Touring5(9月24日) 戻る


9月24日(金)p.m.00:30〜p.m.3:00 曇時々雨

襟裳岬YH→襟裳岬SS→336→236→38→帯広レッドバロン→(JR)札幌→カプセルイン札幌
総走行距離 124km
総走行時間 2時間30分
平均時速 50km
宿泊費 カプセルホテル 3200円
食費 (朝)YH600円 (夕)カレー650円
交通費 JR (帯広→札幌) 乗車券 3210円(学割使用時 2560円)+特急券 2300円

午前7時頃・・・目が覚めても、そこにはすっきりしたものはなかった。あと1,2時間後に結果が分かる。どう見えても、奇跡がおこりそうにない天気模様。不安ながらに、下におりて、またヘルパーさんが作ってくれたらしい朝食を食べる。テレビを見ながら、ゆっくり朝食を食べるなんていつぶりであろうか?こういう、ゆっくりする旅がいいね。そうこう考えながら、呆然とテレビを見ていたところ・・・「台風は、今夜半から北海道に上陸するでしょう・・・。」予測通り、北海道に台風が直撃するらしい。旅人達は、今夜の宿だけはしっかり決めたほうがいいという。・・・俺は果たして動くことができるのか?しかも、地図によると、えりも岬を東抜けるく道はひとつしかなく、その道は雨量が100m以上になると閉鎖すると書かれている。

「はやくしないと、道がなくなる・・・。」

これもまた、あの死線の旅で経験から十分にありえることだと、確信があった。どんどんはまっていく絶望的状態。あぁ・・・もうだめだこりゃ。もうJAFFでも呼ぶか・・・?いまだ最後の希望を捨てきれぬまま、呆然と出発のための荷造りをした。

午後9時。ライダー達が、みな出発しはじめようとしていた。そして、運命の一瞬を迎えてしまった。そう、ついに、ついに、キーを、ONに回してしまった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。駄目だこりゃ。さらにひどくなっている。完全にバッテリーがあがったのか、それとも、もっと他に原因が・・・。またひとつ希望が消えてしまった。あとはバッテリーが原因であることだけに賭けるしかない。はぁ。ほんとについてない男だ。

YHの人が旗を振って、見送る中、ひとりむなしくバイクを押して出発した。とりあえず、教えてもらった”おしがけ”というものをやってみる。ギアをローかセカンドくらいにして、クラッチを握り、バイクをめいっぱいおしていき、いきなりクラッチをつなぐと、すこしだけエンジンがかかるのだ。かかったらすぐにクラッチをにぎり、アクセルをふかせればよいのだが、普通、下り坂を利用すればいいのだが、そういう坂もない。どうがんばっても、うんともすんとも言わない。一日経って、さらにバッテリーがいかれたらしい。そして、なくなく最後の希望を求め、小さなガソリンスタンドに、場を移した。そこには、もう60ぐらいのおやじがいた。

「あの、すいません。バッテリーがあがっちゃって、補充してほしいんですけど。」

「バイク?俺、バイクのこと全く分からないからな〜。」

・・・不安で頭がはりつめる。うう、なんてことだ。僕はひたすら祈った。うまく、いってくれ。ただ、祈った。神なんてものは信じないが、ここまでくるともはやそんなことどうでもいい。ただ、この状況だけを見つめるには絶えられなかった。そう、この現実から逃げたかったのだ。

とにかく、バッテリーを探す。外見上見つからない。もしかすると、磁気のやつかもしれないという。さらに、不安は増す。数分して、座る部分をはずしてみると、見つかった。バイク用のバッテリー。初めて見た。自分の乗っているものなのに、何にもしらない奴って、いるんだよね。これなら大丈夫そうだと言って、バイクを押してバッテリーのある部分に持っていく。+と-のプラグをくっつけ、30分くらいかかると言って、その間GSの中で待つことになった。その間、おやじの人生論について、話を聞いた。そして、時間になって、再びバイクをに行くと・・・プラグが外れてる。・・・・・・・・また30分待たなきゃならないのか?・・・・希望と不安とあせり、そしていじまじる感情。はやくしないと、台風が来て閉鎖も・・・。台風は午後からくるらしい。天気は台風のまさに前兆といえるような、晴れ晴れとした天気。予定は完全に狂いつつあった。バイクさえここで直り、今日釧路までいければまだ取り戻せるのに。北海道一周には、最低5日は必要なので、2日は余裕がある。1日くらいなら、使ってもかまわない。そう考えてながら、ふたたび、また運命の時を迎えた。

「あ〜、だめだこりゃ。まったく電気がたまらない。こりゃ、完全にバッテリーがいかれちゃってるわ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この現実が憎い。結果は、どんなにバッテリーに電気を蓄えさせようとしても、まったくたまらないのだ。プラグをさせば、セルが回せてエンジンがかかるが、はずしたとたんにエンジンがきれる。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうすればいいんだ?考えられる最悪の状況になった。GSのおやじは、いろいろと親切に方法を考えてくれました。ありがとうございます。とりあえず、このバッテリーの代わりになるようなバッテリーを探した。ここら辺の人達は、皆車しか乗らないので、バイクの部品などないに等しかった。それでも、古ぼけたバッテリーをひとつひとつ生きているか死んでいるかを確かめる。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・・どれもこれもほこりまみれのバッテリー。当然、死んでいる。そして、バッテリーがおいてありそうな”なんでも屋さん”らしい、家に電話するが、留守。そうこうしていると、配達していたらしい20代後半か30代の青年が帰ってきた。この人もバッテリーを探してくれた。「ご迷惑かけます。ありがとうございます。」ただ、お礼を言って、観察しているしかなかった。他人頼りで力不足な自分を情けなく思った。しかし、それ以上に人のやさしさに感動した。見ず知らずの人にこんなにいろいろ親切にやってくれるなんて、生まれてこのかたなかった。ほんとうにうれしい。そして、この町から20〜30kmくらい離れた”広尾”という町の知り合いみたいな人に電話でバイクのバッテリー(12V)がないかあたってもらった。一件、二件、三件、四件、五件目くらいで思い当たる場所がなくなってしまった。そうこうしていると、さっきの”なんでも屋さん”の人が帰ってきた。バッテリーを調べてもらう。結果、バッテリーには電気が入っているという。また、バイクバッテリーはないという。まだ午前中に取り寄せれば、明日には届くという。それが一番確実な手段という。・・・またひとつ大きな選択がせまられていた。明日直っても、明日台風がくるので結局2日も足止めをくらうかもしれない。または、無理やり動かして大きな都市でバッテリーを入手するかだ。・・・・そうこう言っていると、GSのおやじが無理やりスクーターのバッテリーみたいなやつを無理やり載せてもらい、なんとか動きそうな雰囲気。しかし、途中でいきなりまた動かなくなる可能性がある。これでいくには、かなりの賭けが必要である。おやじも、急にとまったり急にギアチェンとかすると止まる可能性があると言う。・・・とりあえず、乗ってみようということで、ニュートラルでアイドリングさせているバイクを、ローに入れた。・・・・・とたんに、エンジンが止まった。もちろん、クラッチも握っている。ああ、駄目だこりゃ。

すべてが絶望に満ちていた。どうすればいいんだ?それは自分で決めるしかない。ああ、何でこんなんばっかなんだ。自分の不幸な境遇を呪った。あはは・・・・。あ〜あ、これが俺の人生なんだ。この旅にでる前に、”自分の人生について考えてきます。”なんて宣言した通り、まさにこれが俺の人生なんだ。ろくでもない人生。何もできない駄目人間なうえ、運も悪く、生きてても困難ばかり。あはは、もう笑っちゃうね。

”おしがけ”でかけてみろと言われ、さっきの青年風のおにいさんに後ろから押してもらう。1回目、失敗。2回目・・・うお〜、エンジンがかかった。「ふかせ、もっとふかせ。」と言われ、ぐいぐいアクセルを回す。そのままいけ〜と言われ・・・・ぐい〜〜ん、ぐい〜〜〜〜〜ん。昨日の夕方以来というのに、なんだこの懐かしい感覚は!ああ、動く。動く。そこらへんをぐるっと回り、戻ってくる。そして決断の時。これで、バッテリーの置いてありそうな大きな都市・・・ここからだと、”帯広”が一番近い。そこまで行って、バッテリーを交換してもらう。または、バッテリーを注文し待つ。・・・ここでやめたら、俺の人生も駄目だ。安全なほう、安全なほうばっかの人生じゃ駄目じゃ。ときには、挑戦も必要なのだ。決意を固め、出発することにした。ガソリンをいれてもらい、バッテリーぐちゃぐちゃ動かしたということで、あれだけやってもらって1000円とガス代にまけてもらった。そして、いろいろやってもらったおやじとおにいさんに、深く深く頭をさげ、お礼の言葉をいい、出発した。このときほど、本当に感謝の言葉を言うのは難しいと思ったことはなかった。本当の気持ちを人に伝えることは難しいものだ。

出発したのは、12時半。GSに行ったのは、9時半。3時間も迷惑をかけていたのだ。その苦労を無駄にはしてはいけない。とても慎重に運転する。下手に扱うとエンジンが切れてしまう。1度きれてしまうと、再び押しがけをするしかない。1度もエンジンを止めずに行くしかない。”帯広”まで、約120km。約2時間かかると言われた。それまでNON-STOP MUSIC状態で行かなければならない。つらい。つらい状態だ。これほど、おどおどし不安な気持ちになり、そしてまた、この困難を乗り越えようとわくわくする感情の2つを手に入れたことはない。不安の中の希望。やっとはじめて手に入れた確かな希望。これを達成せずして、なんになる。行くしかないんだ。それにしても、運転が怖いと思えたのはそれがはじめてだった。

そして、俺はやった。”帯広”。その都市に入った。俺は勝ったんだ。そう思った。バイク屋を探す。これだけ大きな都市ならあるはずだ。でも、地図にも載っていないから、”かん”でいくしかない。”かん”で、左。曲がると、まさに希望というものが見えた。レッドバロンの看板があるではないか。

「やった。俺はやったぞ。」

興奮しながら、店の横につけ、バッテリーがまだあるとは限らないので、エンジンをかけたまま店に入る。店の人に、バッテリーがあるかどうか聞いてみたところ、あると答え、そして待っててといわれたので、2時間30分かけつづけてきたそのエンジンをやっと切った。待つこと10分。レッドバロンの店員にバイクを店内に運んでもらい、時間がかかるから、待っていてくださいと言われ、ぼ〜ぜんと待つ。・・・この待つ時間が不安なのだ。早く、早く、うまくいってくれ。俺を安心させてくれ。再び、ひたすら祈った・・・。

「どうか、うまくいきますように・・・。」

・・・15分後、運命は皮肉にも、店員から出た言葉は再び絶望であった。

「ちょっと、やばいですね〜。バッテリーが過剰に電気もちすぎちゃって、このままだと危険です。」

・・・神様がいたら、ぜったい人間不平等にしてるんだろ。そう言いたかった。とにかく、どうにかなりませんか?とひたすら聞く。すると、これを直すには、電圧を制御する部品”レギュレターレクチファイア”が必要だそうだ。これで、ひとつ謎が解けた。あのバッテリーは確かに、電気をもっていたけど、その制御部品が壊れてたから、動かなかったのか・・・。とにかく、その部品の取り寄せが、HONNDAに問い合わせなければならない。しかも、土日は休み。よって、届くのは、来週の月曜かもしくは水曜になりますよ。火曜はと聞くと、うちが休みですといわれた。・・・フェリーは水曜の夜。水曜になると、帰るのすら遅れてしまう。なんとか月曜になおりませんか?とお願いすると、こればっかりはねぇ、分からないですと言う。・・・もう完全に頭がパニックになっていた。なんで俺はこんなに不幸なのだと、呆然と頭の中で繰り返した。そうこうしていると、月曜日なら大丈夫なんですよねと聞いてきて、急いでHONNDAに電話をかけてもらい、なんとか部品を注文してもらう。HONNDAのオーダーストップが3時半。まさに、時間ギリギリであった。月曜日にくると思いますんで、直ったら電話するというので、PHSの電話番号を書いて、その場所を去った。駅に向かって、ひたすら歩き始めた。もう、頭の中は真っ白であった。もう、何も考えたくない。

完全に空白であった。もうすべてがどうでもいい。小さな希望もボロボロにされて、今ここにいる。帯広駅・・・とにかく、札幌に行こう。何も考えはなかったが、とりあえず札幌までいそいで行こうと思い、みどりの窓口で切符を買おうとした瞬間思い出した。

「そういえば、学割持ってくるの忘れた・・・・。」

・・・バイクで旅行するのに、普通学割なんているとは思わない。しかし、今ここに必要としている馬鹿がいた。どうしようもないので、普通料金で買う。660円損して、特急列車に乗り込んだ。何も考えていなかった。ただ、本当に呆然としていた。

「バイクを失うことがこんなにも俺を空虚にさせるなんて・・・・。」

どうでもよい。すべてがどうでもよい。これが俺の人生なんだ。そうなんだ。そして、座席があき、座るとJRの雑誌があり、みてみると列車の時刻が載っているではないか。見てみると、5時過ぎに出発したこの列車は、札幌到着時刻が8時半!?3時間半もかかるではないか。帯広と札幌って、そんなにも離れていたのかと初めて知る。

「いつのまにか、そんなにもバイクで移動していたのか〜。」

ふあ、そんなことはとりあえずどうでもいい。朝食以来何も食べていない。ここではじめて、11時間何も食っていない自分に気がついた。とりあえず、かばんに入っていたおかしで飢えをしのぎ、札幌についた。

札幌、夜8時半。特急に乗るという贅沢をしたので、宿は安くしようとカプセルホテルを探す。しかし、駅の地図にはまったくのっていない。いくら探しても乗っていないので、すすきの方面に歩くことにした。あると言うことは知っていた。なぜなら、2年前来たときもカプセルホテルは見ている。

大きな荷物を持って歩く。空しい。本当に空しい。なぜ、俺がこんなところを歩いている。本当は、今釧路の町を歩いていたはずなのに・・・・。考え出すと、止まらない。北海道二日目にして、もう完全に途方にくれている。あれほど、計画していたものは何だったんだ?そうこう歩いているうちに、すすきのに着く。あたりを見渡すと、やった、見つけた。しかし、1件目は満室。2件目は、空き室があり、やっとおちつく場所を手に入れる。とりあえず、荷物を置き、夕飯を探す。夕飯を食べ、すすきのを街を歩く。人がいっぱいいる。歌っている奴らにたまる人にまぎれて、歌を聞きながら、また自分の状況下を嘆く。

「もう、どうでもいいか・・・。」

そして、再び、すすきのの街に消えた。