聞かない。 怒った顔をして拳を振り上げると、しょんぼりした顔を
  して、立ち止まる。 これで、よしと思って、歩いていると、いつの間にか私の直ぐ後ろまで来て
  いる。 野良犬なら、一緒に歩いても良いが、飼い犬なので、意を決して、追い返すことにした。
  手を上げて、犬を追っかけた。 かなりしつこく追っかけた。 そうすると、犬は、渋々と引き返
  して行った。 心を鬼にした後は、何故かむなしさだけが残った。 4km位一緒に歩いた。   

 ・犬と出会ったのは岐宿長、別れたのは三井楽町。 三井楽町。この辺りは、九州最西端とのことだ
  った。 上り下り4km位の峠を越えた。 後は、宿泊予定の荒川まで10km、山や海岸沿いを歩いた。
  18時過ぎ、民宿「きはらし荘」に到着した。                        

 ・素泊まり。 朝飯付き。 
  夕飯は、近くの惣菜屋さんみたいな店で、天婦羅(野菜のかき揚げ)と、酒の自動販売機で 500ml
  缶ビール2本、そしてワンカップの日本酒1本だった。 宿は、私の外に数組の泊り客がいた。 

 ・翌日18日。 朝から曇り空だった。 前日が陽なら、当日は陰だった。            
  玉之浦町。 そこは島の西岸から南岸に跨っていた。 前日は海岸沿いの低地が多かったが、当日
  は、アップダウンの激しい山道だった。 海岸は近いが樹木で視界が遮られているところが多かっ
  た。 高いところの山道は雲の中である。 坂を下れば雲の下。 また登れば雲の中。 アップダ
  ウンの繰り返しで、相当体力を消耗し、時間を費やした。 その内、雨が激しくなって、ぐちょぐ
  ちょになってしまった。 バスの通らない山道。 自力で歩くしかない。 地図だけでは想像する
  ことができなかった。 これは、自然が私に課した試練なんだろうと思った。 苦しかった。  

 ・そういう訳で、歩行スケジュールが大幅に狂ってしまった。 そのままだったら、17時10分の船に
  間に合わなかった。 そのため、歩くのを諦めて、富江町のバスターミナルから福江港まで、バス
  を利用した。 16時頃福江港に到着した。 フェリーの出航前1時間だった。         

 ・行きのフェリーで一緒だった3人の女性グループが、私に声をかけてきた。 多分、海水浴にきた
  人たちだろう。 女性の一人は私に「どちらまで行かれましたか?」と聞いてきたので、私は「福
  江島を歩いて一周しました」と答えると。 びっくりした表情をしてたが、「物好きね」とも思っ
  ただろう。 私自身、自分のことを「物好きな奴」と思っている。              

 ・帰りは、九州商船で長崎港まで。 17時10分福江港発、20時30分長崎港着である。       
  長崎まで3時間以上もかかる。 運賃は 2,400円。 思えば遠くに来たもんだなぁーと思った。