語源

それは18世紀後半、フランス南部のとある一地方での出来事だ。

クロード・オ・メーヘン、彼はこの地方の領主であった。

名君と称された父ジャン・オ・メーヘンは領民の信頼も厚く、肥沃なフランス南部の土壌と穏やかな気候も相まって彼の在位中は平和そのものだったという。

しかし、わずか42歳で急逝したジャンの後を継いだクロードは、お世辞にも良い領主とは言えなかった。

生まれて間もなく母を亡くし、ジャンの一人息子として大切に育てられた―それは、裏を返せば少々過保護であったとも言える。

いかに名君と呼ばれても、自分の子供には甘くなるのは無理からぬこと。

領民もまた、ジャンを尊敬しその息子クロードを家族のように思うが故に、余計な苦労を背負わせまいとしたのだった。

そんな父や領民の想いを知ってか知らずか、クロードは領主となった後も写生や散策などで毎日のように領地のあちこちを遊びまわっていた。

彼が放蕩の限りを尽くしても問題が起きなかったのは、恵まれた土地柄と先代ジャンの政策が優秀だったことに尽きる。

しかし、何を思ったのか、クロードが突然自分の館をあたかも城のように改築した時は、流石に領民もあきれ果て、彼に『愛すべき駄目領主』のレッテルを貼り付けた。

なにせ、その城は見てくれだけは立派なものの、実際は安い建材で体裁を整えただけの張りぼてだったのだから。

一地方領主が城を建てるなど一体何事かと政府の検閲官もやってきたが、実際にその粗末な城と領主の評判を見聞きした後は、人騒がせなクロードに苦笑いをして帰っていったものだった。

そんな些細な事件がありつつも、数年は平和な時が続いた。

だが、時代の流れはこの平和な土地を激流となって飲み込もうとしていた。

フランス革命の勃発である。

パリ・バスティーユ牢獄の襲撃を発端とした革命の炎は瞬く間にフランス各地へと飛び火し、政府軍と市民の間で激しい衝突が繰り返されたという。

クロードとその領民は、フランス革命自体に関わる気は無かったものの、広がり続ける戦火は容赦なく彼らに迫っていた。

政府軍は彼らの持つ豊富な食料・資源に目を付け、これを接収する事を決定したのだ。

非常時の接収とは、略奪に等しいものである。

もし収穫の終わったこの時期にそのような略奪が行われれば、民衆は飢えに苦しみ多くの死者を出し、革命が終わっても立ち直るまでに多くの時間を必要とすることだろう。

抵抗か、逃走か、領民は大きな選択を迫られていた。

だが、ここで意外な人物がその才を発揮する。

領主・クロードである。

彼は領民と食料・財産をありったけ自分の城に避難させた。そして、政府軍に対し徹底抗戦の構えを見せたのだ。

政府軍が到着するまでのわずかな期間に領民の避難と防戦の準備を指示する手腕は、あたかも名君ジャンが乗り移ったかのようだった。

その姿は領民に一縷の希望を抱かせたが、それでもまだ不安は大きく圧し掛かっている。

城といえどもそれはクロードが道楽で建てた張子の城だ。政府軍の攻撃にはとても耐えられまい。

政府軍もまた、その思惑は同じであった。故に派遣された兵力は必要最低限で済まされた。

もちろん、一地方領主の館を攻め落とし、蹂躙するには十分な『最低限』ではあったのだが。

いよいよ政府軍がクロードたちのいる城を取り囲んだ時、領民にとっては最悪であり、政府軍にとっては当然の、しかし両者にとって同様の結果を誰もが想像していた。

たった一人、領主クロード・オ・メーヘンを除いて。

彼の自信の根拠は、政府軍の攻撃後すぐに示される事となる。

一撃で破れると思われた城門はビクともせず、その城壁は大砲にすら耐えてみせた。

なんと、検閲官の視察後数年をかけ、彼は張子の城を本物の城砦へと作り変えていたのだ。

政府軍は攻撃の攻め手を欠き、一時撤退を余儀なくされた。

かくして、一人の男によって仕組まれた奇跡は成った。

領民はこのとき初めて『駄目領主クロード』が彼の一世一代の大芝居だった事を知る。

もし政府軍がより多くの物量を持って再攻勢をかけてきたなら、今度こそ彼の城は攻め落とされていたかもしれない。

しかし、結果から言えばそれは起こらなかった。拡大し続ける革命の気運は政府軍を圧倒し、クロードの元へ攻め込むだけの余裕が無くなったからだ。

その後、クロードが父以上の名君と褒め称えられ、平和な時を享受できたのはいうまでもない。

この事件以後、かの地方では悪評を覆すことを領主の城になぞらえ『オ・メーヘン城のようだ』というようになった。

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この言葉が日本に輸入されて『汚名返上』の語源となったわけですよ?

「う、嘘こけーーーー!!壮大な作り話しやがって、だったら『名誉挽回』はどうなる!?」

名誉挽回、その語源は17世紀のスウェーデンで発祥した貴族会である『メイヨゥ・バン会』に端を発する…。

「いや、もういいから」


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