【3日目:1997/05/20:福岡から熊本へ−その1】

 前夜は十分に休養をとった。そのせいか、当日の
朝は脚の痛みが和らいでいた。「この好状態を大事
に壊さぬようにしなきゃ!」「今回の旅の成否の鍵
は、今日の[あるきんぐ]にかかっている」と思っ
た。                     

 プロローグでも述べている通り、当回の歩行旅行
は、とにかく熊本辺りまで歩く事が目的であった。
と言う事で、その日はシリーズの最終予定日。自分
の脚で、実際に福岡県と熊本県の県境を跨ぐ日であ
る。体力の限り歩くつもりであった。      

 また、この頃までは、【九州一周】する考えなど
全くなかった。                

 歩き始めた。姿勢を正し、歩幅を一定に、且つ等
速で、脚を思いやりながら歩いた。       

 3号線を一路南へ。広川町、八女市そして立花町
へと。この辺りの小学児童や、中学の生徒は、私と
すれ違う時にちゃんと挨拶してくれた。都市部では
全く考えられない事である。一人で黙々と歩いてい
ると、多少人恋しくなる。このような時に、「おは
ようございます」「こんにちは」と声をかけてくれ
る。大変嬉しかった。「ありがとう」      

 福岡県立花町は、熊本県鹿北町と小栗峠をはさん
で隣接する県境の町である。私は、小栗峠付近を水
源とする辺春川(へばるがわ)に沿って、上り勾配
を進んだ。いくら歩いても、いくら歩いても、未だ
まだ立花町。それもその筈、この町は南北に15Kmも
ある、大変大きく広い町である。        

 朝方は状態の良かった脚だったが、曲がりくねっ
た、山間部の交通量の多い、歩道のない道を歩き進
むにつれ、再び痛みが酷くなってきた。また、幅員
が狭く、腰を下ろして休憩するスペースすらない所
では、「神様が俺をためしている」と思いながら歩
いた。すれ違う大型トラックの疾風で、なんども帽
子がとんだ。                 

 つづく。