昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
ある日、お爺さんが畑で種を蒔いていると、古狸がやってきてせっかく蒔いた種を食べはじめました。
それに気付いたお爺さんが狸を追いかけると、狸は素早く逃げ出します。
次の日も、その次の日も狸はお爺さんが蒔いた種を食べてしまいます。
「この種は明日へと繋がる希望の種ッ!それを芽吹く前に掠め食らうとは、古狸ッ!絶対に許さん!」
怒ったお爺さんは畑に罠を仕掛けて狸を捕まえるのでした。
「ただでは殺さん。狸汁となって罪の重さを悔いるがいい!」
捕まえた狸を家に持ち帰ったお爺さんは、天井から狸をぶら下げるとお婆さんに狸汁の準備を頼んでまた畑に戻りました。
お婆さんが狸汁の用意を始めたので、狸は何とか逃げ出すためにジタバタと暴れますが、縄は全く緩みません。
そこで狸は、哀れそうな声でお婆さんに訴えかけます。
「お婆さん、お婆さん。縄がきつくて手足が痛いよ。少しだけ緩めてくれませんか」
「駄目じゃ。そんな事をしたらお前さんは逃げ出してしまうじゃろ」
お婆さんは狸の頼みを断り、狸汁の準備を進めます。
このままでは埒があかないと思った狸は、しばし押し黙った後、遠慮がちにお婆さんに話しかけました。
「…大変そうですね。お手伝いしましょうか?」
「そういって、逃げ出すつもりじゃないのかい?」
「とんでもない。もう諦めました。ただ、最期に少しくらい良いことをしておかないと、地獄で針山に登らされてしまうじゃないですか」
そこまで言うなら、とお婆さんは狸の縄を解いてやりました。
しかし、狸は自由になるやいなや本性を現し、近くにあった棒でお婆さんを殴りつけます。
お婆さんはその場に倒れ、死んでしまいました。
狸はお婆さんの肉を細かく切り分けると鍋に放り込み、残った骨は流しの下に押し込みました。
そしてお婆さんに化けてお爺さんの帰りを待ちます。
しばらくするとお爺さんが帰ってきたので、狸はさっそくお爺さんに婆汁をよそってあげました。
お爺さんはお椀を受け取ると満足そうな笑みを浮かべました。
「これがあの狸のなれの果てか…。愚かな畜生であった、儂の前に現れなければ長生きできたものを。む、これは!」
婆汁に口をつけた瞬間、お爺さんはそれが狸汁ではないことに気が付きました。
その瞬間、狸は正体を現してお爺さんを囃し立てました。
「やーい、爺は婆汁を食いおったー。流しの下の骨を見ろー」
「な、なんだと……。」
驚愕の表情でふらふらと流しへ向かったお爺さんは、確かにお婆さんの骨が転がっているのを確認しました。
「狸!貴様、貴様貴様貴様ァァーーーッ!!」
怒りに燃えた目で睨みつけるお爺さんを尻目に、狸はさっさと山へ逃げてしまいました。
後に残ったお爺さんはただただ血の涙を流し慟哭と憎悪の海に沈んでいきました。
「儂が、儂があの狸めを殺しておかなかったばかりに!儂の甘さが婆さんを殺したッ!憎い。婆さんを殺した狸も、それを防げなかったこの儂自身もッ!」
そうして涙も枯れ果てたころ、一羽のウサギがお爺さんの家にやってきました。
「どうしたんですか、お爺さん。畑仕事もしないで。」
「…婆さんが死んだのじゃ。あの狸めに殺されたのじゃ!善良な婆さんを騙し縄を解かせただけでは飽き足らず、卑劣にも恩人である婆さんを婆汁にしたのじゃ!」
「(う、なんか変なテンションだなあ)そ、そうですか、では私がお爺さんの仇を討ってきましょう」
「取引というわけか。いいだろう、儂はあの狸を殺すためなら悪魔に魂を売っても構わん!」
お爺さんは絶望に淀んだ目で答えました。
「(ぼくウサギなんだけど…)とにかく行ってきます。後は任せてください」
そういってウサギは山へ向かったのでした。
山に着いたウサギは狸の生活圏内でこれ見よがしに薪を拾い始めました。
「ウサギどん、何をしているんだい?」
案の定、やってきた狸がウサギに声をかけてきました。
「もうすぐ冬だからね。薪を集めているのさ。君も集めておいた方がいいよ」
「なるほど、それじゃあそうしよう」
まんまとウサギに言いくるめられ、狸はせっせと薪を集めます。
そうして沢山の薪を背負って歩く狸の後ろで、ウサギは火打石をかちかちと鳴らし、狸の薪に火をつけました。
「さっきからかちかちと、何の音だい?」
「貴様が地獄へ堕ちるまでのカウントダウンじゃ」
「(お爺さんいつの間に!?)ちょ、ちょっとお爺さん、ここはぼくに任せて向こうで待っててください!」
いきなりの割り込みに驚いたウサギは、お爺さんを木の陰に押しやると、慌てて狸に答えました。
「あそこのかちかち山にいる、かちかち鳥が鳴いているんだよ!」
「今度はぼーぼーと音がするけど、何の音だろう?」
「貴様の魂を焼く「お爺ーさーん!?出てこないでって言ったでしょー!!」」
ウサギがお爺さんを説得して元の場所に戻ると、狸は既に背中を大火傷して巣に戻った後でした。
次の日、ウサギは唐辛子と味噌を混ぜたものを持って、狸の巣へ行きました。
「ひどいじゃないか。昨日は死ぬかと思ったよ」
巣に入るなり狸が抗議してきますが、ウサギはしらばっくれて「何のことだい?僕は唐辛子山のウサギだから良く分からないよ」と答えました。
そういうことなら仕方がない、と一応怒りをおさめた狸はウサギが持っている壷は何か尋ねました。
「これは火傷に効く薬だよ。やあ、君も酷い火傷をしているね。薬を塗ってあげようか?
「それはありがたい」と背中を向けた狸に、ウサギは唐辛子たっぷりの味噌をこれでもかと塗りつけました。
火傷の痕に唐辛子を塗りつけられた狸は、悲鳴を上げることも出来ずにその場をのた打ち回りました。
「熱いか、痛いか、苦しいか!その痛みは無情に殺された婆さんの痛み、その苦しみは婆さんを殺された儂の苦しみじゃ!」
「だから出てこないでーー!?」
幸い狸は転げまわっていて気が付いていないようなので、ウサギは全力でお爺さんを遠ざけました。
次の日、杉山で船を作っているウサギのところに狸が現れました。
「とうとう見つけたぞ。昨日はよくもやってくれた」
問答無用の勢いで詰め寄る狸に、ウサギはまたもしらを切り通します。
「何のことかわからないな。僕は杉山のウサギだから君とは初めて会うよ」
そういうことなら仕方がない、と一応怒りをおさめた狸はウサギが何をしているのか尋ねました。
「これから池に行って魚を取ろうと思ってね。良かったら君も行くかい?」
「それは面白そうだ。」
「よし、決まりだ。それじゃ、僕は体が白いから木の船を作っているし、君は体が黒いから泥で船を作りなよ」
ウサギはそれらしい理由をでっち上げて狸に泥の船を作らせました。
船が完成し、狸とウサギは池へと漕ぎ出しました。
池の真ん中までくると、狸の船は泥が溶け出し、ぶくぶくと沈んでいきます。
「うわあ、助けてくれ」
「君はお婆さんを「婆さんは命乞いする余裕すら与えられずに殺された!」どこから出たー!?」
ウサギの叫びを無視しつつ、お爺さんは仁王立ちで狸を見下ろしています。
「く、くくく…。お前はまだ俺が婆を殺したと信じ込んでいるようだな…」
「な、それは一体どういうことだ!」
「うわ、感化されやがった」
狸は沈みゆく泥舟の中で、狂った笑い声を上げながらお爺さんに告げました。
「俺は死体を処理しただけよ…。あのお方は俺など足元にも及ばぬ恐ろしい狸!残念だったなあ、お前の復讐は失敗したんだよ!ヒャーッハッハッハハァ!」
こうして、お爺さんの復讐の旅が始まったのです。
「待っていろ、古狸。必ず貴様を殺し、今度こそ地獄の血の池で狸汁にしてくれる」
「え、ちょっと?第2部始まっちゃうの?ホントに?」
うざったし、うざったし。