【6日目:1997/06/23:熊本県八代市】

 昨日来の雨は上がっていた。心なしか雲も薄めに
感じられた。この分だと、青空は近いと思った。 
当日朝は、昨夜の喧騒の影響で、完全に寝不足状態
だった。                   

 脚は、もう痛まなくなっていた。我慢して続けた
甲斐があった。休憩の回数も減ってきた。この分だ
と「九州一周達成は可能かな」と心の中で言ってみ
た。                     

 国道3号線は、JR宇土駅を少し過ぎた頃から道
幅が広くなり、舗装も立派になっていた。大変歩き
易かった。また、道路の起伏は殆どなかった。  

 歩き始めて6日目。道路には、多種多数の動物の
なきがらが横たわっていた。はと、からす、すずめ
かえる、いぬ、ねこ、そして名の知れぬ鳥。人は亡
くなると、一定の儀式を行い、未知の世界へと旅立
つのだが、この動物達にはそれがない。でも、それ
が、彼等の生き方、いや、死に方(?)なのだ。 

 宇土市、松橋町、小川町、竜北町を通過、そして
宮原町に入って行った。その頃、私と同じ様な格好
をした一人の「ウォーカー」の存在に気付いた。 
その人は、逞しく日焼けして、脚の筋肉がきりっと
締まった好青年だった。            

 彼とは、進行方向が同じだった。そして、歩行速
度もこれまた同じくらい。必然的に競合した状態で
進むことになった。そのため、どちらからともなく
夫々道の左右に分れたり、小休止をとって時間をず
らしたりしながら、JR八代駅の近くまで「ランデ
ブー」した。                 

 JR八代駅。列車では何度か通過しているが、こ
うやって駅前を訪れたのは、今回が初めてだ。駅前
でたむろしていた女子高生に、駅舎をバックにした
写真撮影を頼んだ。その節は、ありがとうございま
した。                    

 駅前で、構内タクシーの運転手さんと、いろいろ
雑談をした。そして、話が「翌日の予定」に及んだ
ので、私は「三太郎峠の各トンネル事情」について
尋ねた。三太郎峠とは、八代側から、赤松太郎、佐
敷太郎、そして津奈木太郎の3つの峠の総称である
事は、皆さんご存知のところである。      

 私「三太郎峠のトンネルには、取付歩道がありま
   すか?」                

 運転手さん「意識して見た訳ではないので、はっ
   きり断言は出来ないが、あそこのトンネルは
   昔からの古いトンネルで、幅も狭い。歩いて
   通るのはきけんだよ」          

 私「そうですか。仕方がないですね。どうしよう
   かな・・・」              

 運転手さん「八代港からフェリーで天草に渡り、
   上島を縦断し、本渡港からまたフェリーに乗
   って水俣に行くルートがあるよ」     

 私「そんなルートがあるんですか」「それで行き
   ます」                 

「渡りに舟ってきっとこの事を言うのだな」と確信
した。JR八代駅構内タクシーの運転手さん、あの
時は大変お世話になりました。本当にありがとうご
ざいました。                 

 八代駅付近のビジネスホテルで宿泊。「今夜は昨
夜の寝不足分を取り戻そう」          

 つづく。