【4日目:1997/06/21:新たな決意で九州一周へ】

 4日目の回想に入る前に、ここで少し時間をさい
て、「歩いて九州一周」を決断した経緯を振り返り
たい。                    

 3日間かけて「取り敢えず」歩いた事を、仕事上
のパートナーであるM女史に話してみた。返ってき
た返事は「そこ(熊本)まで行ったのなら九州一周
されたら如何ですか」だった。私は、それに応えて
「そうだね」と言った。いや、言ってしまったとい
った方が正確だったかもしれない。       

 手拍子とはいえ、彼女の提案を一度肯定した以上
こぼれた水を盆に戻すような事をする積りはない。
この瞬間「歩いて九州一周」は決定した。    

 その時点での私の心の中は、「やるぞ」と言う気
概で満ち溢れ、「やれるかな」と言った不安な気持
ちなど全く無かった。             

 それでは、新しい決意で臨んだ4日目からの回想
を続けることにしよう。なお今回は、仕事が一段落
した時期だったので、思い切って1週間連続で休暇
を取った。そのころ、私の勤めている会社では、1
週間連続しての年次休暇取得を奨励していたので、
これ幸いであった。              

 当日の歩行開始点は、熊本県鹿北町堂原である。
自宅から久留米までJR。久留米からバスで同地ま
で行った。堂原出発はお昼ごろになった。    

 前回からちょうど1ヶ月経過した頃だった。この
間は、休日を利用して、自宅の近場で歩行の訓練を
行ってきた。そのため、歩く事についてはかなり自
信が付いていた。また、脚が痛いと言う様なことも
なくなっていた。               

 当日は、午後からの歩行と言うことで、いわゆる
「半日コース」であった。空模様は曇りであった。

 2時間ほど経ったころ。山鹿市の温泉町を通過し
た。山鹿市は、山鹿灯篭と温泉で有名である。街の
至る所に、山鹿踊りをあしらったデザインのタイル
や、橋の欄干の飾りなどがあった。目を惹いたのは
街の中の児童公園らしきところであった。そこには
子供連れの若いお母さん達が沢山いた。よく見ると
公園には30cmほどの深さの人口の川があり、そこに
は温泉の湯が導かれていた。子供達の格好の水浴び
ならぬお湯浴び場だ。さすが温泉町。      

 そのうちに、九州自動車道の植木インターの下を
よこぎった。暑さでのどが渇いた。3号線の右手つ
まり西側の道路傍に果物屋があった。大きなりんご
を1個買った。果物屋の女将さんから声をかけられ
たので、「歩いて九州一周しています」というと、
女将さんは冷蔵庫から一切れの冷たく冷えたスイカ
を取り出してきて、「食べなさい」と言ってくれた
。もちろん美味しかったが、それ以上に親切な女将
さんの気持ちに対して嬉しかった。       

 空には黒い雲が増えてきた。いつ雨が降ってきて
もおかしくはない。そう思いながら歩いていると、
道の左側にビジネスホテルを見つけた。よし、今日
はここまで!一人旅だから決定は即である。   

 ホテルに入ると、間もなく大粒の強い雨が降って
きた。もう少し遅れていたら、びしょ濡れになって
いただろう。熊本県植木町泊。         

 つづく。